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【ショートショート】れいぞうこ

「いやー、涼しいな。この時期は家飲みに限りますわ。」
「ま、楽にしてよ。ビールでいい?」
「おお、ありがとう。気が利くな。やっぱモテる男は違うね。」
「ははっ、つまみ作るからさ、ちょっと待っててよ。」
「へえ、料理もできんのか。すごいな。じゃあ、スマブラでもして待ってるわ。」
「スイッチそこ、テレビの横にあるから」
「えっと、どこだ、あ、これか。あったわ!」
「それそれ!ま、くつろいでってー」

(*)

「かーっ!やっぱ、夏はビールだな。つまみもうまいし、最高だよ。」
「褒めても何にも出ないよ。」
「こんなにうまいもん食わせてもらってんだ。それ以上はいらねえよ。」
「やっぱり、石井は豪気だね。」
「褒めても何にもでないぞ。」
「ははっ。あ、そういえばサーモンもあった。とってくるね。」
「あっ、マジか。これは褒めたかいがあったな。」
「いてっ」
「どうした?」
「ちょっと冷蔵庫の角に小指ぶつけちゃって」
「意外とドジなところもあるんだな。次は指挟まないように気を付けろよ。」
「ははっ。気をつけるよ。」
「いやー、にしてもいい部屋だな。」
「でしょ?探した甲斐があったよ。」
「しかし、お前が事故物件に住むとはな。怖くないのか?」
「まあ、多少は怖かったけどさ、それでもこの部屋が月3万ならいっかなって。」
「まあ、そうか。いやー、でも、俺だったらちょっとキツイけどな。幽霊とか怖いし。」
「ははっ、ロマンチストだね。もう1ヶ月も住んでるけど、何もないから安心していいよ。」
「ま、幽霊はさすがに冗談だけどさ、それでも人が死んでるってのは気味が悪いけどな。」
「今日はそこに泊まってくんだよ?」
「やばい、ちょっと寒気してきたかも。帰っていい?」
「残念、もう終電過ぎてます。さあさあ、そんなこと気にしないで、今日はとことん飲もうよ。」
「それもそうだな。よし、今日はとことん飲むぞ。」

(*)

「やべ、もう空いちまった。ビールまだある?」
「もう?ペース早いなー。はい、これがラスト。」
「センキュー。しっかし、お前ん家の冷蔵庫よく冷えるな。」
「そうかな?普通じゃない?」
「いや、結構冷えてる方だと思うぞ。」
「うーん、他の知らないからなあ」
「じゃ、ちょっと確かめてやるよ。うちのとどっちが冷たいか」
「そんなん分かるの?」
「大丈夫、俺に任せとけって。ええと、おお、やっぱり冷たいわ!」
「ははっ、何で分かるんだよ。そんなわけないじゃん。」
「本当だぞ。俺の右手が唸ってるんだから。ほら、こんなに震えてる。」
「あっはは、ビール吹き出るよ。ほら、冷気逃げちゃうから早く扉閉めて。」
「何だよ、つれないな。」
「ほら、飲むよ。早く。こっち来て。」
「うるさいな。今行くから待って......」
「......?どうしたの?」
「お前さ、この冷蔵庫電池式だっけ」
「ん?ちがうよ?」
「だよな。これってさコンセント抜いても動くタイプか?」
「いいや?普通のやつだよ?」
「ちょっと来てみろ」
「え、なに?どうしたの?......!これって」
「抜けてんだよ。電源。」
「......いつから?」
「俺は抜いてない。」
「僕も」
「本当か?何か、触っちゃったとか」
「ううん、電源まわりなんて触ってないはず......もしかして」
「心当たりがあるのか?」
「ほら、僕さっき足ぶつけたじゃん。その拍子で抜けたのかも」
「つってもお前、あれ2時間以上前だぞ?冷蔵庫こんなに冷たいわけないだろ。ほら、まだこんな冷たい。」
「そうか、そうだよね。そしたら、僕、なんか触っちゃったのかな......。」
「ああ、そうだ。多分な。多分......なあ、ここが事故物件なのってどうしてだ」
「えっ......。い、いや、まさか、そんなわけ」
「いいから。教えてくれ。まさか、殺人じゃないだろうな?」
「......」
「そうか。どんな事件だ。」
「......分からない。不動産は殺人があったってことしか言わないから。」
「調べるぞ。そんなでかい事件ならすぐ出てくんだろ。えっと、東京、〇〇区、殺人、マンション......出た。これだ。『〇〇区マンションバラバラ殺人事件』」
「ウチだ......。間違いない。」
「なになに。『20XX年X月XX日、〇〇区のマンションの一室に強盗が忍び込み、住人の□□□□さんを絞殺した。犯人は証拠隠滅を図り、□□さんの遺体を切り刻んで冷蔵庫に隠し、現在もなお逃走中である』......」
「......」
「......これがホントの『霊蔵庫』ってか」
「ははっ......笑えないよ」
「......」
「......なあ、何だか寒くねえか」
「......そうだね」
「冷房は———」
「ついてないよ。はじめっから、一回も、つけてない。」
「つけてないってお前、入った時からあんなに涼しかったじゃねえか。」
「うん、僕んちさ、なぜか涼しいんだ。何もしなくてもね。」
「嘘だろ」
「......」
「やばい、寒くなってきた」
「......」
「おい、これやばいぞ。普通の寒さじゃ———」
「......」
「お、おい。新川。大丈夫か。」
「......」
「おい!しっかりしろ!おい!」
「......れ......霊気が......漏れて......」
「新川!寝るな!新川!」
「......」
「嘘だろ......早く......救急車を......手遅れに......な......る......」

(*)

『今朝未明、〇〇区のマンションの一室で、二人の男性の遺体が発見されました。住民から「異臭がする」との通報を受け、警察が駆けつけたところ、腐敗した遺体を発見したそうです。警察は熱中症が原因だとみながらも、他殺の線も含め、捜査を進めています。続いてのニュースです。タレントの石川みかさんが主演映画の舞台挨拶を......』

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