マガジンのカバー画像

知らない街の誰かの物語

14
2駅でさっと読み終えて、7駅分引き摺ってしまう。 夜眠りにつく前に読んで、朝まで眠れなくなるような物語を集めました。 これは、あなたの知らない誰かの物語。 *こちらは全て僕では…
運営しているクリエイター

#短編小説

僕たちはもう二度と、友達には戻れないかもしれない

僕たちはもう二度と、友達には戻れないかもしれない

縛られるのが嫌いだから。
僕たちはそう言って互いに他の人と遊んでた。

別に特別なことはない。それが当然だと思ってたし、別れる時は別れるのだと思ってた。

どれだけ会える距離に居ても、どれだけ互いが暇でも、2人がそうしたいと思うまでは会うことも、ましてや電話をすることもなかった。

彼女との相性はよかった。
身体的な相性以上に、精神的に相性が良く、相手をストレスだと感じることもほとんどなかった。特

もっとみる
あの夜に忘れ物をしてきたから

あの夜に忘れ物をしてきたから

彼女とはバイト先の居酒屋で知り合った。
好きな歌手、好きな曲、性格も大体同じ、味付けは辛口が好みで、嫌いな食べ物は二人ともグリンピースだというところまで同じだった。

そんなだったから、気付いた頃には互いに惹かれあっていたんだと思う。
それでも、互いに「好き」とか「愛してる」の言葉を口にすることはないまま時間だけが過ぎていった。

「ねえ」

少し後ろを歩く彼女のほうを振り返る。バイト先のお世話に

もっとみる
今夜は1人で踊ろう

今夜は1人で踊ろう

役職でしか知らなかった女が目の前に座っている。こちらをみて「ねぇ」と呼ぶ彼女も、きっと僕の名前をフルネームで覚えてるわけじゃない。

これまで出会うことのなかった人種を見るような眼差しで、彼女は僕のこれまでをこれでもかと聞いてきた。自分のことを話すことが苦手な僕にとっては酷く億劫に感じる時間で、普段の何倍にも延ばされた1時間は無限にも思えた。

店内のBGMは徹底してクラシック調で整えられていて、

もっとみる