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「天の川」がいつ古代ギリシアに登場するのか調べてみた

本日は七夕ですが、七夕と言えばやっぱり「天の川」です。英語で言うとMilky Wayで、「乳の道」を意味します。この語はギリシア神話由来であり、銀河の星々は結婚の女神ヘラの母乳と考えられていました。

ゼウスは、自分とアルクメネの子のヘラクレスを不死身にするために、女神ヘラの母乳をヘラクレスに飲ませようとしていた。しかし、嫉妬深いヘラはヘラクレスを憎んでいたため母乳を飲ませようとはしなかった。一計を案じたゼウスはヘラに眠り薬を飲ませ、ヘラが眠っているあいだにヘラクレスに母乳を飲ませた。この時、ヘラが目覚め、ヘラクレスが自分の乳を飲んでいることに驚き、払いのけた際にヘラの母乳が流れ出した。これが天のミルクの環になった​(※Wikipedia「天の川」より引用)

しかし、この神話の出典を探ってみると、ラテン語作家のヒュギーヌス(紀元前1世紀頃)がヒットし、他には見当たりません。「もしかしたら、Milky Way自体、ギリシア人ではなくローマ人の創作なのではないか…?」そんな考えが頭を過ぎりましたので、ギリシア語文献に「天の川」について出てこないか、少し調べてみました。

「天の川」が登場するギリシア語文献

「天の川」は、ギリシア語でΓαλαξίας(ガラクシアス)と言います。Galaxyの語源にもなりました。メジャーな古代ギリシア語辞書である"Liddell & Scott: A Greek-English Lexicon"(LSJ)でこの語を引くと、以下のように、どの文献にこの語が登場したかを確認することができます。

(sc. κύκλος) the milky way, D.S. 5.23, Luc. VH 1.16, Man. 2.116, etc.; in full, γ. κύκλος Placit. 2.7.1, Sallust. 4.

どうやら、D.S.、Luc. VH、Man、Placit、Sallust等に使われているようですね。これは略語なので、ちゃんとした名前に直すと下記になります。

Diodorus Siculus Historicus
Lucianus,  Verae Historiae
Manetho Astrologus
Placita Philosophorum 
Sallustius Philosophus

ディオドロス以外は全員紀元後の人なので、LSJに載ってる限りでは、Γαλαξίαςの登場する最古のギリシア文献はディオドロス「歴史叢書」(紀元前1世紀頃)ということになります。ヒュギーヌスとあまり年代的に大差無いですね…。

The Thesaurus Linguae Graecae(TLG)のデータベースで検索してみても、AD4以降の文献しかヒットしなかったので、一応はディオドロスが最古かもしれない、と結論付けておきます。「天の川」は、古代ギリシアでは比較的新しい観念だった可能性があります。(※TLGに私は課金していないため、テキストデータベースはAbridged版になります。フルデータベースで検索すれば、また新しい発見があるかもしれません)

ディオドロスにおける「天の川」

では、ディオドロスではどういう場面で「天の川」が登場するのでしょうか?5巻23章にて、太陽神ヘリオスの息子パエトンが暴走し、宇宙を焼き尽くす神話に言及した際に、サラッと出てきます。

...καὶ τὸ μὲν πρῶτον κατὰ τὸν οὐρανὸν πλανωμένους ἐκπυρῶσαι τοῦτον καὶ ποιῆσαι τὸν νῦν γαλαξίαν καλούμενον κύκλον, μετὰ δὲ ταῦτα πολλὴν τῆς οἰκουμένης ἐπιφλέξαντας οὐκ ὀλίγην κατακάειν χώραν.
...そして、初めに、天空中を彷徨う太陽の馬車は天に火を付け、「天の川」と現在呼ばれている環を作る一方で、その後に人間たちの住まう地上の多くを燃やし、少なくない土地を焼き払った。(筆者訳)

どうやら、ディオドロスはヘラの母乳説よりも、太陽神の息子パエトンが暴走して作った説を紹介していたようです。当時においては、ヘラの母乳神話は、あまり有名ではなかったのかもしれません。

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