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さすらいのせんしアントニオ

RPGツクールというテレビゲームがあった。ドラクエやファイナルファンタジーのようなRPGを自分で作ることが出来るというゲームだ。興味はありつつハードルは高いなと感じていた僕が最初に買ってプレイしたのはゲームボーイ版だった。

僕が作ったRPGは、『まほうつかいのでし』というタイトルだった。偉い魔法使いの元で魔法の修行に励む主人公。ある日主人公は街までお使いを頼まれて、道具屋に薬草をもらいに行く。しかしお使いから帰ってくると、師匠の魔法使いは悪い魔法使いと戦って、敗れて命を落としてしまう。師匠の仇を打つため、世界征服を企む悪の魔法使いを倒すため、主人公は使い魔の猫と共に旅に出る……そんなお話だった。

そんな主人公が旅の中で出会うのが、『さすらいのせんしアントニオ』だ。主人公たちが訪れる最初の街、その外れ、普通なら行かなくてもいいような画面の端っこにいるのがアントニオだ。見つけて話しかけると彼は言う。

「おれはさすらいのせんしアントニオ。なんだコノヤロウ!!」

言うまでもなく、アントニオ猪木さんのオマージュである。さすらいのせんしアントニオは最初の街で出会ったあと、主人公が訪れる街の端っこにいつも現れる。

「おれはさすらいのせんしアントニオ。わるいまほうつかいをおっているんだコノヤロウ!!」

そう。さすらいのせんしアントニオも自分たちと同じく、あの悪い魔法使いを倒すために旅をしていたのだ。そして次の街、アントニオがいそうな路地裏には1匹の犬が佇んでいる。話しかけると犬はこう言う。

「おれはさすらいのせんしアントニオ。わるいまほうつかいのまほうでいぬにかえられてしまった。……ワンだコノヤロウ!!」

要はこれを言わせたかったのだ。主人公の到達地点によって、最初の街にいたアントニオがいなくなって次の街にいるようにするには、そうなるようにフラグを設定して調整する必要がある。これは非常に面倒くさい。それでもどうしてもこれがやりたかった。こういうしょうもないこだわりに労力を注ぎ込む、創作とはそういうものなのである……とまで言うと言い過ぎかもしれないけど、ほんとそういうものだと思うのよね。

結局、『まほうつかいのでし』は、イベントを設定したりボスの強さを調整したりしているうちにめんどくさくなって完成することなく終わった。誤解を恐れず断言してしまうならば、RPGツクールとはそういうゲームだ。完成までやり切った人なんて1パーセントなのだ。

さすらいのせんしアントニオは最終的に仲間になる構想があった。長い旅の果てにたどり着いた、悪い魔法使いの棲む塔の1階。2階に続く扉の前にアントニオはいる。

「おれはさすらいのせんしアントニオ。このとうのうえにアイツはいるらしい。おれもつれていってくれないか?」

おもむろに登場する、『はい』と『いいえ』の選択肢。『はい』を選ぶと出てくるアントニオのセリフはどうしようかと頭を悩ませていた。これまで通り「なんだコノヤロウ!!」にするか、「いくぞー!1、2、3……ダー!!」と、猪木さんのもうひとつの名フレーズを拝借するか。今思えばそんなところに頭を悩ませる暇があったらさっさと進めろよと思わないでもないが、くだらないことを一生懸命考える時間は楽しかったなと、そんなゲームの思い出話でありました。

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