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『Sci-Fire 2023』編集後記のような何か

 同人誌というものの存在を知ったのは、いつだっただろう。
 そう考えてみて蘇ってくるのは、高校時代に毎月読んでいた『ファンロード』という雑誌の記憶だ。読者からの投稿で溢れかえる誌面を楽しみつつ、あるページを読む時だけ、心の中にもやもやが湧き上がってきた。
 同人募集のページだ。
 その頃の僕は、『ドラゴンランス』に憧れて、ハイファンタジーの小説を書いていた。中学時代のTRPG仲間には、僕に付き合ってファンタジー小説を書いていた友達もいたが、高校に入ると交流はなくなった。今のようにSNSがあれば、繋がり続けられたのだろうが、そういう時代ではなかった。
 高校時代の僕は、同好の士に飢えていたのだろうか。
 そのページには、同じ嗜好を持つ人を募集する言葉が並んでいた。彼らは、作った作品をまとめて、本を作っているらしい。代表者の連絡先が書いてあって、数百円分の切手だか為替だかを送れば、作っている本を送ってくれるとも書いてある。
 連絡を取ったことはない。仲間が欲しいと思いながら、それが自分の創作とどう繋がるのかが、よく分からなかった。単純に、群れることに対する忌避感もあった。男子校という環境もあって、「こじらせ」の熟成期間に入っていたのだ。
 大学に入った後も、文筆系のサークルに入るという発想自体がなかった(学園祭で覗いてみたこともない)し、社会人になってから、新人賞への応募を繰り返し、ホームページを作り、ブログを開設し、小説投稿サイトに作品をアップするようになってからも、同人誌という選択肢は、全く出てこなかった……。


 なんて、長々と同人誌への鬱屈した思いを綴ってみたわけですが、どうしてそんな話を急にし始めたのかというと、先日開催された文学フリマ東京37で頒布した『Sci-Fire 2023』が、僕が初めて制作にがっつり関わった同人誌だからです。
 Sci-Fireは、ゲンロンSF創作講座修了生による同人誌です。今回の『Sci-Fire 2023』は通巻七号で、僕は『Sci-Fire 2022』から参加させてもらっています。
 きっかけは2021年、創作講座同期の友人の一言でした。同じく第二期を一緒に戦った甘木零さんが、その年刊行された『Sci-Fire 2021』から責任編集をされているというのです。その友人が背中を押してくれたこともあり、次の号から参加する約束をさせてもらいました。
 そのあたりから、同人誌への興味がむくむくと湧いてきました。2021年末から2022年にかけて、『たまゆらのこえ: 超短編小説アンソロジーvol.2』『貝楼諸島より』に寄稿させていただき、同じころに『Sci-Fire 2022』へ向けて動き始めました。
 とはいえ、新参者としては、なんとはなしに部外者の感が否めず、結果的に編集に深くかかわることはできず、文学フリマ当日も、仕事を理由に参加を見合わせてしまいました。
 それが、送られてきた『Sci-Fire 2022』を読んで、大きく変わりました。自分が本を作るのが好きだったことを思い出したのです。もちろん、普段の教員の仕事では、学内誌の編集や、顧問を務める文芸部の部誌の編集などに携わってきましたが、それは結局、自分の本ではありません。
 思い出したのは、小学校中学年の頃。それは、まだ小説を書き始める前。友達と一緒に、マンガやイラストやギャグを詰め込んだ手書きの雑誌を作っていました。僕は、コンテンツを作る楽しみの前に、本というモノを作る楽しさを味わっていたのです。

 ということで、今回の『Sci-Fire 2023』では、組版をやらせてもらいました。
 僕好みの誌面にしてしまったことが、吉と出たか凶と出たかは分かりませんが、テキストそのものは読みやすくなったのではないか、と思います。
 なにしろ、ここ数年、老眼が進行していて、小さな文字を読むのがなかなかにストレスで。あとは、二段組みが好きなんですよね。
 それに加えて、今回はスペシャルゲスト、じゅりあさんの挿絵・扉絵があるということで、ヴィジュアルな工夫も楽しかったです。
 のみならず、名倉編さんも自作の扉絵を描き下ろしてくれました。作品の雰囲気ともマッチしていて、レイアウトも気合が入りました。この画風にぴったりのフォントを見つけた時には、快哉を叫びましたね。「Illustration by Amu Nagura」のところ、よくないすか?

 そしてもちろん僕も扉絵を描きました。
 最初のラフはこんな感じ。

 主人公が中学生の女の子で、美術部部長。かわいらしくなりすぎないように、ただ、芯の強さは表現したいな、と。
 で、最終版はこんな感じ。

 いや、中学生に見えない……。
 iPadのAdobe Frescoを使って描いたのですが、直しても直してもしっくりこなくて。髪型を大きく変えたら、絵としてはまとまったのですが、一気にお姉さんになってしまい、修正しきれずタイムアップ。
 それでも、やっぱり絵を描くのは楽しかったです。来年は挿絵も描きたい。

 刷り上がった本を手にした時には、満足感と一緒に、修正・調整したい部分、もっと凝った作りにしたい部分、いろいろな思いが溢れてきました。加えて、文学フリマ当日に色々なブースで拝見した本、購入した本の中には、デザイン的に「やられた!」といった感じのもたくさんあり、「負けたくない!」という気持ちも湧いてきています。
 主役は作品。そのクオリティを上げることはもちろんですが、紙の本というのは、多分にフェティッシュなものでもあります。手に取って、開くことの喜びも演出できれば、最高ですよね。
 ということで、次号『Sci-Fire 2024』では、持ってよし、開いてよし、もちろん読んでよしの、三拍子そろった本を目指したいと思います。
 おっと、まだご購入でない皆様は、以下のサイトからどうぞ。
 めくるめくSFの世界に誘わせていただきます。


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