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お母さん(3~4歳)

母と僕たち兄弟の3人での生活が始まりました。
お父さんと別々に暮らす理由が当時はよく分かりませんでしたが、
それでも寂しさなどはなく平和な日々でした。
母は仕事が忙しく、朝から晩まで働きにでていましたが
幸いにも母は親戚が多く仲が良かったので
皆で協力しながら僕たちの面倒を見てくれていました。

別居してからしばらく経った頃、一本の電話が。
母は真剣な表情でこう言いました。
『お父さんと会うことになったから、一緒に来てくれる?』と。

”お母さんを困らせてばかりいたお父さんと、なんでまた会うんだろう?
僕はこのままでいいと思っているのに。”

出かける準備をしている母の横顔は
どことなく悲しそうでした。

父との待ち合わせ場所は、駅近くにある公園の噴水前で、
すでに父は待っていました。
父は母の顔を見た瞬間に駆け寄って母を殴り倒しました。
倒れた母に馬乗りになって怒鳴り続ける父。
驚きと恐怖でただただ立ち尽くす僕たち兄弟。
なんとか父を振り払った母は逃げるように、その場を去りました。
僕たち兄弟は声も出すことができず、そんな母の背中を目で追うことしかできませんでした。隆の手をギュッと握りながら。

そして僕と隆は、父に引き取られ
そこから僕たち兄弟と父との生活が始まりました。

父と暮らし始めてしばらく経ったある日、父は言いました。
「お母さんは、もうお母さんじゃなくなった。」
その時は言葉の意味が分かりませんでしたが
父と母は、離婚をしたのです。
あの時、逃げるように去って行った背中が、
僕達が見た母の最後の姿でした。


僕と隆は間もなく保育園に入園しました。
他の子達のお迎えに来ているお母さんを見ていつも思っていました。
”いいな…みんなお母さんが迎えに来てくれて…”
そう思うたびに、お母さんに会いたくて涙が出そうになりました。

実は母は僕たちの様子を保育園の外からこっそり見に行っていたそうです。
直接会うことは固く禁じられていたと言っていました。
”今すぐにでも子ども達を抱きしめてあげたい。ごめんね…ごめんね…。”
そんな気持ちでいつも僕たち兄弟を見ていたそうです。

僕はいつかはお母さんが迎えに来てくれる。
お母さんが何もなかったように笑顔で僕たちのもとに帰ってきてくれる。
そう信じて泣きたい気持ちを我慢し続けました。

しかし待っても待っても…
お母さんが僕たちの元へ現れることはありませんでした。

ある日、我慢の限界が来たのか
布団に入った時、ふと涙が止まらなくなりました。
僕は絞り出すように言いました。
「お母さんに会いたい…会いたい…会いたい…」

その時、僕は悟りました。
もうお母さんには会えないのだな…と。

※有料の部分は後日分かったことを追記しています。

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