土曜の2限#05

はじめての二人きりの時間。
この大学を選んだ理由や
好きな音楽の話や
お互いに知らない学生時代の話。
そこで大きな共通点が見つかった。
彼女も好きな、ではなく
尊敬しているアーティストはと言い
それが僕と同じだった。
宇多田ヒカルとX JAPAN。
尊敬している理由もふたりとも
よく似ていた。
日本人でありながら
英詞なども使い、世界的に知られていて
心に染み入り、頭の中で何度もリフレインするメロディ。
そこでどちらからともなく
それぞれのアーティストの
どの曲が一番好き?
という話題に切り替わった。
「正直、選べないよね。」と
困惑した表情を浮かべながら彼女が言う。
「うん、どれも良すぎて選べない。」
と僕も返す。
「でも眠りにつく前って眠ってこのまま目が覚めなかったらいいのにな。ってふと思う時ない?」
と僕が聞くと
「それ、すごくよくわかる。本当に死にたいわけじゃないんだけどね。」
と彼女の顔が綻ぶ。
僕が眠りにつく前に宇多田ヒカルで
一番聴いた歌はー、と言いかけた時。


「ファイナルディスタンス。」
と彼女が言った。
まさにその通りだった。
「もしかして心が読めるの?」
と冗談交じりに聞くと
「だと、したらどうする?」
と不敵な笑みを浮かべる彼女。
「てか、いつまでそこに立ってるの?
そこにソファーあるし、掛けようよ。」
と言われて、立ちっぱなしだったことに
気づいて、言われるがまま座ると
彼女も隣に掛けてきた。
「いま、僕が考えてることわかる?」
そう聞くと
「この人ってこんなに話す人なんだなー。って驚いてるかな?」
まさにその通り過ぎて驚いた。
でもそれは言わなかった。
少し間をおいて
彼女はトートバックからおもむろに
iPodを取り出した。
片方のイヤホンを僕に渡してきた。
なにも言わなかったけど
言わんとすることはわかったので
僕は右耳に彼女は左耳に
イヤホンをつけた。
そしてすぐに何度も聴いた曲が流れた。
「光」
ーどんな時だってずっとふたりで運命忘れて生きてきたのにー
たしかそんな歌い出しだったと記憶している。
それをふたりで聴き終えると
彼女は言った。
「申し遅れました。ひかると申します。」
誰かと
片方ずつイヤホンをはめて音楽を聴く。
なんてしたことがなかったので
何度も聴いたその曲は初めて聴いた
音楽かのように聴こえた。
そして彼女の名前と曲名は同じ。
アーティストの名前までも。
「え、この一連の流れは自己紹介だったの?あ、僕はー」
「ちひろくんだよね?知ってるよ?」
この子は本当に心が読めるのかも
知れない。
彼女にリードされる形で進んだ
初めての会話だった。
それから決まって土曜の2限は
暗黙の了解でふたりでそこで
顔を合わせるようになった。

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