見出し画像

うつ病の人に「頑張れ」などと励ましていけない理由は間違っていた! そんな支援は要らない気持ち

 今回は、うつ病の人に「頑張れ」などと励ましてはいけない理由に関してお伝えできればと思います。

 よくある、うつ病の人に「頑張れ」などと励ましてはいけない理由にも疑問がありますが、「頑張れ」と言ってはいけない根拠も不明確な部分は多いのが事実です。

よくある、励ましてはいけない理由

 うつ病の人を
「頑張れ」
 などと、励ましてはいけない理由としてよくあるのは、

 『ストレスを受けやすい人、うつ病になりやすい人には「まじめながんばり屋」タイプが多く、本人は「がんばらなきゃいけない」「がんばりたい」と思っているのに「がんばれない」。そのため、「がんばれ」と励ますと、相手は一層心を重くしてしまう』

 と、いうのものがあります。

 しかし、本当にそうでしょうか。

 答えはNOです。

 しかも、「真面目ながんばり屋」タイプが多く...とは、マイノリティーの方への配慮がないことからすでに問題があります。

うつ病というもの

 別のコラムでも記事にしていますが、医療関係者が
 「うつ病」
 というのは、通常
 「大うつ病」
 と、いわれる疾病をいいます。

 そして、現在の日本社会で増加しているのは、
 「軽度うつ病」
 「抑うつ状態」
 「新型うつ病」(非定型うつ)
 に分類される疾病群です。
 ※「新型うつ」は疾病として精神医学会から認められていない

 このことから、神経・精神科医療上の
 「うつ病」
 と、一般的に認識されている
 「うつ病」
 で、違いがあることが分かります。

 医療関係者は、このことを認識していると思うので問題ありませんが、認識できてない場合は注意が必要です。

うつ病の診断基準

 うつ病の診断基準としては、
【以下の症状のうち、少なくとも1つある】
1.抑うつ気分
2.興味または喜びの喪失

【さらに、以下の症状を併せて、合計で5つ以上が認められる】
3.食欲の減退あるいは増加、体重の減少あるいは増加
4.不眠あるいは睡眠過多
5.精神運動性の焦燥または制止(沈滞)
6.易疲労感または気力の減退
7.無価値感または過剰(不適切)な罪責感
8.思考力や集中力の減退または決断困難
9.死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図

※上記症状がほとんど1日中、ほとんど毎日あり2週間にわたっている症状のために著しい苦痛または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能障害を引き起こしている。これらの症状は一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコールなど)では説明できない。

 と、いう結構ハードルが高い診断基準になっています。

 重要なのは、症状が2週間以上の期間にわたって認められ、著しい苦痛や重篤な機能障害を引き起こしている点です。

 よくある、抑うつ状態という診断は、2週間以上の連続性や、苦痛や機能障害の程度が不明確であるため、うつ病とはいえないが、うつ病様の症状を訴えている状態といえます。

うつ病の診断の疑問点

 さらに、この診断基準での最重要な点は、
 『一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコールなど)では説明できない』
 の部分です。

 これらは、生化学検査などを実施しなければわかりませんので、それらを実施していないのであれば
 『抑うつ状態』
 以上の確定診断は基準上できません。

 しかし、実際の医療現場はどうでしょうか?

うつ病と「励ましの言葉」の関係

 ここまでで、
 「うつ病」
 と、いう表現が複数の病態像を表していることを、理解して頂けたかと思います。

 少なくとも、私が学んできたなかでは、
 『うつ病(大うつ病)患者の回復期に励ましの言葉をかけてはいけない』
 と、いう限定的なものでした。

 理由を簡単に説明すれば、
 『うつ病(大うつ病)で、希死念慮が認められる患者の回復期は、症状の残存と意欲の増加(症状の改善)から、自殺企図、自死へと至る恐れが高い』
 と、いうものでした。

 しかも、この話し自体も根拠としては、そう考えられる、という程度です。

 例えば、
 Aさんは、車を捨てようと考えていました。
 Bさんは、Aさんと話しをして「車を捨てるのはもったいないよ。改造すれば格好よくなるし、まだまだ乗れるよ」といいます。
 Bさんは、Aさんが相槌を打っていたので理解してくれたと思い、「頑張れ」「必要なら手伝うよ」と、伝えます。
 Aさんは、「ありがとう。じゃあ頑張って改造するよ」と、言います。
 Aさんは、Bさんと別れたあと、結局、車を捨ててしまいました。
 と、言う話なのです。

 エピソードをまとめれば、
 『各々が固有に持つ思考は、外的観察から確認する術がないため、思考の変容が認められたと感じても、その思考そのものが変化したと捉えることはできない』
 と、いうことになるでしょうか。

 記事を書いていて思いましたが、マインドコントロールが実在するなら、是非、薬物治療の代わりに思考を変化させて欲しいなと思いました(汗)
 ※参照:使ってはいけない心理学3 マインドコントロール

 これは、皆さんの人生でも多かれ、少なかれ、あった話しではないでしょうか?

 うつ病の人を励ましてはいけないというのは、この様なエピソードの応用なのです。

 また、うつ病で自死を選択した人に、励まされたことが、どの程度の影響を与えたかを調べる術はありません。

 ただ、人命優先の観点では、とても重要なことですから、専門職として
 『うつ病回復期の人を励まさない』
 と、いうのは遵守していました。

「だったら、励まさないでいいじゃない」の問題点

 「うつ病」と「自死」と「励まし」の因果関係が分からなくても、人命優先なら、励まさなければいい、と思う人もいるかもしれません。

 しかし、神経・精神科領域の疾病はそれほど単純なものではないのです。

 例えば、よくある情報で、
 『うつ病と希死念慮』
 『うつ病と自殺企図』
 を結び付けているのがあります。

 しかし、実際は、希死念慮や自殺企図という症状を呈す疾病はたくさんあります。

 むしろ、ほとんどの疾病で、ケースによっては認められる、横断的な症状であるといえます。

 加えて言えば、神経・精神科領域の治療対象ではない人にもみられる状態であるといえます。

 つまり、
 うつ病回復期の患者に対しては、
 『励まさない』
 のは、人命優先の観点からセオリーだが、
 『希死念慮』『自殺企図』
 の症状を呈す他の疾病群には逆効果である場合もあり、時に病状の増悪から自死に至るケースが存在する、というのが正しい理解かなと感じています。

まとめ

 よく聞く話だとは思いますが、神経・精神科領域の疾病は、個人特性と表現することも多く、それぞれ違いがあります。

 それは、有効な、精神療法、心理療法、薬物療法、対人援助技術なども同様です。

 神経・精神科領域の治療はその特性から、
 『してはいけないことは絶対にしてはいけない、しかし、有効な治療法や関り方は千差万別なため、個人特性をしっかりと把握し、患者自身に適した治療方法を模索し実践することが必要である』
 と、いうのが正しい解かな、と感じています。

 してはいけないこととは、人命優先の観点を無視した行為や、職業倫理上に反する行為になります。
 ※患者の利益の優先及び保護などは職業倫理に記載されています

 神経・精神科領域での医療従事者や支援者の優秀さは
 ・アプローチの手法の多彩さ
 ・アプローチの安全配慮の確実性
 ・アプローチの観察・評価の正確性
 ・アプローチの安定性と継続性
 ・アプローチの寛解までのプロディース
 で、評価されるのではないかと感じています。

 同じ「うつ病」という疾病群でも、
 「励まされるのが嫌な人」
 「励まされるのが嬉しい人」
 「励まされて頑張ってしまう人」
 「励まされて頑張らない人」
 などと、色々な反応があるのです。

 それは、うつ病に限らず、他の疾病群でも同様です。

 要援助者は、ひょっとしたら、こう思っているかもしれません
 「みんな、いつも同じようなことを言う、これならsiriと変わらないな」

 大切なのは、個人の特性と疾病特性を照らし合わせ、病態像を把握し、適した治療手法を模索し実践する、ということなのです。

最後に 

 最後に、
 『うつ病の人に「頑張れ」などと励ましてはいけない』
 と、いう主張で最も危惧していることがあります。

 それは、うつ病=希死念慮・自殺企図となっていることです。

 そして、その様な認識が、
 『希死念慮や自殺企図を訴える、うつ病ではない疾病群の病状を悪化させ、自死に至るケースがある』
 と、いう悲惨なケースの顛末となる要因になるからです。

 これらを特定して、主張していいのか、元専門職者として悩む部分ではありますが、少し考えをまとめてみようかと思っています。

 次回の精神科救急医療2は、そんなケースを題材にして記事にしています。

 うつ病と言われたら、誰も励ましてくれない人生。

 あなたは、
 嬉しいですか?
 悲しいですか?

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 このコラムは私の個人的な知見に基づくものです。他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、生活に役立てて頂けたら幸いです。

【文献】
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
全国健康保険協会HP

いただいたサポートは発達障害や神経・精神科領域の正しい知識の啓蒙・啓発活動や療育サロンの運営費に使わせて頂きます(*^^*) また、年に1回のサポートを活用した活動報告をさせて頂きます。