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吉田塾日記#6【MEGUMIさん】

クリエイティブサロン吉田塾

山梨県富士吉田市、富士山のお膝元でひらかれるクリエイティブサロン吉田塾。毎回、さまざまな業界の第一線で活躍するクリエイターをゲストに迎え、“ここでしか聴けない話”を語ってもらう。れもんらいふ代表、アートディレクターの千原徹也さんが主宰する空間です。第六回のゲストは女優/プロデューサーのMEGUMIさん。

いろんな顔を持つふたり

ふたりの共通点は、それぞれが女優、アートディレクターでありながら、プロデューサーとしての顔を持っているところ。現在進行形で、MEGUMIさんは連続ドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』の企画・プロデュースを。千原さんは映画の監督・プロデュースを。

そんな複数の顔を持つふたりの「想いを実現するチカラ」が語られました。

「好きにやったらええやんか」

先日、カンヌ映画祭を訪れたふたり。誰に呼ばれたわけでもなく、誰に頼まれたわけでもない。“自分の発意”に従って、ふたりはいつも動いている。

千原さんが映画のプロジェクトを立ち上げたのは3年前。思うように進まず、悩んでいたとき「何か手伝おうか?」と言ってくれたのがMEGUMIさんでした。

MEGUMI
そのときの千原さんの姿が印象的で。それまで、何でもやりたいことを実現してきた自由なイメージがあった。“映画監督”に憧れ過ぎていたこともあったのか、映画関係者のことばに押しつぶされて硬くなっていた。そのとき「好きにやったらええやんか」と。

千原
今までデザインの仕事を続けてきて、“映画”というジャンルにはじめて踏み込んだ。すると、プロデューサーが「千原くん、それ違うよ」とか「ここは千原くんの出るところじゃない」とか。そういうことを言われる中で、わけがわからなくなってきた。途中から、「自分でぜんぶやる」と決めた。やり方が合っている、間違っているは関係ない。そうしたら、うまくいきはじめた。

MEGUMI
これからまだチケットの売り方や映画の公開の方法など、新しいプロモーションを考えているようで。千原さんらしさのある“自由に泳いでいる”感じが戻って楽しみです。

「やりたいこと」を明確にする

本来、“女優”はプロデュースのことを考えなくていいポジション。企画を立ち上げ、資金集めをして、人に声をかける稀有な女優の姿。日本では、前例がない。

MEGUMI
プロデュース業をしていると、毎日何かしらの問題が起こる。それを瞬時にジャッジして、クリアして次に行かなければいけない。だから、一つひとつを感情的になってはいられない。

自分でお金集めて、企画出して、たまに落ちて。落とされてもボールを投げ続ける。日本には前例がないけれど、世界の人たちはそういう人がたくさんいる。まだまだやれることはある。

「日本には、大企業がつくり続けてきた仕事のセオリーがある」と千原さんは言いました。それも過渡期に差し掛かり、あらゆる仕事がDX化の波に突入して構造も在り方も変わってきています。一部では、“明治維新”よりも大きく変化するとも言われているほど。その中で、大事なことは「自分は何をやりたいか」を明確にしておくこと。

「これからの時代は、頼まれた仕事を待っているだけでなく、自分で舵を切って、自分で仕事をつくってゆく」。MEGUMIさんはそう言いました。

千原
やりたいことを明確に持っておくこと。広告の仕事は、コロナによって制作予算が1/3くらいに減っている。年間100件つくっていたものでも、単純計算で300件やらなければいけない。そのような状況に振り回されながら、仕事を増やすだけでなく、やりたい方向へいかに進むか。左右されないようにしなくてはならない。

れもんらいふを立ち上げて10年。BtoBでクライアントワークを続けてきたけれど、依頼が来なければ仕事はない。時代の流れに取り残されると、単価は下がるし、案件自体の数も減ってゆく。だからこそ、“自分の発意”でこちらからアクションを起こしてゆく。

「人は動いているモノに目が行く」

「ファッションブランドでも、商品が売れていなくてもパーティーをひらいたり、アレンジをつくったり、“何かやっている”と思ってもらうことが大事だ」と、MEGUMIさん。

何かをやっていると、お声がかかる。それは、たとえ全く関係ない動きであってもいい。プロデュース業をしたり、YouTubeで発信したり、何かしら動いていると目の中に入る。だからこそ、全員にチャンスがある。

MEGUMI
ボールを投げ続けること。ある意味、大変な時代でもあるのだけど。でも、投げ続けていれば、いつか誰かがそのボールを拾ってくれる。

昔であれば、「女優が資金を集めてドラマをつくる」など不可能だった。「芝居にいい影響は出ないよ」と事務所に止められたり、銀幕時代に築かれた文化の名残がある。でも、今はYouTuberやTikTokerの人たちが稼いで、世の中に影響を与えている。選択肢として考えていかなければならない。

「やらない方が、リスクがある気がします」とMEGUMIさんは話しました。

お問合せフォーム最強論

ふたりに宿された根本的な資質。それは、行動力と一歩踏み出す勇気。その原動力は「誰もやってくれないから」だとふたりは口を揃えて言いました。

MEGUMI
「サイバーエージェントの藤田さんとどうやって会ったの?」と訊いたら、「お問合せフォームから連絡した」って。そこが千原さんのすごいところ。普通は「千原さんはいろんな仕事をしていて、知り合いが多いから」と思うけれど、そうじゃない。

千原
みんな「知り合いがいる」と思っているけれど、違う。知らない人には“お問合せフォーム”が最も効果がある。藤田さんのことを知っている人を探せば、いるとは思うんですよ。そこで紹介してもらったとしても「誰?」という話で。だから、お問合せフォームから連絡する方がいい。

想いと気合いの伝え方。知恵と工夫と一歩踏み出す勇気が、人のこころを震わせる。やりたいことが明確で、おもしろいと思ってもらえる企画書を持ってさえいれば。

千原
普通は、お問合せフォームにテキストを打ち込みますよね。そこを、あえて直筆の手紙をスキャンしたものを添付する。するとね、返信せざるを得ない。たとえ、NOという返答だとしても、一度は「ありがとう」というメッセージをくれる。

「企画書」という羅針盤(コンパス)

やりたいことを実現するために必要なのは、熱量と企画書。「企画書は、相手を説得できる道具」と千原さんは言いました。そのために必要なことは、思考や想いを言語化する力。

MEGUMI
日々の仕事に追われていて「やりたいことは何だろう?」と考える時間は、大人にはありません。だから、私は“考える時間”をつくっています。正月の5日間で「自分事業計画書」をつくる。テキスト化して、マネージャーに渡し、年始のミーティングで計画を練る。

タレントとしてバラエティ番組に引っ張りだこだったときから、MEGUMIさんは「女優をメインの仕事にする」と公言していたと言います。他者に周知させる前に、自分で明確にしておくこと。それができていないと、目先のお金や周囲の目に負けてしまって、無駄な動きで消耗してしまう。だからこそ、ことばとして書く。

MEGUMI
「誰か別の人に任せなよ」と言われることがあるけれど、そこはゼロから1への地図になるから、大変なんだけれど自分でやった方がいい。

千原
一度つくると毎回その企画書に立ち返ることができる。新しいことを思いつけば、そこに加えていけばいい。期間の長いプロジェクトほど、迷路にさまよいやすい。でも、企画書が最初の立ち位置に戻してくれる。

「僕が一番重要だと思うのは文章力だ」と千原さんは続けました。デザイン会社では、絵づくりがメインの能力だと思われる。IllustratorやPhotoshopを扱えることは技術の問題。続けていければ、いれずれできるようになる。ただ、言語化能力は教えることができない。やりたいことを文章にして、人に伝える力。それは、自分で磨いていかなければならない。

千原
noteでブログを書いていたり、Twitterで日々の思考を投稿しているとか、言語化する訓練ができていないと人を説得できない。

MEGUMI
あと、発言することも大事。思っていても言わない人が多い。コロナ禍によってオンラインミーティングが一般化したことによって、それが明らかになった。あの画面の中で伝えるって少しハードルが高い。会議なのに6人中2人しか話していない状況が起きたりします。すると「2人だけでよかったんじゃない?」と。だからこそ、「何かを言える」というのは貴重な存在になった。



誰もやってくれないから、自分がやる

MEGUMIさんがプロデュースをはじめたきっかけは、コロナ禍によるステイホームだった。肌感覚で「このままじゃダメだ」と思ったMEGUMIさんは、好きな人たちに声をかけていった。もともと作品づくりやプロデュースに関心があった。「今ならみんな暇かもしれない」と提案すると、みんな快く受けてくれた。

Amazonでグリーンバックを買い、メンバーの家に届ける。そして、自宅で撮影できる一分間のショートドラマをつくった。俳優、イラストレーター、MEGUMIさんの旦那さまも参加した。そのとき、「ゼロから一をつくることがこんなにも楽しいんだ」「できたモノはこんなに愛おしいんだ」と高揚した。

“やったことがない”を成立させると、中毒になる。“自分の発意”の炎が燃え上がっていった。

MEGUMI
あの感覚を味わいたい。だから、「何でも主催する」が大事かもしれないね。いきなり映画やドラマをプロデュースするのではなくとも、鍋パーティーや餅つき大会、誕生日パーティーをひらいたりする。私と千原さんの似ているところは、そういう気質かもしれない。誰もやってくれないから、自分でやる。

千原
そう、「誰もやってくれない」というのがテーマだよね。世の中には、やってもらえている人もいる。でも、僕たちはやってもらえないから、自分がやるしかない。

成し遂げたときの達成感は、主催した人にしか味わえない。

“自分の発意”によって、これから発つ人へ

これからは、自分で自分をプロデュースしてゆく時代。誰かにプロデュースされることはなくなってゆく。そのためには、ふたりのマインドが人生の航海におけるヒントになる。

MEGUMI
待っていたらダメなんです。以前までは、誰かが自分の才能を認めてくれて、引き上げてくれるというのはあったかもしれない。でも、今はない。
自分で企画して、発信してゆく。YouTubeでも、Instagramでもいい。続けていると、必ず伝え方の技術が上がってゆく。発信力はSNSでもリアルでも大事です。

千原
僕も20歳くらいから「映画監督になりたい」と言っていた。当時は、いつかオファーが来るものだと思っていた。日々続けていればそういう機会が向こうから来るものだと。でも、来ないんだよね。

MEGUMI
来ない、来ない。みんな自分の人生に必死だから。私たち、カンヌ映画祭に呼ばれていないのに行ってますから。

千原
カンヌ映画祭も、呼ばれて行くものだと思っているもんね。それも、「呼ばれないから行くしかない」って。

MEGUMI
何があるかわからないけれど行ってみる。すると、いろんな出会いや発見が訪れる。“映画”というフィルターを通して、世界における日本の立ち位置が良くも悪くもすべて見えた。

ビッグパーティをひらき、ドレスアップして人と会い、楽しんでいる世界がある。「コロナが終わったらね」が合言葉になっているこの国は、停滞しているのかもしれない。

この危機感を肌で体感できたことは、大きな収穫でした。

「企画書」という羅針盤を持ったか。一歩踏み出す勇気はあるか。さぁ、“自分の発意”に火をともせ。

ふたりのことばに、そう背中を押してもらえた気がしました。

闘っているひとは、かっこいい。



懇親会は、れもんらいふプロデュースの喫茶檸檬。お酒を飲んで料理を楽しみながら、ゲスト講師や千原さんとも一緒にお話できます。

ぜひ、会場まで足を運んでクリエイティブの楽しさを味わってみてください。



さて、次回の講義は十一月五日。ゲスト講師はさらば青春の光の森田哲矢さんです。

チケットの購入はこちらから(※会場用は完売により、オンラインチケットのみ)。

次々回は、十二月三日。ゲスト講師は、映画監督/CMディレクター/脚本家の犬童一心さんです。

チケットの購入はこちらからどうぞ。会場用とオンライン用、二種類から選べます。


そして、わたしも制作にかかわっている本塾の主宰、千原徹也さんの著書『これはデザインではない』もチェックよろしくお願いします。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。