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匂いと記憶【Last Night オンラインバー vol.18】

Last Night オンラインバー vo.18

いくつかの「自分」が重なって、今の「僕」が生まれている。その深層には根幹としての思想や哲学があり、それを形成するのは「バーテンダー」としての僕だったりする。今は、現場に立つことはほぼないが、20代に体得した「バーテンダー」という概念は、僕自身の主要エリアを構築した。主に「カクテル」の考え方は、創作の基本にある。

「何か」と「何か」を混ぜて、一体化させる。それは単純な風味の足し算ではなく、ファンタジックな掛け算だ。それぞれの素材のポテンシャルを引き出し、立体的に「味」をつくりあげていく。もちろん素材の風味を損なってはならない。素材のキャラクターを理解した上で、相互作用の元に長所は活かし、短所はカバーする。「積み上げた味」ではなく、「ワープした味」が理想的だ。

風味は基本的に「甘味」と「酸味」のバランスでつくられる。アルコールや果実をベースに、状況によって砂糖と柑橘を加えて整えていく。そこに「苦味」を加えると、風味に奥行きが生まれる。それは「西瓜に塩を加えて、甘味にインパクトを与える」といった対比効果のようなものだ。あえて、異なる風味を与えることで、コントラストを生む。料理にインスタントコーヒーをまぶすことで味が立体的になった経験がそのことを教えてくれる。

Bitters

カクテルでは一杯のグラスの中で、そのドラマティックな風味の作用を楽しんでもらえるようにバーテンダーは試行錯誤を繰り返す。意図的に苦味成分を加えて、インパクトと奥行きをコントロールする。何事にも言えるのだが、忘れてはならないのがそのバランスだ。苦味が多いと、それはただの不味い酒になってしまう。

そして、香りにも同様のことが言える。カクテルをより深く知るために僕は「香り」について学んだ。酒の蒸留技術と、精油のつくり方は同じなのだ。香りを知ることは素材を知ること。蒸留技術は、文筆家としての考え方にも強く影響する。「香水」はまさに「香りのカクテル」である。様々な香りの成分を調合して、複雑な「フレグランス」という印象を形成する。

興味深い点は、「良き香り」を生むために調香師はまとまった匂いの建築へしばしば苦味を与える。そう、まさにカクテルと同じ考え方なのだ。「何を着て寝ているのか?」という記者の問いに、マリリン・モンローは「シャネルNo.5」と答えたという有名な話がある。香りだけ振りかけて、何も身に着けないというセクシーでユニークな回答が世の中を賑わせた。その「シャネルNo.5」には汗による体臭などを彷彿させるアルデヒドという「悪臭」のエッセンスが調合されている。それをフローラルや柑橘の香り成分に加えることで、華やかさや心地良さを拡張させる。

Ambient

カクテルと香水から音楽へとイメージを連想させていく。今「Art de Vivre」というユニットで、オンラインCafeBarDonnaではアーティストのカジサキモトキが制作したアンビエントミュージック(環境音楽)を流している。アンビエントに感じるものは、ノイズの調合によって心地良さや自然な状態を生み出す効果だ。一般的な考え方として「音楽」というものはメロディによって美しさを感じる。つまり、「音」からノイズを排除していくと美しいメロディとなる。

さて、ここでカクテルと香水のことを思い出してほしい。カクテルはビターズ(苦味成分)によって奥行きを出し、香水は悪臭のエッセンスによってポジティブな印象を拡張させた。音楽にも同様のことが言い得るに違いない。メロディに良い塩梅のノイズを調合することによってファンタジックな効果を生む。アンビエントは、その大きなヒントとなる。

空気の研究vol.2
【CafeBarDonna DJ Night】

そのような考えの元、「Art deVivre」は空気を音楽で満たし(誘導し)、魅力的な対話を引き出す。今回は、集まったメンバーと「香り」について語り合った。匂いが呼び起こす記憶の数々。思考や記憶は、フィジカルな体験と強く紐づいている。参加者のたなかともこさんが、その日の対話から興味深いnoteを書いてくれた。

カクテル、そしてその香りと記憶の親和性。芳醇で、豊潤な物語がそこにあった。このような美しく、秀逸な文章が生まれる「場」をこれからもつくっていきたい。

※Art de Vivreがプレゼンツする「オンラインCafeBarDonna【空気の研究】」は実験的に、突然開催されます。みなさま、お気軽にお声けください。TwitterのDMはいつでも開放しております。国境を越えて、時間軸を越えて、そしてあらゆるパーソナルな性質(年齢・性別・職業)を越えて、チルな音楽を聴きながら対話しましょう。令和のサロンがここにあります。

【Members】




「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。