若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間 ジョシュ・ミッテルドルフ、ドリオン・セーガン共著 矢口誠訳 集英社インターナショナル

私たち人間は、例外なくいつか死ぬ。

不慮の事故もあれば、重篤な病気に罹ることも、老衰の最期もあり得る。

そして、誰しもがいつか死ぬことを当然の前提に置いて、社会制度や宗教観が形成されてきた。

仮に死ぬことを受け入れる前提がなければ、私たちはもっと不秩序な社会を築いてきただろう。

逆説的ではあるが、死は私たちの社会にとって必要な要素なのだ。

そんなあまりにもありふれた、普遍的な概念さえも疑うきっかけを与えてくれるのが、本書である。

タイトルから分かる通り、死は生物界に於いて、必ずしも約束されたものではないということなのだ。

面白い例として、ロブスターが挙げられていたので紹介したい。

今や、高級食材としてもてはやされるロブスターだが、実はその昔、ロブスターばかり食べさせるな、という刑務所内のデモが起きるほどに、ありふれた食材であったらしい。

19世紀のアメリカはミシシッピ州で、ロブスターが大量発生していたため、行政がこれを捌くために、刑務所の食事に週3回も出していたというのだ。

そんなことが起きたのも、ロブスターが不老であることに起因する。

日本人に馴染みの深い例で言えば、屋久杉だろうか。

樹齢の推定は3,000年を超え、イエスキリストよりも遥か昔から生きていることを考えれば、不老であるといえよう。

それでは何故、人間は数多の例に漏れ、老化するのか。

老化が起こることを反例として、進化生物学の主流とされる個体選択、利己的な遺伝子に盾をつくのが、本書である。

老化は利己的な遺伝子に囚われる着想からは、説明できない現象なのだ。

もし、我々が真の意味で”利己的”なのであれば、「老いないこと」が極めてプライオリティの高い利己性であるからである。

本書によれば、老化は集団選択からみれば必要不可欠な要素であるから、遺伝子レベルで残ってきたのだという。

確かに、年寄りがずっと滞留し続ける社会を考えると、集団としては存続が難しくなるのは想像に難くない。

あまりに扱う仮説、読み解くのに必要な予備知識が多く、多面的であるため、正直なところ僕のような素人には厳しい面もある読書であったが、今のところは進化生物学に明快な体系だった正解がないことを知り、益々この分野への興味が駆り立てられた。

#本 #書評 #ビジネス #進化生物学 #ノンフィクション #サイエンスノンフィクション #科学



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?