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自分の中での“LANDMARK” ~佐瀬悠輔『#1』リリース記念Interview~

群雄割拠の国内ジャズシーンの中でも、ひときわ注目度高まるトランぺッター、佐瀬悠輔

石若駿率いる「Answer to Remember」、矢口史靖監督の映画『Dance With Me』やAmazon Prime配信で話題を呼んだ、三谷幸喜の脚本と演出、香取慎吾主演『誰かが見ている』の音楽を担当した「Gentle Forest Jazz Band」への参加で存在感を放つだけでなく、藤原さくらやNao Kawamuraといったシンガーのサポートでも活躍している。その幅広い活動歴でいつも刺激的な音を届けてきた佐瀬が、いよいよ自分自身の音楽を思う存分解き放った初リーダー作、『 #1 』を2021年3月24日にリリースした。

ギターに小金丸慧(The chef cooks me, Japanese Folk Metal)、ピアノに海堀弘太(ATR band)、ベースに新井和輝(King Gnu, millennium parade)、ドラムスに秋元修(DCPRG)という個性豊かなメンバーと佐瀬にしか生み出せないサウンドを詰め込んだ、今、“絶対に聴くべきアルバム”だ。
今回、充実の初リーダー作をリリースした佐瀬にオンラインインタビューを敢行。
彼の音楽、トランペットのルーツから、今回のアルバムの聴き所まで、色々と気になることを聞いてみた。

小学校の卒業文集で書いた夢が実現


-まずは佐瀬さんの音楽のルーツを教えていただけますか

両親が音楽好きで、幼少期からいろいろな音楽を聴いていました。楽器は幼稚園の時にピアノを習い始め、小学校ではスクールバンドでトランペットに出会い、今に至ります。そのスクールバンドを教えていた先生がトランペットを吹いていて、しかもジャズ好きだった事もあり、その頃からビッグバンドや、父親の影響でフュージョンを聴くようになり…。どんどんジャズにハマっていきました。小学校の卒業文集には「将来ビッグバンドでトランペットを吹いている!」みたいな事を書いていて、今考えるとちゃんと実現してますね(笑)、感慨深いです…。

-小学校の文集で書いた将来の夢が実現するだなんて素敵ですね!
あとスクールバンドがある小学校って珍しいですね

4年生から参加できる金管バンドが小学校にありました。
自分が5年の頃からはマーチング専門の先生が赴任して来たこともあり、マーチングの大会にも出場するようになります。6年生の時には部長となり、バンドも全国大会まで進むことが出来ました。
楽曲もジャズの雰囲気がある曲を沢山演奏していて珍しい学校だったのかなと思います。

小学生時代からジャズに親しむための環境が自然と整っていったわけですね
小学校からジャズトランペットに親しんできた佐瀬さんが、主に影響を受けてきたジャズトランペッターを教えていただけますか

小学生の時にブレッカー・ブラザーズにどハマりしました。だから最初のアイドルはランディ・ブレッカーですね。それからは、どんどんいろいろな人を聴くようになりましたが、自分が大きく影響を受けたのは クリフォード・ブラウンニコラス・ペイトンアヴィシャイ・コーエンアンブローズ・アキンムシーレかなと思います。

・佐瀬が強い影響を受けたブレッカー・ブラザーズの代表曲、“Some Skunk Funk”



-クリフォード・ブラウンから、アンブローズ・アキンムシーレに至るまで、ジャズトランペットの系譜というか、様々な年代のトランペッターの影響を受けていらっしゃるんですね。佐瀬さんのトランペットが多彩なサウンドにフィットするのも、そういった先人たちのエッセンスが染み付いているからかもしれませんね

-地元北海道から、洗足学園大学に進まれて大学時代は「山野ビッグバンドジャズコンテスト」で最優秀ソリスト賞(第44回、2013年)を受賞されるなど大変ご活躍されましたが、学生時代の印象に残る出来事、想い出を教えていただけませんか

自分はトランペットの奏法に苦労してきたのですが、大学4年の時に奏法を矯正するために半年くらい音がまともに出ない時期がありました。
その時はつらかったですね。

-具体的にどういった点を矯正することになったのですか

自分は吹くときに下顎を出して、上と下の歯の位置を揃えて吹いています。
ですが昔は、下の歯の方が前に出るほど下顎を出して吹く奏法をしていました。金管楽器は舌の位置を変えることによって音程を変えているのですが、その奏法だと顎の角度を利用して音程を変えていたことになります。
その奏法というのが顎への負担も大きく、好不調の波も物凄く大きかったので、それを矯正しました。

-口周り、顎に負担がかかるトランペットの演奏ですが、そういった微妙な口の動きで負担のかかり方がそこまで大きく変わるのですね

そうなんです。矯正していた期間、あ、これはトランペットを続けていくのは無理だ、あきらめようって、さすがに思いました。その時の自分に、将来大丈夫だよって励ましてあげたいです(笑)。

-佐瀬さんはもちろん、石若駿さん(ドラムス)や寺久保エレナさん(アルトサックス)、治田七海さん(トロンボーン)、高橋直希さん(ドラムス)、冨樫マコトさん(ベース)など、北海道出身の若いジャズミュージシャンの方々の活躍が活発ですよね。北海道出身の方の近年の躍進の理由は、どういった点にあると思いますか

札幌市内にはジャズのライブハウスが沢山あって、「サッポロシティージャズ」というイベントも毎年開催されていて、ジャズに触れる機会が他の街より多い気がします。他にも「SJF」という小中学生のビッグバンドがあり、大人顔負けの演奏をしてます。駿くんもSJF出身ですね。

あとは家で楽器吹いたり弾いたりできる環境の家庭が多いんじゃ無いかなと思ってます。

広いですから、大地が。

-なるほど、北海道の広大な大地もジャズに好影響でしたか(笑)。でもたしかに近隣の事を気にして練習場所を探すのはひと苦労ですし、思い切り音を出せる自然を含めた北海道の環境というのは貴重ですし、羨ましいです

音楽をより良い方向へ

-佐瀬さんはジャズシーンだけでなく、映像作品やポップスのレコーディングなど幅広いシーンでご活躍されていますが、そういった異なるジャンルで演奏するときにジャズと違って難しいと思うことはありますか

・佐瀬が参加している、藤原さくらの“Twilight”

自分はジャズだけでなく、ポップス、クラシック、ネオソウル…など色々なジャンルの音楽を聴くのが好きで、特に難しいと思ったことはないです。たまに技術的に難しいものはありますが、そこは気合いと神頼みで乗り切っています!!

-気合いと神頼み!
何という強靭な精神力(笑)。
佐瀬さんがリーダー、サイドに関わらず演奏されるときに心がけている事はどういった事でしょうか

トランペットは楽器のキャラクター上、ソロを演奏する場面がとても多いです。ソロっていうのは盛り上がれば良いってものではなく、それまでの音楽の流れや、その瞬間のバンドメンバーとのインタープレイで創り上げて、自分はどういったプレイをしなければならないかを瞬間的に判断して演奏しなければいけません。なので、
音楽の流れを汲んで、音楽をより良い方向に進ませるように意識して演奏しています。

-ソロは見せ場なので、力んでしまいそうなところですが、その感情のコントロール含めて、非常に繊細な状況を瞬時に判断するのは至難の業ですね

-話は変わりますが、佐瀬さんは最近トランペットだけでなく、アコーディオンの演奏活動も積極的にされていますが、どういった経緯でアコーディオンに関心を持ち、魅力を感じているのでしょうか

何度か共演もさせて頂いているのですが、アコーディオン奏者の佐藤芳明さんを初めて聴いた時に物凄く感銘を受けまして…。そうなったらもう、自分もやりたいってなりますよね(笑)。
そのタイミングで丁度お手頃価格のいい楽器がオークションに出ていまして、これは「買いなさい!」って、神様からのお告げだなと思って購入してしまいました。
アコーディオンって、実はテレビを見ていると至る所でBGMなどで使われています。でもBGMを弾くための楽器じゃなくて、素晴らしい音色、音楽性を持った楽器なんです!
みなさん、佐藤さんの演奏を一度聴いてみてください。自分も佐藤さんのようなアコーディオン奏者になりたいです。

-トランペットだけでなく、ますます多彩な活動が広がっていきますね。ライブやレコーディングの参加だけでなく、いつかアコーディオンのアルバムもリリースされるかも!アコーディオンの演奏の方も注目しております

・佐藤芳明さんの演奏動画


ついにリリースした1stリーダー作『#1』

-ついに初のリーダーアルバムをリリースされましたが、制作することになった経緯を教えていただけますか

元々、自分の音源は作りたいとは思っていたのですが、なかなか今まで機会を作れなくて。
ちょうど昨年、コロナ禍で仕事が全くなくなってしまったタイミングがありまして、逆に「今しか無い!」と思い立ち、トントン拍子で進みました。

-コロナの自粛期間中やライブがなくなったこともあって、まだまだ今も大変ではありますが、国内ジャズシーンのアルバム制作はたしかに増加したように思いますし、ジャズファンとしては皆さんのアルバムをたくさん聴けるのは嬉しいです

-さて、今回のアルバムタイトルの『#1』とは、どういった意味が込められているのでしょうか

これは次回作もでるぞ!という暗示です。
と言っておきながら『#2』ではない、
別のタイトルになる可能性もありますが(笑)。

-次回作のタイトル、注目しています(笑)
今回のメンバーとは学生時代から頻繁に共演しているそうですが、どういった経緯でバンドとして活動するようになったのでしょうか

ギターの丸さん、ドラムスの修ちゃんは大学の先輩で、在学中からよくセッションやライブをしていました。
ベースの新井くんはその2人と北海道に演奏しに行った時に一緒に行き、そこから仲良くなって。
ピアノの海堀くんはジャムセッションで一緒になってから、ずっとお願いしてます。

本当に最高なメンバーです!!

・『#1』アルバムトレーラー


-佐瀬さんの作曲のインスピレーションはどういったものから生まれることが多いでしょうか

見た夢から作った特殊な物もありますが(笑)、基本はピアノに向き合って絞り出して作曲します。意外と歩いている時やお風呂の時などの鼻歌からイメージが湧く事もあります。

今回のアルバム楽曲について

-アルバムは佐瀬さんの全曲オリジナルですが、それぞれの楽曲について、どのような表現を意図した曲なのか、また佐瀬さん自身が思う聴き所も教えてください

①ENCOUNTER

お風呂入ってる時に鼻歌で歌っていたアイディアからできた曲です。基本5拍子なのですが、色々な拍子に変換して数えることができます。拍子の移り変わりに注目してもらえると面白いのではと思います。

-お風呂の鼻歌から生まれるとは(笑)!
冒頭の新井さんのベースがダイレクトに腰に響く!
拍子の移り変わりを感じると楽曲の輪郭が明確になってきます

②ESAS

この曲は大変な複合変拍子になっております。変態性を感じて頂ければ(笑)。

-はい、2曲目でさっそくそれをひしひしと感じています(笑)
この変拍子、引き込まれるとクセになりますね

③#4

個人的にお気に入りの楽曲です。パーカッシブなリズムと交互にトレードしていくソロに注目してみてほしいです。

-新井さんと秋元さんが生み出すリズムを土台に、佐瀬さんと海堀さん、小金丸さんがそれぞれのソロを繋いでいく過程がとても格好良いです
個人的にこの曲の海堀さんのピアノの演奏にグッときます

④LANDMARK

この曲はレコーディング直前にできたのですが、自分の中でこの形式の到達点が見えたかな、という思いもあり”LANDMARK “と名付けました。

-徐々に盛り上がっていくような、後半の佐瀬さんの熱いトランペットが印象的です
たしかにバンド全体の演奏も、このアルバムのイメージをよく表しているように思いますし、“LANDMARK”というタイトルも納得です

⑤INTERSTELLAR

僕の楽曲全般そうなのですが、トランペットが吹くとは思えないメロディーラインになっております。

-トランペットのワンホーンって、サックスと比べて圧倒的に少ないですし、大変な部分も多いと思いますが、だからこそ今回のアルバムは佐瀬さんの豊かな表現力が浮き彫りになったのではないでしょうか

⑥MANIFEST DREAM

この曲の冒頭は夢の中で作曲していたものを起きた瞬間書き留めて、そこから発展させました。曲も夢を見ているように場面が次々と移り変わっていきます。

-だからタイトルに“DREAM”が!
小金丸さんのギターも炸裂していますね〜
この曲もそうですが、佐瀬さんの今回のアルバムの楽曲たちは幾重にも音が編まれていて、一筋縄ではいきません(笑)
だからこそ何度聴いても、新鮮な気持ちで耳に入ってきます

各楽曲のご紹介、ありがとうございました!

自分の“最高”を追求したアルバム

-アルバムジャケットもとても印象的です
当初からこのジャケットイメージがあったのでしょうか

デザインを高良真剣くんにお願いしました。自分の中に明確なイメージは無かったのですが、真剣くんと相談しつつ、素敵なデザインに仕上げてもらいました。

-ジャケット裏面の字体、レイアウトも格好良いです

-音質も抜群で、各楽器の音がしっかり捉えられていますが、佐瀬さんからレコーディングスタッフの方へ具体的なリクエストなどはあったのでしょうか

以前、シンガーのNao Kawamuraのレコーディングでのトランペットのサウンドが抜群で、その時にエンジニアをして頂いた種村尚人さんに録音をお願いしました。
サウンドはナチュラルな方向性で、耳で聴いている楽器の音色をそのまま切り取って録音する事を目指しました。
トランペットは自分の好みでリボンマイク一本で録音したのですが、スタジオにあったヴィンテージ4038がまた最高なサウンドでした。

-佐瀬さんのトランペットの生々しい音はもちろん、各楽器の音にエッジがあって、ライブ感あるサウンドがすこぶる格好良いです
さて、それでは最後にアルバムを聴くリスナーの方へのメッセージをお願いします

一聴すると難しいサウンドかも知れませんが、
自分が思う最高の音楽を追求した楽曲達です。ジャズ好きの方は勿論、普段ジャズやインストを聴かない方にも良いなと思って貰える作品になっていると思いますので沢山の方に聴いてもらいたいです。


インタビューは以上です。
佐瀬悠輔さん、ご協力ありがとうございました!
学生時代から苦楽を共にし、厚い信頼関係で繋がったバンドによる、ストロングスタイルのインストゥルメンタルミュージックが詰め込まれた本作、
まだ聴いていない方は今すぐ聴きましょう!!
もう聴いている方はさらに聴くべし!!


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・CD販売サイト

https://t.co/WemX3vPd2P


〈佐瀬悠輔Official Site〉



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