プレッシャーの破壊。日本にマルセロは生まれるのか?
Bom jogo!!(ブラジルの言葉でナイスゲーム!)
ブラジルでは試合前に「良い試合にしましょう」という意味や、試合後に「良い試合でした」と、対戦相手へのリスペクトを示す時にBom jogo(ボン ジョゴ、ナイスゲームの意味)という言葉を使います。
または単純に直訳の意味で「良い試合」という意味で使う事もあります。
2010〜2020までの10年間で我らが日本代表がブラジル代表と対戦した成績は4戦4敗。
1得点14失点となっています。
決してBom jogoとは言えない結果ですが、次の10年でBom jogoを生み出すため、考察を深めていきましょう。
ここでは、ブラジル在住で、ブラジル全国1部リーグのプロクラブ育成部でお世話になっていた筆者の視点や、ブラジル現地メディアの反応などを含めて日本の皆様へフィードバックしていきます。
お互いが改善し合い、努力するのが当たり前の世界で闘う日本代表は本当に凄いなと尊敬しています。
日本サッカーを強くするためには、日本代表選手だけが頑張るのではなく、日本サッカーを強くするために努力したいと考える仲間も増やしていく必要があります。
ここで、日本代表のプレスを破壊したマルセロ選手などを参考に、ブラジルでサッカー指導者をしている筆者からもいくつかプレー解説をしていきたいと思います。
これが日本サッカーの参考になれば幸いです。
【寄せて対角線。サイドチェンジの違い】
日本のSBの選手がボールを持つと、基本的には前を向きますが、あまり無理せずにCBへ返す事が多いですね。
これはこの位置で奪われると危険だからで、決して間違ってはいません。
勿論色んなタイプがいる中での傾向というのが前提の話ですが、ブラジルのSBは対角線のFWやSHにロングボールを狙っている事が多いです。
日本がボールを回しながらSBに付けてパスコースが無いならまたやり直すというやり方が多いのに対して、ブラジルだと意図的にSBにボールを預けて相手をスライドさせ、ワンサイドに寄せたところで逆サイドに展開というやり方を織り交ぜます。
コリンチャンスで2000年の第1回クラブW杯王者に輝いたDF、バタタ監督の通訳を筆者が務めた際にも、この戦術をとっていたのでよく覚えています。
また、サイドチェンジのボールの質も違います。
ここまでの凄技プレーはブラジルでもそうそうあるものではありませんが、しかし傾向としてこういうサイドチェンジの質を狙っているかどうかの違いはあります。
具体的には、日本のサイドチェンジは山なりの柔らかい質のサイドチェンジが多いのが特徴です。
パスコースの間に相手がいる場合など、インターセプトの危険性がある時には有効なサイドチェンジなのですが、いかんせんスピードがないので相手に簡単にスライドを
許してしまい、せっかくの味方に数的優位な時間を与えるという目的が遂行出来ない事があります。
ブラジルだと低く地を這うグラウンダーのサイドチェンジも状況によって使い分けます。
日本のユース年代の代表の子でも、あまり見ないサイドチェンジの質に見入ってしまい、体が止まってしまう事があります。
ただでさえ球足の速いボールで、守備陣のスライドの時間のないパスですから、見入ってしまってはいけないですし、それは頭では分かっているはずなのですが、それ
でも突然だと見入ってしまうのが人間なのです。
【オーバーラップではなくインナーラップ】
この試合で活躍したマルセロ選手が見せたものの1つに、インナーラップがあります。
日本でもよくある、SBがボール保持者の外側を走っていくオーバーラップではなく、内側を走っていくのでインナーラップと呼ばれています。
勿論全くないわけではないですが、日本ではまだまだ多くはないのではないでしょうか(2017年時点)
オーバーラップという固定概念に縛られず、こういったオプションもあっても良いですね。
インナーラップだと、より中央を抉っていけるのでチャンスに繋がりやすいというメリットがあります。
ただもしここでネイマール選手がボールを奪われていれば、日本はカウンターから大きなチャンスを得た可能性が高く、判断を誤れば命取りになってしまいます。
世界最高峰のネイマール選手への信頼と、マルセロ選手の虚をついた上がりのタイミングがあってこそ成し得ました。
ネイマール選手へプレスに行っている日本の選手は、ボールの先しか見えません。
ネイマール選手を相手にしながら背後まで気にするのは至難。
マルセロ選手は視線から消えてボールを受ける事に成功しました。
【戦術的には間違ってないが・・】
前項まででも語った様に、日本のSBはリスク回避で無理せずやり直すのに対し、ブラジルのSBはわざと相手をワンサイドに寄せて対角線ロングパスを狙ったり、インナー
ラップで果敢に仕掛けたりする事が多いです。
どちらが正しいとか間違っているではなくて、日本のやり方も戦術的に1つの正解だと思います。
取り敢えずボールさえ奪われなければ、ずっと攻撃権を握れるわけですから。
ただ、個人的な意見では育成年代だともう少し挑戦、遊んでみても良いのかなと思います。
「奪われそうなら無理せずバックパス」を育成年代から繰り返していて、マルセロ選手の様な"個"を生みだせるのか、少し疑問があるからです。
元々FWやウイングだった選手が大人になってからSBに転向するというのはブラジルでもあるにはあるのですが、それでも日本は凄く多い気がします。
それはやはりSBとして育ってきた子が安パイなプレーしか出来ない様な成長をしてきたため、FWやウイングなどのもう少し挑戦を許されて育ってきた選手が結局はそのポ
ジションを奪っている傾向があるからなのかなとも感じます。
ただ、その大人になってからSBにコンバートされた選手も、本来のポジションではレギュラーを掴めなかったからという様な、消極的なコンバートも多いですね。
最初のうちは守備に慣れず苦労している選手もいます。
「難しい状況だからバックパス」は大人になってからでも出来ますし、育成年代ではもう少し挑戦して創造性あるプレーを出来る選手を育ててはいかがでしょうか。
「奪われなければずっと攻撃権を握れる」も正しいのですが、ただ実際にはいくらバックパスを使ってもいずれはボールは奪われますし、またゴールを決める瞬間というのは多くは相手の虚を突いたりして対応出来ないプレーをした時なので、そんな選手を育てる必要があるのかなと感じます。
SBの所で作った小さなギャップが、そのまま攻め上がっていくにつれて大きな綻びとなり、ゴールに繋がるパターンもあります。
得点力不足が嘆かれる日本ですから、そこはFWの問題だけではなくてビルドアップから意図的に崩していく選択肢も持つ事で、1つの解決策になるのではないでしょう
か。
子供達が失敗する事も間違いないので、我々指導者の忍耐力も試されます。
子供のうちは勝負所を間違えて失敗し、失点に繋げてしまう場面も出てくるかも知れません。
やはりそれは極力避けたいパターンです。
ですが、子供のうちはある程度勝てても、世界のレベルに当たった時にはやはり違いを作れる選手になる必要が出てきます。
そのためには、ほんの少しだけの遊びのエッセンスを加えても良いのかなと感じました。
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