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HSCという心理学の概念による臨床医の混乱


医学モデルなのか?

最近、外来をしていると「うちの子はHSCではないか」と問われることがあります。この質問にはこちらも戸惑いを示してしまいます。なぜならな、HSCが精神医学的な概念ではなく、心理学的な領域から派生した概念であるからです。

それは医学モデルではなく、心理学的なモデルであることから、疾患としての性質を持ち合わせず、本人の特性を表しているからと言えるでしょう。医学的なモデルではれば、その疾患的な構造があり、それを裏付ける理論があり、そこから診断方法と治療法的な議論へと展開するわけですが、HSCは疾患ではないと指摘されていることから、このようなモデルが当てはまりません。ですので、臨床医としてはとても混乱するところです。

 しかしながら、リアルな臨床の現場では発達障害として治療を進めていきたいのですが、HSCという概念が浸透することでそちらに親も子も靡いてしまう事があります。診断方法が確定していない時点で医学的なモデルになり得ないので、臨床の現場ではとても困っている次第です。

HSCと言われて腑に落ちる方もいるでしょう。自分は、うちの子はそうなんだと思う方もおられると思います。それ自体を否定する気はありません。

ただ、このような概念は医学というフィールドの中では扱い兼ねる問題であり、上記の記事のようにHSCと発達障害を鑑別するということが医学的に難しい次第です(この記事の中には発達障害とHSP/HSCは別の障害と書きながら、HSPは病気ではないと書いている矛盾があります)。発達障害も100人いれば100通り違う病態ですし、その程度も人それぞれです。感覚過敏などを持つ方もおられるし、ない人もいます。HSCやHSPのアンケートを一般人口に施行するとどれくらいの人が当てはまるのでしょうか。このようなアンケートは聞かれると自分はそうかもしれないと思う人も多いです。

いずれにしてもHSCやHSPには明確な診断基準(信頼性と妥当性)とその理論的背景・疫学的な情報を明確にしてもらわないと、その後の治療も含めた医学的な議論のフィールドに上がる事ができないでしょう。HSCは病気ではないという理論ですので、治療は必要ないということになるでしょう。

私の言いたいことは、HSCやHSP自体を否定しているわけではありませんが、治療とワンセットで考えていくことをトレーニングされてきた私たちからは病気でない概念が混在してきて苦労している感じです。

医学の世界にも次々に新たな概念が生まれます。仮にその概念が一般化されれば、最初に提唱した人がその第一人者となり、その後の立場が変わってくることもあるでしょう。科学者の功名心とも関係しているのかもしれません。医学の世界はいまも白い巨塔のような世界であり、インナーネットの普及でその戦いの場が医局や学会だけでなく、世界中に広がっているとも言えるでしょう。