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笑いながら君は

終わりたくないものも、全部勝手に終わっていってしまう。

1年前、冷たい手をさすりながら温かい缶コーヒーを求め彷徨った冬の夜。

君の手はいつもカイロみたいに暖かくて、ずっと君の手の温もりに触れることで、温かさだけでなく、君の愛しさを感じ取っていたあの頃。

笑いながら君は「寒いね」って当たり前のことを言うもんだから、不覚にも笑ってしまう私がたまらなくつまらない女に思えてしまった。

好きな人の前では、着飾ることなんてしたくなくて、いつも自然体でいることを心掛ける。いつも自然体の私を受け入れてくれる君に、精一杯感謝をしていた。

缶コーヒーはいつも私の分しか購入しない。その理由は2本買ったところで、私はいつも飲まずに家に持って帰ってしまうから。お金がもったいないから、1本にしようって気づけばそうなっていた。

130円ぐらい良いじゃないって私が言うと、決まって君は「2人の貯金箱に貯金しといてよ」って言う。ずるいなって思いながらも、家に帰るその度に毎回2人の貯金箱に130円を入れていた。

最初は暖かった缶コーヒーも外の空気に触れるたびに、やがてぬるくなり、最終的には冷たくなってしまう。

まるで恋路のようで、凄まじい勢いで燃え上がった恋愛はいつだって燃えきってしまうのが早い。どうしてかはわからないけど、恋の寿命は燃え上がる速度と比例して、燃え尽きる早さも比例していく。

いつもぬるくなった缶コーヒーを2人で半分こ。私があったまった姿を満足げに見て、「次は僕の手を温めてね」って笑顔で言うの。

でもいつも君の手は温かくて温めてあげる必要なんてなかった。最初からわかっていて同じことを繰り返していた君に少しの呆れと愛しさを感じていた。

ねえ知ってた?

今見えている星はもうすでに死んでしまっているということを。

君と出会う前の私はそんなことを知らなかった。

いつも彼から星の物語や名前を聞いて、「なるほどなぁ」って頷いていた。星の光は何光年も掛けて私たちの元にやってくる。

冬の第三角形。オリオン座のすぐ下にいるベテルギウス。ベテルギウスを基点に三角形を結ぶ。左下のプロキシオン。右下にシリウス。3つのどれもが欠けてはいけない。

いつか冬の大三角形も見えなくなるということを知ってしまった。それがいつになるかなんてわからないし、きっと私たち2人はこの世にはいないと言うことだけは確かなこと。

死んでしまった星の輝き。浪漫が溢れるだなんて思っていたけど、死んでしまったということを知った今はもう儚さしか感じない。終わりゆくこと、朽ちていくこと。それがきっと生きたという証明なんだろうね。

今という刹那の中で終わった光を、私たちに届けるために輝くすでに死んでしまった星々。いつかは終わってしまうこと。星の光は私たち人間に、人も死ぬ前に星と同じように輝くということを示してくれているのかもしれない。

星を見つけるたびにあなたがしてくれた星の話を思い出すの。死んだ星の光を浴びること。刹那的な人生を生きているということ。それは神秘的なことなのかもしれない。

笑いながら君はいつも私の知らない星の話をしていた。知らないことを知る喜び。星のことを知れば知るほどのめり込んでいった。

星はやがて消え去るもの。でも君はなんの前触れもなくいなくなったから、成すすべが1つもなかった。

なぜいなくなってしまったんだろう。答えが必要だったのか。それとも理由が必要だったのかなんてことはもうわからない。

恋も人生も変わりたくもないのに、全部勝手に変わっていってしまうから、途端に全てが嫌になり、その度に虚無に包まれた気持ちになってしまう。

星の楽しみ方と君の好きになり方を教えてくれた君。でも君の嫌いになり方は何1つとして教えてくれなかったずるい君。

星を見るたびにあなたのことを思い出しているの。時間が解決してくれるとは言いますが、いつになったら乗り越えられるんだろうね。

今も笑いながら君は、見知らぬ誰かに星の話でもしているんでしょう。

綺麗事がいつか本当に綺麗なものになりますように。

終わってしまった恋がまた自分を成長させてくれますように。

もう死んでしまった星の光に願いを込めて。

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