なないろの橋が架かる瞬間を迎えに行こう。

誰もがなないろの橋が架かる瞬間を待ち侘びている。なないろの橋が架かるたびに、悲しみが晴れた瞬間、努力が報われた瞬間に抱くそれと似ている感覚を抱く。そして、綺麗なものを見て、素直に綺麗だと思えるその感性に少しだけ安堵している。

誰もが目標を抱いた瞬間に、報われるための努力するのだろう。頼りない声を震わせながら、体に纏わりついた重りを煩わしく思いながら一縷の希望がなないろの橋に変わる瞬間を待ち侘びる。だが、努力をしたからといって、すべてが報われるとは限らない。そんな周知の事実が頭の中で鳴り響く。鐘の音が鳴り響いて喜びを噛み締めるもの、鐘を鳴らすもの。どちらになるかは本人の自由で、どんな生き方をするかも本人の自由だ。

文章を書く。毎日書いて、書いての繰り返し。いい原稿を書きたいがゆえに、書けない事実にやきもきする。今日の天気は晴れ。日が沈んで、月が当たり前のように世界を照らし、星が泳ぐ。気持ちよさそうに浮かぶ雲。お前のことなんて誰も見ていない。そんな言葉を投げかけられた気に勝手になって、星に願いを込めた午後20時。

息抜きをしたもののなかなか原稿は進まない。書いて、消しての繰り返し。頭の中はいろんな言葉でぐるぐるしている。苛立ちとも言える負の感情。ああでもない、こうでもないとやっとの思いでひねり出した言葉は、今日もまた満足いくものではなかった。一体どこを目指せばいい。舵きりがうまくできなくなった昨今。目的地すら見失って、引き返すことも選べずに、今日も性懲りもなく、また文章を書き続けている。

書くことに意味はあるのか?それすらもわからない。書く行為そのものが好きだから文章を書いているだけ。それぐらいの理由でいいんだろう。むしろそれ以外の理由は、必要ないのだろう。みたいな感じで、無理矢理自分を納得させながら、溜飲を下げて、今日も今日とて文章を書き続けている。

朝の6時に起きて原稿を書いているのに、納得のいく文章がまだ書けない。眠気を飛ばすために、コーヒーを喉の奥にぐっと押し込む。口の中にカフェインが広がり、コーヒーの苦味がうまくいかない現状とリンクする。しかし、眠気はまったくなくならない。この眠気はいつになったらいなくなるのだろうか。腕をつねっても、家の中を歩き回っても、状況は変わらないまま。またレッドブルに手を出すのか。エナジードリンクは翼を授けるかもしれないけれど、健康にはよくない、と知っているかた今日はやめておこう。

連日の疲れのせいか頭痛と吐き気がする。目の前にあるベッドに飛び込めば問題は万事解決だ。とはいえ、締め切りが近づいている現実からは逃れられない運命。うまく書けない苛立ちは一体どこに向ければいい?うまく書けたときの喜びは誰と分かち合えばいい?答えが出ない問いと、今日も今日とて戦い続けながら原稿と睨めっこをする。

人間は努力が報われなかった話よりも、努力が報われた話を好む傾向がある。バッドエンドの物語よりも、ハッピーエンドの物語の方が見ていて気持ちいい。そして、ハッピーエンドの物語の主人公に、自分を重ねては、そこに向かうために懸命に努力をする。

サクセスストーリーと言えばいいのだろうか。自分ではない誰かの人生。職業柄、仕事で人の取材をする機会が増えた。誰かの人生のサクセスストーリーを書くたびに、この感動は自分のものじゃないと思い知らされる。焦りからの不安。何者かになれなかった事実。何者にもなれないと気づいてからが人生の本番だとするならば、20代前半の僕はまだ人生の本番が始まっていなかったんだろう。

不安、焦り、怒り、憎しみ、恨み、嫉み、悲しみ、苦しみなどあらゆる負の感情を抱えながら、それらを上手に隠しながら誰もが日々を生きている。たまに隠せずに漏れてしまう場合もあるのだけれど、そんなときは自分を甘やかしてやればいい。なんて言葉では簡単に言えるのだけれど、現実はうまくいかず、自己否定を繰り返してばかりで嫌気が差す。

窓の向こうには、常夜灯のように輝く月。そこに手をいくら伸ばしても、到達するどころか手が届かない事実を思い知らされる。地球の自転によって時間が流れ、星が瞬く空は徐々に明かりを取り戻す。綺麗な星は地球が輝いた後もずっと輝き続けているのに、僕たちはそれをずっと見つけられずにいる。滑稽といえば滑稽。未知といえば未知。日中に輝く星を見つけられずにいる事実を気づかない人間は日中に星を探す人間よりは幸せ者なんだろう。

雨が降ったり、風が吹いたり、ときには雷も鳴る慌ただしい空。明日を変えたい。自分を変えたい。そんな一縷の希望と戦いながら、変われなかった事実に、自己否定を繰り返す。

そして、太陽の眩しい光が射すその瞬間に、いままで抱えていたモヤモヤを隠してしまう。きっとすべてが露わになるその瞬間を恐れたのだろう。みっともない姿を晒してこそ一人前。弱さを弱さだろ認められなかったら半人前。一体誰と戦ってるんだろうか。見栄と呼ばれる虚栄心を守ることに価値はあるのだろうか。弱さを見せられない弱さ。弱さを見せる強さ。どちらを選ぶかは自分次第。弱さの定義だとか、強さの定義は人によって異なっていい。

あらゆる負の感情が降り注ぐ空。やまない雨はない、明けない夜はないと、ただ待ち続ける人生もいいだろう。でも虹の待つ場所には、明日に希望を託すのではなく、負の感情が降り注ぐ空の中を駆け抜ける必要がある。ときには何かに縋って、みっともない姿を晒したっていい。書いて書いて書き続けて、なないろの橋が架かる瞬間を、自分から迎えに行こう。

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