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フラれてみたんだよ

「なあ、俺たちもう終わりにしよう」

ずっと終わりのない恋だと思っていた。育んだ愛は突然泡のように消え、君がいた事実がなかったことになる。君が突然告げた別れに、私は動揺を隠せなかった。

「なんで別れたいと思ったの?」

「なんだろう。先が見えないからもう終わらせた方が、ふたりのためだと思ってさ」

「ふたりのためってあんたのためじゃない。私のことを思っているなら、別れなんて考えないでしょ?」

「うーん。でも、もう決めたから俺の決意は揺らがないよ。ごめんね」

1週間前まで、私を「愛している」と言っていた男は、こうも簡単に変わってしまうのか。なにが彼を変えてしまったのかはわからない。でも、終わりを告げた事実はもう変わらないから、なにを言っても無駄なんだろうね。

1LDKのボロアパートで、ふたりは幸せに暮らしていた。平日は朝8時に家をふたりで出て、別々の会社へと向かう。仕事終わりにくる「仕事終わった?」というメッセージが、仕事終わりの楽しみだった。

休日は昼過ぎに起きて、Uberを頼む。お昼ご飯を食べた後は、Netflixで映画を見る。映画に飽きたふたりは、いつものようにベッドへと足を運ぶ。そんな誰もが望むありきたりな休日を過ごしていた。

28歳の私は、君との結婚を真剣に考えていた。同棲までしたんだから結婚がゴールだと考えるのは想定内でしょ。でも、君はちがった。もしかしたら同棲したことによって、考えが変わったのかもしれない。真意はわからないけど、君を変えてしまったのはきっと私だ。

君のために慣れない家事を、必死で覚えたし、君の好きなオムライスも、作れるようになったのにどうしてだろう。「揚げ物は油を固めてから捨てるんだよ」と、面倒くさそうな顔で、油の処理をしてくれる君の優しさが好きだった。ドジで間抜けな私に対して、「ゆっくりできるようになればいいんだよ」と、優しい言葉で諭す当時の君は、どう考えても私のことを愛していたはずだ。

いったい、私のなにがだめだったんだろう?ダメなところがすぐに出てこないところが、私のダメなところかもしれない。別れの理由を君に問い正したところで、納得のいく答えが返ってくるはずがない。だから、君への問いを考える行為を、放棄してしまった私はただの愚か者だ。

君は頑固者だから、1度決めたことは絶対に曲げない。私との恋のときぐらい自分を曲げてしまえばいいのに、なにを言っても、どんなことをしても、君の決意は揺らがないんだろうな。

別れは、突然やってくる。別れの準備を、お互いにしているカップルなんていない。片方の気持ちが変われば、その恋はやがて破綻してしまう。そして、もう片方の気持ちは、ずるずると引きずり続けてしまうのが、失恋のセオリーだ。

あなたが気づかせた恋は、あなたなしで終わっていく。もう2度と、実ることがない思いには際限がない。でも、私はあなたにフラれてみただけだ。あなたは私を振ったと思っているかもしれないが、私はフラれてみただけ。

フラれてみただけなのに、なぜこんな息苦しいんだろうか。君を思い出せば思い出すほど、思い出は綺麗なままで、消えろと願えば願うほど、好きだった事実が私の胸を締め付ける。写真に映るあなたを目で追うたびに、愛しさがこみ上げ、あなたと会えない時間が、あなたへの愛を育んでいく。恋は盲目だというが、好きな人のために盲目になることのなにが悪いのだ。

青かった私の思いは雪に溶けて、なかったことになる。いや、なかったことにしたかっただけだ。私の思いは、まだ雪のようには溶けず、くっきりと残っている。

フラれてみたんだよ。あなたにフラれてみた私がいて、私をフってみたあなたがいるだけ。でも、なぜか涙が止まらない。君の忘れ方がわからないよ。

もう少し。あともう少しだけ、あなたのことを好きなままでいいですか?

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