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たらればなんて存在しないのだけれど

人生に「もしも」があるなら今すぐに使ってしまいたいそんな2人の物語。

「たられば」なんてこの世には存在しないけど、「たられば」を願いたいそんな恋だった。

好きな人のために頑張るという自分だけしか満足できない理由で日々の暮らしを頑張って過ごす。彼女に褒められたいという一心で大学もバイトも成績が1番になれるように努める。

僕は大学1年生で、彼女は事務職のOLとして仕事をしている。出会いは社会人として参加した合コン。社会人だと嘘を付いて、OLとの合コンに足を運ぶ。

社会人の中にいきなり放り込まれたものだから、当然話についていけなくて、誰とも話さず端っこの方で、1人でカシスオレンジを飲んでいた。

「カクテルなんて可愛いもの飲むじゃん」
「いやー、お酒飲めないんですよ。未だにビールの味とかわかんないし」
「大人の味ってやつだからじゃない?」
「それかなり失礼なやつですよ」
「あ、ごめんごめん、君があまりにも可愛いもんだからついね笑」

出会った時から僕のことを「弟みたいで可愛い」と可愛がってくれる君。

合コンの当日はLINEを交換するだけで、なんの発展もなかった。帰り道から始まる君と僕の秘密のLINE。

「ねえ君社会人じゃないでしょ?」

全部君に見透かされていた。大人の余裕ってやつを見せることができなかった夜をただただ後悔した。

合コン後もなぜか僕のことを気に掛けている君。数回デートを重ね、お酒の勢いで、君を抱いた夜も幾度か過ごした。

でも君には婚約目前の彼氏がいたから、普段は会えないし、こちらからも連絡はできない関係性だった。

仕事終わりの電話。1日の終わりにする電話のためだけに、毎日を生きていたような気がする。仕事の失敗やうまくいったこと。彼氏の愚痴や嬉しかったこと。君の性格の話。僕らの将来の話。クリープハイプが好きだということ。いろんな話を君と眠りに付くまで、電話越しでしていた。

彼女が寝落ちするまで切ることができない電話。いつも疲れているのは僕じゃなくて、彼女の方だった。仕事終わりに会いに来る君。僕からではなく、君からじゃなければ、僕らは2人で会うことができない。

君に会えるのならそれでもよかった。でも君の一番になりたかったというのが本音。1番にはなれないと言う現実が僕の胸を抉り取る。

どこに行ってもガキ扱いで、終始甘やかされていた。ご飯もデート代も奢ってもらうことが多かった。ちなみに僕が君に奢ったことはこれまでに1度もない。大人の余裕ってやつをいつも見せられていた。

2人が出会った記念日は会えないから、次の日か前日に君と会う。僕からじゃなくて、君からのお誘いをただ待ち続けるそんな関係。でも会う口実を作れていたから、それで良かった。その方が気も楽だからその方がきっと良かった。

記念日に何が欲しいのかなんてわからないし、社会人が欲しがるものなんてバイト代を貯めないと買えないから、遊びを我慢して、せっせと貯金をする。気の利いた言葉もサプライズもできない僕。それでも嬉しいと言ってくれる君が僕は好きだった。

突然君が口を開く。

「あのね、私来年に彼と結婚するの」

ああそうか。一生僕のものにならないことが確定したのか。記念日にお互いのプレゼントを買うはずが、君と彼の婚約祝いを買うことになった。

来年には結婚してしまう君。君が誰かのものになることを素直に喜べない僕。

「ねえなにが欲しい?」
「うーん。君からもらうものならなんでも嬉しいよ」
「キャラクターもののマグカップなんてどうかな?」
「やっぱりまだまだ考えが青臭いなぁ」
「そうかなぁ。じゃあティファニーのマグカップにしよっか」

僕のプレゼントのセンスにまだまだ青臭いと笑う君。ふと冷静になって考えれば、キャラクターもののお揃いで喜ぶのはきっと大学生までだ。いつになったら君に大人だと思ってもらえるんだろうか。

「君には一生子ども扱いされて終わりそうだね」ってなけなしの笑顔で、精一杯の声を振り絞って君に伝える。

無邪気に笑う君。初めて会った時も君の笑顔にやられたっけ。君からじゃなくて、僕からアプローチを、かけていたことをふと思い出して、「出会った頃しか男らしいところを見せることができなかった」と少しだけ後悔。

君の笑顔をいつまでも守れますように。でも君の笑顔を守るのはきっと僕じゃなくて、僕の知らない君の本命の人。

冬のある日に君がこの街を離れることになった。2人だけの時間も、君を独り占めにできる時間もこれでおしまい。儚くて、でも永遠に続けばいいと願う時間だった。

もう会うことなんてないだろうから、きっと永遠にさようなら。君と過ごした時間は未来永劫に残るけど、虚しくなるだけなら、もうそんなものはいらない。

もしも僕が今社会人だったなら。

君は対等に僕のことを見てくれたのかもしれない。そうすれば君の隣には、彼じゃなくて、社会人で頼り甲斐のある僕がいたのかもね。

「たられば」なんてこの世には存在しないけど、「たられば」を願いたいそんな恋だった。

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