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2025年度ショパンコンクール 簡単な楽曲紹介

ピアニストにとってのオリンピックのような存在、ショパン国際ピアノコンクールが2025年に開催予定です。

課題曲の発表がありましたので、何曲かをピックアップして紹介していこうと思います

フレデリック・ショパン(Frédéric François Chopin)

1 第1次予選

1次予選の前に予備予選もあるのですが、ここでは省略します。

1次予選の課題曲は
・以下のエチュードから1曲
Op10-1
Op10-2
Op25-6
Op25-10
Op25-11(木枯らし)

・以下の曲から1曲
ノクターンより
Op9-3
Op27-1
Op27-2
Op37-2
Op48-1
Op48-2
Op55-2
Op62-1
Op62-2

エチュードより
Op10-3(別れの曲)
Op10-6
Op25-7

・以下のワルツから1曲
Op18(華麗なる大円舞曲)
Op34-1(華麗なる円舞曲)
Op42(大円舞曲)

・以下の作品から1曲
バラードOp23,Op38,Op47,Op52
舟歌Op60
幻想曲Op49

いくつかピックアップして紹介します。

エチュードOp10-1

右手による音域の広いアルペジオのための練習曲。ショパンの作品には珍しいハ長調が選択されているが、実はこの調設定がこの曲を難曲にしている理由の一つでもある。ピアノにとってハ長調は主に白鍵を使うことになるので、手を自然体の形で鍵盤に置けなくなる。大体の方は指を曲げて演奏するのではないか。そしてミスタッチしやすいこと。白鍵は隣り合っているので、どうしてもミスタッチが起こりやすい。この曲が半音下のロ長調、半音上の変ニ長調だったらもう少し難易度が下がったように思える。

エチュードOp10-2

半音階のためのエチュード。音だけを聴いてみたらさほど難しくないように聞こえるが、実は半音階で動く部分は右手の中指、薬指、小指の3本の指でのみしか使えない結構鬼畜な曲。過剰なまでの中指、薬指、小指の酷使はかなりの体力と集中力が求められる。イ短調

エチュードOp25-6

3度のための練習曲。右手が常に3度で動き回っており、ショパンの練習曲の中でもトップクラスの難易度をほこる。ピアノの奏法をこれでもかと突き詰めた結果、このような曲が生まれたのだろうか。嬰ト短調

ノクターンOp9-3

一番有名な第2番とともに出版された曲。しかし作曲語法は第1番、第2番よりはるかに進展している。ロ長調による前半部分の旋律は半音階的で、後半ではロ短調の劇的なエピソードが挿入されている。しかし、曲の構成自体はまだ複雑さを感じさせられないわかりやすいつくりになっており聴きやすい。

ノクターンOp48-1

ショパンのノクターンの中では1番激しい感情を見せる作品。A-B-Aの3部形式で最初のAはいかにもショパンらしい抒情的な旋律。Bはコラール風で2回目のAではテンポを上げ伴奏形態も激しくなる。劇的な表情変化を見せる作品。ハ短調

舟歌Op60

創作晩年期の作品。構成は3部形式でそれほど複雑ではないが、晩年特有の和声の複雑さがこの作品でも表れている。メロディーはほぼ重音で演奏され途中で重音でのトリルも登場し演奏難易度は高め。嬰ヘ長調

2 第2次予選

・前奏曲Op28より任意の6曲。ただし、以下のグループから一つ選ぶこと。
①第7番〜第12番
②第13番〜第18番
③第19番〜第24番

・次のポロネーズから任意の作品
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
ポロネーズ第5番
ポロネーズ第6番(英雄ポロネーズ)
ポロネーズ第1番と第2番

ショパンのピアノ独奏曲から任意の1曲。(前奏曲Op28を全曲演奏することも可)

前奏曲変ニ長調Op28-15

通称「雨だれ」。この前奏曲集の中では1番演奏時間が長い。変ニ長調の柔らかな旋律と、中間部の嬰ハ短調による劇的な部分の対比が目立つ曲。難易度はショパンの中では易しめ。

前奏曲ニ短調Op28-24

前奏曲集を締めくくる曲。旋律はシンプルだが、左手のアルペジオの音域が広い。最後では重音で半音階を下るフレーズが見られ演奏が難しい。ラストは鐘の音のように主音(レ)を3回鳴らして終結する。

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ

ト長調によるアンダンテ・スピアナートの部分と変ホ長調のポロネーズ部の2つの場面で構成されている作品。アンダンテ・スピアナート部では左手はほぼアルペジオになっている。中間部ではマズルカ風のフレーズも現れる。ポロネーズ部では左手によるポロネーズリズムに乗って華やかな旋律が演奏される。ポロネーズの中でも演奏難易度は高め。もともとはピアノと管弦楽による協奏的な作品としてつくられたが、現在ではピアノ・ソロ版の方が多く演奏されがち。

ポロネーズ第5番

ポロネーズの中では一番規模の大きな作品。大きく分けて序奏-A-B-A-コーダという構成でAでは序奏のあと2つのフレーズを繰り返すものになっている。Bではポロネーズでありながらマズルカを採用する創意あふれた部分になっている。再びAが再現されるが短縮された形になっている。短いコーダを経て最後は主音のオクターヴで終結する。嬰ヘ短調

3 第3次予選

ピアノソナタ第2番第3番のどちらか。第1楽章の提示部の繰り返しは行わない。

・マズルカ集より下記のいずれか1つを選び全曲演奏する
Op17
Op24
Op30
Op33
Op41
Op50
Op56
Op59

ショパンのピアノ独奏曲から任意の1曲

ピアノソナタ第2番

第3楽章に有名な葬送行進曲がついたピアノソナタ。すべての楽章が短調で書かれ、全体的に陰鬱な雰囲気が漂う作品。第1楽章はソナタ形式で書かれているが、再現部では第1主題が再現されず第2主題のみが再現されるという、古典的なソナタ形式とは違う書法で書かれている。第4楽章では終始両手で同じ旋律をオクターヴで演奏するという特異な楽章。1分半ほどの短い楽章でいきなり変ロ短調の主和音を鳴らして終わってしまう。ちなみに前奏曲変ホ短調Op28-14もこの第4楽章と同じ書法で書かれている。

ピアノソナタ第3番

ショパン最後のピアノソナタ。構成的な面では2番よりはソナタ作品らしくなっている。こちらでも第1楽章の再現部において第1主題は再現されない。第2楽章はスケルツォだが、深刻な内容の多いショパンのスケルツォの中でも一番軽やかで、諧謔的という言葉が似合う楽章になっている。

ちなみに第2番、第3番があるということは第1番ももちろんあるのですが、第1番はほとんど演奏されません。

マズルカOp17-4

テンポのゆったりしたマズルカで、何よりの特徴は調性が不安定なこと。イ短調とされるが、曖昧な和声でなかなかイ短調を確立しない。終結もイ短調の主和音ではなく、VIの和音第1転回形で終わる。

マズルカOp50-3

ショパンのマズルカの中では規模の大きい作品。主題はカノン風になっており対位法的な書法が目立つ。中間部はいかにもショパンらしいマズルカのリズムが採用されている。嬰ハ短調

マズルカOp59-3

A-B-A3部形式で書かれており、Aは嬰ヘ短調だがハンガリー音階を取り入れていることが特徴。Bは嬰ヘ長調になり、8分音符+16分休符+16分音符のリズムが目立つ部分。

4 ファイナル

幻想ポロネーズ

・協奏曲Op11,Op21のどちらか1作品

幻想ポロネーズ

なんとファイナルでは今までの協奏曲に加え、幻想ポロネーズの演奏が追加された。幻想ポロネーズはショパンの生前最後に出版されたポロネーズ。ポロネーズとは言いながらも、構成的には幻想曲のようなものでポロネーズリズムもあまり登場しない。晩年の作品ではあるので和声は複雑化している。

協奏曲ホ短調Op11

作品番号は若いがこちらの方がヘ短調のものより後につくられた。ショパンのメロディメーカーとしての才能が遺憾なく発揮されている作品だが、オーケストラの弱さが指摘されている部分もある。ショパンコンクールではこちらの方が選ばれがち。

協奏曲ヘ短調Op21

最初に作られたピアノ協奏曲。こちらもオーケストラの弱さが指摘されるが、弦楽器のコル・レーニョ奏法など個人的にはホ短調のものよりショパンなりにオーケストレーションを考えていたように思える。この協奏曲のフレーズがレント・コン・グラン・エスプレッシオーネ(ノクターン第20番)にも使われている。今回のショパンコンクールではファイナリストにこの作品を選ぶ人はいるのだろうか。


大きな変更点としてはファイナルで協奏曲の他に幻想ポロネーズの演奏が追加されたことですね。これはどうなんでしょうか…

オーケストラの拘束時間も増えますし、聴く側もより疲れそうに感じますね。ともあれ今回のコンクールはどのような演奏家が登場するのか楽しみではあります。

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