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スコアを見れば作曲者の考えが浮かぶ⁉

オーケストラのスコアを見ると当時の作曲者がどのような思いでこの楽器を選んだのか、このフレーズは何故この楽器なのか、などと色々考えを巡らせることができます。
そこで今回は私がスコアを見て感じたことを話していこうかなと思います。

トランペットの選択

古典派時代からロマン派中期ぐらいまでのスコアを見ると、トランペットに何の管が使われているかが作曲者それぞれで違うなと思います。

当時のトランペットはナチュラルトランペットといって、今のようにバルブを持たない楽器でした。これはホルンにも言えることですが。

ナチュラルトランペット

なので、今みたいに半音階が演奏できません倍音列しか演奏できませんでした。
例えばC管ナチュラルトランペットを使用した場合は以下の音しか使えませんでした。

C管ナチュラルトランペットが使える。括弧の音はあまり使われません

作品がハ長調の時はC管トランペットを使う。ニ長調の時はD管トランペットを使う、といったように管を使い分けして演奏していました。交響曲など複数の楽章からなる作品は楽章で調性が変わるので、楽章ごとに管の使い分けをしていたわけです。

そういった制約もあり、当時オーケストラの作品を作る際は使用できる調が限られていました。(この時代には変イ長調など調号が多い調はほとんど採用されていませんでした)

ここでベートーヴェン(1770~1827)交響曲第7番イ長調作品92のスコアを見てみましょう。

イ長調なのでA管トランペットなのかと思いきや、使われているのはD管でした。

次にシューベルト(1797~1828)交響曲第8(9)番ハ長調D944はどうでしょうか。第2楽章がイ短調です。

ここではA管を使っていますね。
最後にメンデルスゾーン(1809~1847)交響曲第4番イ長調作品90はどうでしょうか。

第1楽章
第3楽章

第4楽章

1楽章はD管、第3、4楽章はE管を使っていますね。
同じイ長調(またはイ短調)の作品でも、トランペットの管は作曲者によってそれぞれでしたね。

なぜこのように違いが生じるのでしょうか?

私が思うに音色の違いを利用したのではないかと思います。
D管トランペットは管の長さが少し短めです。
管の長さが短いと華やかな音色になりやすいと思います。

ピッコロフルートを比較してほしいのですが、どちらかというとフルートよりピッコロの方が煌びやかな音色を持っていると思います。ピッコロはフルートに比べると管長が短いですから。

フルートとピッコロ

ナチュラルトランペットもB♭管は長くて、F管になればかなり短くなります。
G管やA管トランペットは見たことがないので何とも言えないのですが、管の短いトランペットを使用することによって派手な音色をベートーヴェンは交響曲第7番に求めていたのかなと考えました。

一方シューベルトの交響曲第8(9)番の第2楽章ではA管を使用していました。
緩徐楽章ということもあり、華やか音色のD管、E管は使われていません。A管を使うことで落ち着いた音色をこの楽章では求めていたのかなと思いました。

メンデルスゾーンはD管、E管を用いていることから彼も華やかな音色を狙ったのでしょう。第1、4楽章はわかりますが、第3楽章でE管が使われているのが意外でした。比較的落ち着いた楽章なので。おそらく中間部がホ長調でファンファーレ的な音型を使用していることから、この中間部のためにE管を選択したのでしょうか。

古楽器に基づく演奏ですが第4楽章はトランペット音が強めに出ている感じがあります。
イタリアの舞曲サルタレロというものなので、管長の短いE管を使って華やかな音色づくりを目指したのかなと思います。

あくまで私個人の考察なので真意はわかりませんが、このようにトランペットの管選択も作曲者によって様々であるなと改めて感じたことでした。


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