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『呪術廻戦』を好きすぎるファンが対談してみた~本誌編①怒りも悲しみも呪力に変えて戦え〜

累計発行部数3,000万部を突破し、書店では売り切れが続出、放送中のTVアニメも絶好調の『呪術廻戦』(著:芥見下々。週刊少年ジャンプ連載)。そんな本作を愛してやまないエンタメ業界のふたりが、ファン対談を行いました。

前回の第1回は「単行本・アニメ編」として、今現在アニメ化されている部分までに絞り、作品の魅力を語りました。そして第2回は「本誌編」として、「渋谷事変」編を紐解きつつ、ジャンプ本誌で掲載された最新話まで踏み込んだガチトークを繰り広げます。もちろん最新14巻以降のネタバレがありますので、未読の方はご注意を。かなり盛り上がったので、本誌編は前後編に渡ってお届けします!

SYO:普段は映画ライター。『呪術廻戦』好きが高じ、CREA、リアルサウンド映画部、CINEMOREなどで紹介記事を執筆。Twitter:「@syocinema

桜見諒一(SaR):普段は映画やアニメの宣伝の仕事をしている。昨年から好きな作品についてnote記事を執筆。当初は立て続けに公式マガジンにピックアップされて調子に乗るも、しばらくは凪の状態が続いており、「私は愛する作品に囲まれた私が大好きだ!!良い文章を書こうとしている私が大好きだ!!私は『桜見諒一』なんだよ!!」と心の中で啖呵を切っている。嘘が下手!!
最近はもっぱら『呪術廻戦』のレビューや考察が中心。
Twitter:「@Ohmi_Ryoichi

「渋谷事変」編で描かれた呪術師の生き様、そして真人のヴィランとしての凄み

SYO:ここからはガチ勢向けということで、本誌の話にも踏み込んでいきましょう。前回も充分コアな話にはなったと思うんだけど(笑)。

桜見:まず何と言っても先日終結したばかりの「渋谷事変」編ですかね。全138話のうち56話ありましたから。大長編でしたよね。

SYO:ストーリーが一旦収束するどころか、大変なことになってしまったよね。

桜見:本当に大きな山場だったので、今後の話のキーになるトピックが多かったですよね。虎杖も自分の信念にしていた「人を正しい死に導く」ということが崩れ去って、真人との決着の時に自分はもう「歯車としてただ呪いを殺すだけ」となりました。ある種の諦念というか、『東京喰種 トーキョーグール』で言うところの白カネキ状態というか…。虎杖にとっても、周りにとっても、身体にも心にも大きな傷を残す結果になりましたよね。

SYO:毎週衝撃だったよね。特に驚いたポイントがいくつかあって…やっぱり野薔薇のところかな。嘘だろと思って。

桜見:ヒロインの顔が半分吹っ飛ぶっていう…。しかも最初死んだかもしれないってなって。新の術式も反転術式ではなくて、傷の悪化を止めるまでですからね。恐らく野薔薇は生きてはいるでしょうが、これまで改造人間にされた被害者同様、魂の形を変えられているので、顔の傷跡は治らない…。

SYO:次出てくる時はもう眼帯をしてるってことだよね、多分。顔半分だからもはや布か。前回、『呪術廻戦』を『ダークナイト』以降の作品と言ったのは、この部分も大きい。芥見先生、思い切った決断をしたよね。

桜見:そうですね…あとはナナミン(七海)の死ですかね。

SYO:ああ……(泣)

桜見:noteでも書きましたが、ナナミンは「呪術師はクソだ 他人のために命を投げ出す覚悟を 時に仲間に強要しなければならない」と思っていたにも関わらず、結局そうせざるを得なかった。

ナナミンって、もちろん元々そういう性格だったり、一度サラリーマンを経ているというのもありますが、彼ほど自制できていて、社会人としてパキッとしているキャラって、『呪術廻戦』で他に居ないじゃないですか。自分の抑えるべきところは抑えている。だからこそ本当にあの最期はやるせなくて…。

SYO:そうだよね。実は虎杖のメンターって、五条じゃなくてナナミンなんだよね。やっぱりメンターは心を鍛えてくれるものだから。ナナミンがメンターでトレーナーが五条、ブラザーが東堂って感じ。「幼魚と逆罰」編で、虎杖が「ちょっとナメすぎじゃない?俺のこと」って言った時も、「ナメるナメないの話ではありません。私は大人で君は子供。私には君を自分より優先する義務があります」って言うから納得する。真人との最初の戦いが一旦落ち着いた時、虎杖が「俺は今日人を殺したよ」って打ち明けるのもそう。

「渋谷事変」編では、領域展開して渋谷をめちゃくちゃにした宿儺が「せいぜい噛み締めろ」って言って虎杖と替わって、その直後にナナミンが死んじゃうんだよね。

桜見:虎杖は、「二度と負けない」って覚悟してたのに脹相に負けて、「人を正しい死に導く」っていう信念があったのに、伏魔御厨子で渋谷に「間違った死」を撒き散らして絶望する。「このままじゃ俺はただの人殺しだ」って改めて奮い立とうとしたところで、ナナミンが目の前で真人に殺されて、そして野薔薇も…っていう。

SYO:そこでやっと東堂が到着する。畳み掛け方がすごい(笑)。

桜見:あの時、ナナミンを失ったのは本当に悲しかったんです。でも、それと同時に真人に対して、「本当にすごいヴィランだな。この物語にはお前が居ないとやっぱりダメだ」って思ったんですよね。

SYO:ヴィランだけど、憎むっていうか、「こいつ本当に嫌い」って感じともまた違って。「あぁそうか コイツらはどこまでいっても"呪い"なんだ」って。

桜見:虎杖も言ってるんですよね。「ナナミンなら、怒りで我を忘れるなんてヘマはしなかった。証明しろ。俺は呪術師だ」って。そういうところも含めて、『呪術廻戦』という作品とは、呪術師とは、仲間が死んでいようが、怒りも悲しみも憎しみも全部コントロールして、そういう想いまでも呪力に変えて戦うしかないっていう。以前も書きましたが、「渋谷事変」編では本当に、そういう作品として重要なポイントが描かれましたよね。

SYO:そうそう。タイトルの「廻る(めぐる)」っていうことを突き詰めて描いていて。ここでは深く掘り下げないけど、『僕のヒーローアカデミア』の展開にも通ずるところがあるんだよね。個人的にはそういう意味でも面白かったな。

真人は、『銀魂』の高杉じゃないけど、「俺ァただ壊すだけだ」っていう(笑)。『ダークナイト』のジョーカーもある種そうかもしれないけど。

桜見:「今この瞬間の愉悦のために何が最高のことなのか?」っていうのを突き詰めてますよね。

SYO:でも、最初の「今この瞬間の愉悦」っていうところから、ちょっと進化した感じもあるよね。ナナミンを殺すときも、最期の言葉を聞いたりとか、ある種の優しさがあって、その後に呪いとして覚醒するし。子供のようにただ愉悦だけを楽しんでいた真人が、呪いと呪術師の戦いについての「ペラッペラの正義」の理論を虎杖に授けるまでになってて、成長したなって思ったな。

桜見:分かります。呪いとして「今この瞬間の愉悦」を楽しむのはもちろん、後でもっと楽しんでおく準備をしたり、じっくり楽しんだりすることを覚えましたよね。だから、「俺こそが!!『呪い』だ!!!」なんですよね。

SYO:真人はもう、真人としては出てこないんだよね?夏油(加茂)に取り込まれちゃったし。

桜見:そうですね。「人間」の呪いがまた生まれて来たとしても、その時はもう、真人としての自我はないと思います。漏瑚も死に際に「再び生まれ落ちる時、我々はもう我々ではない」と言ってますし。

SYO:すごいよね。あれだけ散々被害を出したキャラを殺さず、飲み込まれて終わるっていう。


裏梅という「氷使い」登場の衝撃

SYO:「渋谷事変」編では、ラストでの裏梅の登場も衝撃だったよね。

桜見:宿儺と既知の仲で、恐らく側近だったんだろうし、彼の復活のために利害が一致した夏油(加茂)と動いてる感じですよね。今後『BLEACH』で言うところの十刃(エスパーダ)的な、氷使いに対しての雷使いみたいなキャラも出てくるんじゃないかと思いました。

SYO:そう、そのまさに「氷使い」っていうのが!実は今まで『呪術廻戦』では、『ONE PIECE』で言うところの自然(ロギア)系の能力を使うキャラって出てなかったんだよね。漏瑚とか呪いは別として。伏黒の鵺の電撃も副次的なものだもんね。

桜見:いわゆる特殊能力バトルものでベースになったりする、五大元素的な能力ってことですね?

SYO:そう!呪術師とか呪詛師で、五大元素的な術式使いはこれまでいなかった。「ここに来て王道を出してくるのか!」って思ったな。だから、それこそジャンプの特殊能力バトルものを読んでる人はめちゃくちゃ衝撃だったんじゃないかな。京都校の加茂の赤血操術とか野薔薇の芻霊呪法とかって、呪術師ならではの戦いだったんだよね。

桜見:加茂の赤血操術は、『NARUTO -ナルト-』で言うところの血継限界的なところもありますよね。

SYO:そうそう。ルフィのギア2とか、『僕のヒーローアカデミア』のブラドキングとかね。呪術師って、人間が自分の中にあるものを活かして戦うのも多かったから、そこで氷使いが出てきたって言うのが、これから正に十刃のような、五大元素使いみたいなキャラが出てくるんじゃないかと思ったね。

桜見:五大元素系の能力で言うと、漏瑚・花御・陀艮は居ますが、彼らは大地・森・海への畏怖から生まれた呪いですから、直接的に火・木・水を扱う、みたいな能力とはまた違いましたもんね。もっと概念として広かった。

SYO:そうそう。裏梅の術式は、すごく呪いに近い能力なのかもしれないね。宿儺と既知の仲ということは、長い間生き長らえている訳で、人ならざる者の可能性もまだありそう。

桜見:氷凝呪法が氷を使えるから、自分の体内の生命活動を司るものを何か停止させて、生き長らえてる可能性もありそうですよね。

SYO:コールドスリープ的な!ありそうだねぇ。もしくは、宿儺が漏瑚を倒した直後に裏梅と再会した時、一瞬分かんなくて「裏梅か!」ってなってたから、そういうところも含めると世襲制という可能性もあるよね。

桜見:なるほど、宿儺が人間だった頃に知っていた裏梅とは別人ということですね。

SYO:そうそう。「何代目」的な形。そこで一子相伝の氷凝呪法と「裏梅」という名前が受け継がれているのかもしれないし。


虎杖の出生の謎、一番アツいのは宿儺の子孫のパターン

桜見:「渋谷事変」編で分かったことで大きかったのは、どうやら虎杖が脹相の弟のようだというところですよね。

SYO:もし仮に虎杖が人間じゃなくて呪いだとなると、ものすごくエグい展開だよね。人を「正しい死」に導きたかったのに、そもそも人を「間違った死」に導く存在だったっていうことだから。

桜見:106話の存在しない記憶のくだりで、テーブルには呪胎九相図か6つ、脹相・壊相・血塗の3人と合わせると9体あるんですよ。つまり、虎杖が九相図のうちの1体という可能性は低くて、そのパターンは除外できるんです。

色々考えられるんですが、脹相の親が3人ということから、

(1)呪霊の子を孕む特異体質だった女性(脹相の母)の子の場合
(2)脹相の母を孕ませた呪霊の子の場合
(3)加茂憲倫の子の場合
(4)脹相の直接の弟の場合
※(1)〜(3)全てが当てはまる

大きくはこの4パターンだと思うんです。(1)と(2)両方とか、細かい分類はキリがないので、あくまで大きな分類ですが。そういう出生の秘密が、虎杖が天与呪縛のフィジカルギフテッドの真希より身体能力が高かったり、1000年生まれてこなかった宿儺の器としての耐性があったりっていうところにも繋がるはずなんですよ。

SYO:なるほど。第1話、2話から示されている謎の部分だよね。

桜見:そこなんです。既に出ている情報を整理しても、夏油(加茂)は虎杖が宿儺の器になることが分かってたんですよ。第133話で虎杖と真人の決着直前に到着した夏油は、呪霊操術で虎杖を圧倒しますよね。あそこでなかなか倒れない虎杖に「我ながら流石というべきか 宿儺の器 タフだね」って言うんですよ。

その上、第136話で夏油(加茂)が遠隔で無為転変を使った時、「虎杖悠仁のように呪物を取り込ませた者」って言うんですよね。

SYO:つまり、加茂が、今の虎杖を「作った」ということだね?

桜見:そうです。加茂が脹相たちと同じように、虎杖に血を混ぜたかは別として、虎杖が宿儺の指を取り込むことは計算づくだったんですよ。

SYO:両親のことは、最初に亡くなってしまうおじいちゃんが何かを話そうとしていたよね。

桜見:虎杖が遮っちゃいますからね(笑)。やっぱり主人公の出生の秘密は少年漫画の華ですよね。

色々楽しいパターンは思いつくんですが、それこそジャンプ読者が一番テンションが上がるパターンとして、『幽☆遊☆白書』の幽助のパターンがあると思うんですよ。幽助は、両親は人間だけど、先祖が過去に雷禅と交わっていたことによって、魔族大隔世で魔族の血が覚醒するっていう。つまり、虎杖も人間の子だけど、脹相の母親を孕ませた呪霊が先祖だったことによって、真希以上の身体能力とか、宿儺への耐性を得たパターンもあるんじゃないかって。

SYO:死神と滅却師の間に生まれた…。

桜見:そうそう一護もね(笑)。ただその場合、第1話の杉沢病院での事件まで、虎杖が呪霊が見えなかったのは何故なのかっていう、新たな謎も生まれてしまいますが。

SYO:そういうことができるかどうかは置いておいて、宿儺とエンカウントした時に血が覚醒する仕掛けだった、ということもあるかもね。

桜見:もしくは、虎杖が宿儺の子孫というパターンもあるかもしれませんね。宿儺は元々人間だったわけですし。正に幽助と雷禅ですね。そうなると、家系を辿ればいいので、虎杖が宿儺の器たりうることを加茂が知っていたことにも繋がります。加茂が血を混ぜてコントロールしやすくするとか、何かしたかもしれませんし。

SYO:今話を聞いてて、宿儺の子孫パターンが一番テンションが上がる気がした(笑)。だって、宿儺の子孫である虎杖が最後に死ぬと終わるんだよ。そうなると、『呪術廻戦』というタイトルへの結論になるじゃんって。

桜見:「"廻る戦い"が終わる」ということですよね。

SYO:そうそう。「もう廻らないよ、だってもう最後の器である俺が居なくなるんだから」って。先祖の不始末を子孫が片付けるという感じは、非常に腑に落ちる。


宿儺の指以外はどこに?術式の謎から今後の展開を予想する

桜見:五条の過去編はもうやりましたけど、更なる過去というか、宿儺が人間だった頃のパートも今後ありそうですよね。

SYO:うんうん。

桜見:宿儺って、呪術全盛の時代に呪術師たちが束になっても敵わなかったんですよ?屍蝋になった遺体すら壊せなくて、死後呪物になった。宿儺は自分の魂を「切り分けた」って、ヴォルデモートを彷彿とさせるセリフを言っていましたが(笑)。

SYO:分霊箱ね(笑)。

桜見:そうそう(笑)。まぁそれは置いておいて、破壊できなかった指以外の部分ってどこにあんの?っていう話なんですよ。

SYO:日本の伝承で「ダイダラボッチ」ってあるけど、あれがまさにそう。身体が切り分けられて色んな場所に埋められている。それがあるカルト集団に繋ぎ合わされた時に、スタンドのように引き合ってしまうっていう。

それこそ『呪術廻戦』と共通点も多い『青の祓魔師』の不浄王もそうだよね。各パーツを合わせたら復活するぞ、みたいなのは宿儺でも大いにありうる。指以外の屍蝋の残りを祀ってる教団みたいなところがあって、ひょっとしたら裏梅はそこの所属なんじゃないかとか。

桜見:裏梅が坊主の法衣を着ているのも、そういうのを祀っている寺なり密教なりに居るとかもあるかもしれませんね。

SYO:そうそう。ワクワクするね(笑)。

桜見:さっきの「魂を切り分けた」という話にも繋がるんですが、宿儺の術式はまだ分かりませんが、斬撃は2種類あって、「捌」は魂の形ごと斬れるんじゃないかと思うんです。となると、自分の魂を切り分けるのにも使った可能性が高いですよね。魂の形を変えられるなら、そういう応用も出来るはずだから。

SYO:そう考えると、術式は真人の上位互換ということになるよね。呪いとして格上だから無為転変が効かないとも考えられるけど、術式が上位互換だから跳ね除けられたという考え方も出来るよね。そうなると、何かしら魂に関わる術式なのか……。肉体が先か魂が先かどっちか、っていう真人の話にも繋がるし。でもそれ、宿儺が頑張れば全部OKってことになっちゃう(笑)。

桜見:それで言うと、第12話の映画をひたすら観る修業パートの時、虎杖は今は何の術式も使えないけど、「そのうち君の体には宿儺の術式が刻まれる」って五条がモノローグで言ってるんですよ。だから、虎杖はいずれ宿儺の術式を使えるようになるんです。渋谷事変を経て、一部使えるようになっている可能性もあるけど。

SYO:それアツいね!最新の第138話で「俺はもうみんなと一緒にはいられない」って言ってたけど、反転術式で治せなかった人を治せる術師になったら、そこに存在価値が生まれるし。それで野薔薇も東堂も棘も治せるかもしれないし。全員治したところで、加茂と決戦みたいになったら激アツだよね。宿儺の術式が魂に干渉できるって言うのは、非常にしっくりくる解釈。そういう優しい展開の可能性もあるよね。

桜見:なんたって呪いの王ですからね。ちょっと希望的観測すぎるかもしれないけど…。

SYO:もうちょっとハードな終わり方をする可能性も全然ある。

桜見:虎杖も宿儺もまだ謎は全然描かれてないですから、ここからどういう展開をしていくか楽しみですね。

(次回も引き続き、「本誌編」のガチトーク!今後の展開予想を更に掘り下げていきます!ご期待ください)

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※2021/04/04(日):知人から「SYOさんとPNが被っていてどちらがお前か分か李づらい!」と言う指摘をいくつか受けたこともあり、「SaR」からライター名義の「桜見諒一」に修正しました(笑)

※引用元

・「呪術廻戦」0〜14巻

・週刊少年ジャンプ2020年45号〜2021年11号「呪術廻戦」

・「呪術廻戦」公式Twitter

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