『呪術廻戦』を好きすぎるファンが対談してみた~本誌編②混沌の中で、黒く輝く答えを見出せ〜
累計発行部数3,000万部を突破し、書店では売り切れが続出、放送中のTVアニメも絶好調の『呪術廻戦』(著:芥見下々。週刊少年ジャンプ連載)。そんな本作を愛してやまないエンタメ業界のふたりが、ファン対談を行いました。
これまで2回に渡って作品を語ってきましたが、今回は最終回!「本誌編②」として、引き続き単行本発売前のジャンプ本誌の内容に踏み込んだガチのじゅじゅとーくをお届けします。もちろん最新14巻以降の本誌のネタバレがありますので、未読の方はご注意を。
SYO:普段は映画ライター。『呪術廻戦』好きが高じ、CREA、リアルサウンド映画部、CINEMOREなどで紹介記事を執筆。Twitter:「@syocinema」
桜見諒一(SaR):普段は映画やアニメ宣伝の仕事をしている。昨年から好きな作品についてnote記事を執筆。当初は立て続けに公式マガジンにピックアップされて調子に乗るも、しばらくは凪の状態が続いており、「私は愛する作品に囲まれた私が大好きだ!!良い文章を書こうとしている私が大好きだ!!私は『桜見諒一』なんだよ!!」と心の中で啖呵を切っている。嘘が下手!!
最近はもっぱら『呪術廻戦』のレビューや考察が中心。
Twitter:「@Ohmi_Ryoichi」
虎杖と宿儺の縛り「契闊」発動が、五条復活のタイミング?
SYO:まずは「本誌編①」に引き続き、虎杖と宿儺の今後についてをもうちょっと話していこうかなと思うんだけど、「渋谷事変」編で、虎杖が大量に指を取り込んだのはびっくりしたな。漏瑚がかなり入れたよね?
桜見:まず、「渋谷事変」編までに虎杖は最初の1本、宿儺の指を集めるという決意の時に1本(1巻1、2話)、少年院で死ぬ直前に1本(2巻第8話)取り込んでいます。そこから少し期間が空いて、八十八橋で伏黒が倒した特級から取り出したものを1本と(8巻第63話)、計4本の指を取り込んでいました。
その後「渋谷事変」編では、菜々子と美々子が最低でも1本、漏瑚が一気に10本取り込ませた(第13巻111話)ので、虎杖は少なくとも今15本の宿儺の指を取り込んでいるんですよ。双子が何本取り込ませたかにもよりますが、話の展開的にも、宿儺への加茂殺しの条件として菜々子が残り1本の指の在処を知っていると言っていることからも、少なくとも全部は取り込んでいないはず。
SYO:ペースがさ、早いよね。
桜見:4本だったのが、一気に15〜19本っていうのは驚きですよね。14巻の表紙が宿儺が手を伸ばしている先に指が4本ある構図だから、これが「残り4本」という暗示なのか…。それとも表紙の宿儺の両手の指10本と合わせて14で、単純に「14巻」を表しているのかとか、色々深読みしてしまいました(笑)。
SYO:(笑)。このペースで行くと意外と『呪術廻戦』って結構早く完結するんじゃないかと思う。3/4(木)に15巻が発売で、30巻いかない辺りで完結するんじゃないかな(本対談は2/27の「漫道コバヤシ」放送前に実施しました)。
桜見:そうですね…毎回何かあるごとに僕らファンは、「これって意外と早く終わるかも?」「いやいやでもまだ描かれてないこととか伏線も沢山あるし…」って毎週一喜一憂してますよね(笑)。
SYO:(笑)。
桜見:虎杖と宿儺で言うと、描かれていないことの一つとして、二人の間の縛りについての話がありますよね。虎杖が少年院で一度死んだ後、生き返るときに宿儺と交わす、「契闊」と唱えたら1分間体を明け渡すというやつです。今後、宿儺があの縛りを最悪のタイミングで発動させそうな気がしてならないんですよね…。
条件の中で、「契闊」で体の主導権を得ている間、宿儺は誰も殺さず、傷つけもしないっていう縛りもあるんです。だから、恐らくは「何かをする」というタイミングでの発動の仕方じゃないとは思んうですよね。つまり、虎杖は仲間を助けたいのに、宿儺に体の主導権が奪われたことで見殺しにしそうになるみたいな、「何かをしない」時。
SYO:あの縛りのことは、もう一つの条件で虎杖は覚えてないんだよね。でも五条は、死んでいる間に宿儺と何か話さなかったか虎杖に確認してて、何かあったことを察してる。だから、桜見くんの言うように、良くないタイミングで「契闊」が発動され、宿儺に体の主導権を奪われた虎杖を止めるために五条が復活してくるかもね。
桜見:それはアツい展開ですね。
SYO:そういう意味でも、やっぱり五条がいつ復活するかは気になるよね。物語の作り方として、五条っていう「最強の呪術師」を出してしまった以上、それを超える強さのキャラを出すか、何かしらの力で弱体化させるかしかない。そこに獄門疆が出てくるのは上手い作りだよね。その獄門疆は夏油(加茂)が持ったままだし。下手したら最終決戦まで、五条先生は復活しないかも…?
桜見:最強キャラだけに、「五条が出てくればなんでも解決」だとつまらなくなってしまうのが難しいところですよね。高専時代のナナミンも言ってましたが、「もうあの人1人で良くないですか」ってなっちゃう。一度封印されたからには、ちゃんとした出てくる理由がないと。
SYO:要所要所で『呪術廻戦』がワクワクする王道展開を入れてきたことを考えると、主人公が絶望したタイミングで復活するとかね。
桜見:虎杖は「渋谷事変」編でも散々絶望しましたけど、まだまだ絶望するんでしょうね…。
虎杖vs伏黒、ライバル対決が実現した時「自分が助けた人間が 将来 人を殺したらどうする」の答えが出る
桜見:他に絶望するとしたら、例えば伏黒と戦わなきゃなくなって葛藤の末…とかですかね。『呪術廻戦』はここまでオリジナリティはしっかり保ちつつ、少年漫画の王道もしっかり踏んできたので、主人公とライバルの対決は絶対やると思うんですよ。一護と雨竜然り、ナルトとサスケ然り。
SYO:あー、それは確かに!結構その二組よりは、日常でも仲良いけど。
桜見:芥見先生も、普段から無理に喧嘩させるとスベると思ったそうですね。そんな二人がなんで争うかって、伏黒の姉の津美紀のことしかないと思うんですよ。長らく謎だったところ、「渋谷事変」編ラストで目を覚ましましたが。
SYO:あの時、なんてエグい目の覚まし方をするんだと思ったよ!
桜見:夏油(加茂)が言っていた、虎杖みたいに呪物を取り込ませられたのか、それとも順平みたいに脳の構造をイジられたのか、どっちかはまだ不明ですが…。前者の場合、津美紀が虎杖のように、呪物を取り込んでも自我なり元の人格なりを保てる保証はないわけですよ。
SYO:確かにね!
桜見:津美紀が人に害を与える者になってしまった時、もちろん伏黒は呪術師としてではなく、自分の感情を優先して彼女につくと思うんです。伏黒は「不平等に人を助ける」し、津美紀が誰よりも幸せになるべき人だと思っているから。
虎杖は、渋谷事変が起こる以前でまだ矜持が固まっていなかった時なら、多分感情を優先して伏黒サイドについて、どうすればいいか考えていたと思うんです。でも真人との決着で、歯車のようにただ呪いを殺し続けるのが呪術師という考えになった今の虎杖にとって、人に仇なす存在になった津美紀は、恐らく殺す・祓う対象になってしまう。もちろん葛藤はするでしょうが。
SYO:そうなったらもう、「呪い合うしかないですよね」。
桜見:そう!そこで一番最初の宿儺受肉の時も、少年院のくだりでも、伏魔御厨子で大量殺人をしてしまった時も、そして第138話でも出てきて、まだ解決していないことに繋がるんです。
自分が助けた人間が 将来 人を殺したらどうする
虎杖と伏黒が津美紀のことで戦うとしたら、その一つの答えが出ると思います。
虎杖vs乙骨、主人公対決は不確定要素が多すぎて楽しみ
SYO:津美紀の復活もだけど、現時点でこの物語がどう終わっていくのか全く読めない広がり方をしてるよね。本当に毎週ドキドキしながら本誌を読んでる。虎杖の死刑執行人とはいえ、乙骨も再登場したし。
桜見:乙骨と虎杖の対決、僕は今後の展開では一番楽しみですね。本編の主人公と前日譚の主人公がぶつかるのはアツすぎます!第139話で、いきなり虎杖・脹相・直哉・乙骨が「禪院集合!」しましたけど(笑)。
SYO:「ぬるっ」ってやつね(笑)。
桜見:虎杖が一瞬五条と勘違いするほどの乙骨の呪力!もう最高の登場でしたね。しかも虎杖は、以前と比べてある意味悲しいくらい術師として強くなっている上、前回でも少し触れた通り、既に宿儺の術式を一部使えるようになっているかもしれないですし。
SYO:乙骨はまだ術式も明らかになってないもんね。
桜見:そうなんですよ!noteでも考察を書きましたが、里香の解呪後「リカ」になって力の使い方も0巻の頃とは変わっていると思います。剣術についても、真希から教わった呪具としての扱いを自己流で昇華させているのか、それとも2年担当の日下部とかにシン・陰流を教わっているのかまだ分からない。両者不確定要素が多すぎる上、そこに脹相と直哉も加わって四つ巴にもなっているから、展開の予想がつかなくて楽しみですね。
SYO:虎杖と乙骨との戦いで、現時点での二人の実力だと、恐らく虎杖が負けちゃう。流石にそろそろ、宿儺の術式が刻まれるって思いたいよね(笑)。あとはそもそもだけど、乙骨が本当に上層部に従っているのかというのも気になるところ。ひょっとして五条から、自分が不在になった時について、何か密命を受けている可能性もあるよね。
主人公対決になるかと思いきや、タッグを組むとか。それはそれで非常にアツい。色んな過去の映画とか、王道のパターンを当てはめて妄想すると楽しいよね。戦いの中で、自分のお母さん同士の名前が同じことが分かるとか…。
桜見:『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のやつ!(笑)
SYO:(笑)。
桜見:お母さんとは別ですが、虎杖と乙骨の共通点で言うと、二人は高専入学前、どちらも仙台に居たんですよね。乙骨はもう里香を解呪してますが、内に大きな負の力を宿している・いたという点では、虎杖と同じわけです。それぞれ夏油と真人、別の相手に対して「ブッ殺してやる」って呪いの言葉を吐いているし、そういう意味での芥見先生も意図しているであろう共通項は沢山ありますよね。
SYO:虎杖が乙骨に殺されそうになって、伏黒が助けにくるパターンもありうるよね。しかもそこに津美紀も絡んでくるみたいな(笑)。
桜見:意識を取り戻して、眼帯をつけた野薔薇も来て…とかになったら、いよいよ混沌としてきますね(笑)。
SYO:どのパターンでも面白そうだし、芥見先生はそんなファンの予想を軽々と超えていきそう。
桜見:色んな王道を踏みつつ、いい意味でファンの期待を裏切ってきた作品だからこそ、余計に気になりますよね。「渋谷事変」編が終わって、いよいよ新章スタート!ってなった第137話なんて特にですが、予想していたことは「乙骨の再登場」しか当たらなかったですもん。「芥見先生ノリノリじゃん!」と思って、展開は重いのに読んでいる間ゲラゲラ笑いが止まりませんでした(笑)。
脱却か最適化か第三の方法か。『呪術廻戦』で描かれる"世界"の時代性
SYO:新章スタートでいうと、虎杖もだけど、夜蛾も死罪が決定して、五条も呪術界を永久追放になっちゃったよね。
桜見:本当にあの決定事項は、京都の楽巌寺をはじめとした上層部が、邪魔だった五条も、不確定要素で早く殺したかったけど、五条の庇護下にあって手出し出来なかった虎杖も、その二人を守る立場だった夜蛾も、良いタイミングだったからまとめて葬ることにしたって感じがすごいですよね。
SYO:しかも、その3人を殺したところで何も変わらないんだよね。『呪術廻戦』の世界ではいま日本が壊滅しそうで、九十九が言っている通り、世界的にも日本は呪力が圧倒的に強くて呪霊の発生件数も多い。
桜見:第137話で日本の状況がバッと様々な人の声として出ましたが、正に渋谷事変が起きた後の呪術界の対応が「臭い物に蓋をする」って感じでしたもんね。
・明治に張り直した皇居を中心とした結界と、幕末に東京遷都候補地だった薨星宮直上を中心とした結界を、無理矢理県境まで拡張する
・人が避難した後の東京を立入禁止区域とする
・呪霊はあくまで東京にしか発生しないものとして存在を公表する
これは劇中でも言及されている通り、人の負の感情の受け皿となる学校や病院は呪霊が発生しやすいというのを、個々の建物から「東京」という範囲まで広げるということです。
つまり、たとえ事実は東京以外に発生するものであっても、多くの非術師が今の日本を蹂躙している「呪霊」について考えたときに、東京を連想することで負の感情の受け皿となる。それによって、呪霊の発生がある程度は都内に限定されるということですね。しかもそこに結界を張ることで蓋をする。そういう意味での人外魔境で、九十九も過去に高専のやり方に対して言っているように、これは対症療法であって原因療法ではない。
SYO:なるほどね。僕が今後の展開で気になるのは、そこで遂に話が日本全土の話になってしまったってことなんだよね。
『呪術廻戦』以外だと『青の祓魔師』とかもそうだけど、色んな漫画で、全世界が何かの脅威に晒されるみたいな展開になっていて、非常に同時代性を感じる。そういう奇妙な廻り合わせは面白いよね。
桜見:なるほど。九十九が言う「呪力からの脱却」なのか、夏油(加茂)が言う、「呪力の最適化」なのかにも繋がっていきますよね。
SYO:夏油(加茂)のは、『X-MEN』だとマグニートーだよね。特殊能力ものでヴィランが陥る、「能力者しかいない世界を作る」っていう考えに近い。でもそれを打ち崩していかないと世界は混沌になってしまうからね。
桜見:そうなんですよね。夏油と加茂は、方法は一緒だけど思想が違うっていうのがまたね…。夏油は、よく言われている全人類を憎んでいるとかそんなことではなくて、「非術師」という生き物に対してただただ絶望して、そんなのが生きている世界なんてどうでも良くなってしまった。一方の加茂は、呪力の可能性を追求したい、知的好奇心の化け物だから全然違うんですよね。
SYO:呪霊を祓い続けることにも、呪術師として生きることにも疲れてしまったんだよね、夏油は。
桜見:闇堕ちの仕方が『幽☆遊☆白書』の仙水に似てますよね(笑)。夏油は、高専時代に五条に「ポジショントークで気持ちよくなってんじゃねーよ」って言われてますが、「弱者生存」「呪術は非術師を守るためにある」っていう考えの時点で、たぶん既にもう非術師を下に見てたんですよね。この時はまだ「猿め」ほど明確ではなく、根っこの部分で。
だからその時点で既に、闇堕ちする沼に片足を突っ込んでいたと思うんです。そして悩んでいた時に九十九に可能性をある種肯定されて、低い方に流れてしまった。
SYO:そうなんだよね。どういう方法かは別として、「非術師を減らせばいい」という考えだけは共感できるよね。「だって守りきれないもんね」って。そこが面白い。しかも、守りきれない上に、過去編での盤星教のくだりでもあった通り、「命を懸けて守ってきたのがこんなやつらだったのかよ」っていうね。夏油は非術師に絶望することが多すぎた…。
桜見:それゆえに夏油(加茂)の「呪力の最適化」は、方法として出来ないことではないんですよね。夏油も五条に言ってるけど。でも倫理観を外れすぎてて、一見すると賛同者は少ない。一方の九十九は「私は君達の味方というわけではいんだ」って虎杖に言ってますし、高専の他のメンバー含め、みんなが彼女の「呪力からの脱却」に賛同しているわけではない。考えの基礎としてはアリだけど、全貌はまだ見えていないっていう。
脱却プランなのか最適化プランなのか、それともそのどちらでもない第三の方法を見出すのか。『呪術廻戦』という作品の世界が、そして虎杖たちが混沌の中でどんな「黒く輝く」答えを見出すのか、今後の展開が非常に気になりますね。
SYO:加茂でシメ(笑)。
桜見:(笑)。
(全3回に渡り、ありがとうございました!SYOさんとの対談は、今後もまた実施することになりました!『呪術廻戦』以外でもあるかも?「俺達の戦いはこれからだ!!」)
※これまでの2回はこちら
※2021/04/04(日):知人から「SYOさんとPNが被っていてどちらがお前か分か李づらい!」と言う指摘をいくつか受けたこともあり、「SaR」からライター名義の「桜見諒一」に修正しました(笑)
※引用元
・「呪術廻戦」0〜14巻
・週刊少年ジャンプ2020年45号〜2021年12号「呪術廻戦」
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