壮絶な高校野球人生 No1


中学3年生になったばかりの頃だった。

僕は中学生の硬式野球クラブチームに所属していた。

その日は練習試合があり、僕は先発ピッチャーとしてマウンドに上がった。

僕は元々ピッチャーがメインポジションではなく、
外野が僕のメインポジションだった。

だが、ピッチャーをやっていた3人のチームメイトが全員肩を壊してしまい、
僕がピッチャーをやるようになった。

小学校の頃に少しだけピッチャーをやっていたのだが、
コントロールが悪すぎて、ロクにストライクを取ることもできないダメなピッチャーだった。
だから中学野球では外野手として野球をやっていこうと思っていたのだが、
偶然の必然なのか、一応だが、チームのエースになってしまった。

試合が始まり、いつも通り、向かってくる打者を全力で抑えにいった。

基本的な僕のピッチャーとしての能力は小学生の頃と変わっておらず、
ほとんどストライクが入らなかった。

だが、その日は全く違った。
自分が思うところにボールが投げれて、得意のスライダーもキレキレ。
2ストライクまで追い込んだら、ほとんどスライダーで三振を取ることができた。

結果的にチームも勝ち、僕の打たれたヒットは2本だけだった。

こんなにいいピッチングをしたことなんて生まれて初めてだった。
僕は試合後のストレッチで仲間とテンションMAXの状態で、試合のことを振り返っていた。
監督も僕のピッチングを褒めてくれて、
「お前は今日からエースやな」とも言ってくれた。

そう言ってくれた監督の横に、見知らぬ顔の少し怖めの雰囲気で小太りの男性が一人立っていた。

その男性が僕に向かって話しかけてきた。
「今日はナイスピッチングやったな!またピッチング見に来るわ。」と言い、
そのまま背を向けて帰って行った。

とても嬉しかったので、みんなにあの人が誰だか知ってるかを聞いたところ、
ある高校の監督だということが分かった。

あ〜なるほど、高校野球の監督の目に俺のピッチングが認められたのか。ラッキー!!

そう思って、その日は最高に幸せな1日を送ることができた。


後日、中学野球の監督との高校の進路相談が始まった。

監督が一番最初に言った言葉がこれだった。
「リョウマ、お前に特待生としてぜひ野球部に来てほしいという声がかかってるぞ。」

僕がなんていう高校ですかと聞くと、監督は、
「この前試合の後に会った男性覚えてるか?あの人のところや」 と言った。

とても嬉しかった。
特待生だから、授業料も全て免除だし、受験もしなくていいから、勉強もする必要がない。親にも少しは親孝行できそうだから、この高校に行きたい。

そう思った。

だが僕にはその高校に一つだけ引っかかる点があった。それは、

その高校は日本一、練習が厳しいかもしれないくらいの学校だ。と僕の周りにいる野球関係の方が口を揃えて言っていたことだ。

色々と話しを聞いていると、休みはほとんどないし、学校には可愛い女の子もいないらしい。

そんな高校に行って本当にいいのだろうか。
僕はそう思い、一日考えますと言って、中学野球の監督との進路相談を終えた。

進路相談には母親も一緒に来ていたので、帰りの車の中で母親と少しだけ話し合った。
「あの高校に行くには私にも覚悟がいる。もし行くなら犠牲にしないといけないことも何か出てくるかもしれない。
だけど、リョウマが本当に行きたいなら行ったらいい。私はサポートする」

母はそう言ってくれた。

一日考えますと言った僕だったが、車を降りる頃にはもう答えは決まっていた。

「あの高校に入学する。」

僕は覚悟を決めて中学野球の監督に、「よろしくお願いしますとお伝えください」と言い、僕はその高校に進学することが決まった。

進路が決まった僕は通っていた中学校で自慢しまくっていた。
なぜなら野球部の特待生だからだ。特待生なんて俺以外いないだろ。と思って
友達や先生に特待生になれたことを片っ端から言った。

この頃の僕は、気分も最高で毎日を自由に楽しんでいる、ちょっとやんちゃな中学生だった。
この後、地獄の三年間が自分にやってくるなんて、全く想像もしなかった。


そして無事、中学校を卒業し、僕はユニフォームと愛用していたグローブとスパイクを持って、高校の門をくぐり抜けた。


門をくぐり抜けた先に広がっていた光景は、僕の思っていた高校野球のイメージとは全く違う世界だった。

何十人もいる先輩部員たちがドロドロになった白いユニフォームを着て整列している。よく見ると指先までピシッと伸びていて、ピクリとも動かない。
そして皆の表情はとても暗かった。

コーチらしき人が何か言うと、部員達は命を削るかのような声で一斉に、

「はい!!」 

まるでどこかの国の軍隊を見ているみたいだった。


そして、その軍隊集団が僕達、一年生のところへ猛ダッシュでやって来た瞬間、
僕の壮絶な高校野球人生が幕を開けたのだった。

続く。。              Ryoma Kobayashi


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