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共著『誰が農業を殺すのか』に込めた思い Kindle Unlimited対象(本日~5月末まで)

2022年12月に刊行した共著『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)。エッジの利いたタイトルだけに、出版前に各所から批判の声が聞かれました。私にとっては、大手出版社から出す初の書籍だっただけに、思い入れの強い一冊。どんな思いで書いたのか、振り返る記事です。


本稿は、 地域活性学会JK|実務家研究者応援サイトに【特別寄稿】誰が農業を殺すのか(出版)と題し、2023年1月6日に掲載したものです。

農政のちぐはぐぶり このままで良いの?


日本は長年、「弱者である農業と農家は保護すべき」とする保護農政を採用してきました。

この政策は一見、農家にやさしいように思えます。ですが実際には「農業は食えない」という状況を固定してしまい、農産物を高く売る努力がなおざりになる、農家の兼業による収入や農業向けの補助金を当て込み農機や肥料・農薬といった資材の価格が高止まりする……といった弊害を生んでいます。

そんな農政のちぐはぐぶりを批判する共著『誰が農業を殺すのか』を昨年12月下旬、新潮新書より刊行しました。新年早々、穏やかならぬタイトルで恐れ入りますが、その簡単な紹介をさせて下さい。

“農業の危機”は本当か?


本書を要約すると以下のようになります。
 
日本の農政は「弱者である農業と農家は保護すべき」という観念に凝り固まっており、産業として独り立ちさせようという発想が全くない。農業の危機ばかり叫ばれるのは、農業を弱くて保護すべきものにした方が得する人々がいるから。

現代の消費者は「農家」と聞くと、清貧をイメージしがちです。とくに若い人ほど、農家を支援して当たり前の存在、ある意味かわいそうな人たちだと捉えていると聞きます。

ですが、農業も生業である以上、儲からないと成り手はいません。それでも保護農政を続けるのは、農業が大変な方が得をする人々がいるからです。それは、農水省であり、JAグループであり、研究者でもあります。

本書のうたい文句は「農業ジャーナリストが返り血覚悟で記した『農政の大罪』」。

日本農業の強みであるすぐれた品種を海外に流出させながら、農林水産物の「輸出1兆円達成」という白昼夢にうつつを抜かす。巨費を投じて開発した農業データ連携基盤が使いにくいうえに利益相反の疑惑まである。達成不能な政策目標に巨額の予算を付ける。こうしたお粗末な対応の数々をあぶり出します。

より詳しい目次などは、新潮社のホームページに掲載されているので、ご覧いただければ幸いです。

農業が「食えない」理由


書店に並んで2週間ほどになり、読者からは概して肯定的な評価をいただいています。ただ、かなり尖ったタイトルなので、食わず嫌いならぬ「読まず嫌い」する人もいるようです。

このタイトルは、編集部に付けてもらいました。そうではありますが、私が10代のころから抱いてきた疑問に、図らずもよく似ています。それは「なぜ農業は食えないのか」というものです。


愛媛のミカン畑

私は、愛媛県の中山間地で生まれ育ちました。親からさんざん言われたのは「農業は食えない」「ここには仕事がない」ということでした。

実家は、戦後の農地解放まで、山と農地をそこそこ持っていたようです。富農と小農や貧農の中間である、人を雇いつつ自ら畑を耕作する「中農」だったのでしょう。農地解放で土地を削られ、専業農家だった祖父母は経済的にかなり苦しみました。

その子供たちは、私の親も含めて皆、農業以外の職を得ました。

それだけに、自分自身が長年抱いてきたモヤモヤした思いを、先鋭的な言葉で表してもらえたと感じています。

本書では、高度成長がもたらした富が農業を豊かにする方向で使われなかったことも指摘します。農家が零細で儲からないという点で、発展途上の中国と先進国であるはずの日本が、同じ地平にいるということも。

よろしければ、書店などでぜひお手に取ってみてください。

4月26日~5月31日まで、Kindle Unlimited(読み放題)でお読みいただけます。



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