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「行動を変えるデザイン」が教えてくれたこと

O'Reillyから発売された「行動を変えるデザイン」を読んでみました。

一番感じたのは「行動を変えられる魔法はまだ存在していないが、行動を限りなく誘うことはできる」ということです。

この本は心がどのようにモノゴトを決めているのか、それを理解した上で現実のプロダクトにどう落とし込んでいくのか、詳細に手順と気をつけるべきポイントが書かれています。

いろいろな関連本を読んできましたが、ここまで著者が書ける理由はHalloWallet(マネーフォワード的な製品)で実際に働きながら研究開発をしていた経験が大きく寄与していると思います。

内容の詳細についてはコチラのマガジンでまとめられていますので、ぜひ見てください。


この記事では個人的に各章ごとに面白かったポイントとその学びを紹介します。

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第1章 心は次にやることをどうやって決めているのか?

・人は基本的に直感的な選択と行動に左右されている。しかし自分は常に選択と行動をコントロールできると思いこんでいる。

・過去の経験によって勝手に心は学習し、連想されたことを評価している。(雨が振りそうな雲を見ると、過去の経験から雨が降るから早く帰ろうと思う)

周囲の文脈が変わると心の状態も変わる。家ではお父さん、職場では部長など。これに従って、複数の行動パターンも持っている。ユーザーがどんな文脈に置かれているかがプロダクトへの反応を方向づける。

・心のチカラは限られている、記憶力も注意力も決定力も。そのため6つの原則を意識する必要がある。それは↓

簡単で、美しくて、慣れていて、報酬があって、失敗したくなくて、まずは急ぎのことをやりたいのが、我らの心のしぐさ


第2章 なぜ他でもないその行動をするのか?

・行動を変えるプロダクトには5つの前提条件がある。キュー(合図)反応(リアクション)評価、能力(アビリティ)タイミング(緊急性)の5つ。

・ただしこれですべての行動を説明できるわけではない。そもそもなぜ人がその行動をするのがまだまだ謎に包まれている。

・キューは2種類。外的なキュー(通知やメール)と内的なキュー(お腹へった)など。

・反応は直感的に始まり、直感的に判断される。直感がすべてではないが「なんとなく違うな〜」と思いながら続けるのは難しい。

・評価の段階になって初めて意識にのぼる。費用対効果を考えたり、階段にしようかな、エレベーターにしようかなと考えたりする。作り手はユーザーを動かそうと思うとき、真っ先にこの段階のことを考えてしまう。

・プロダクトがすべきはユーザーが何よりも「欲しい!」と思えるものを実際に提供すること。ユーザーがプロダクトや行動に感じる価値こそが最も重要で、作り手が思う価値ではない。←厳しいご指摘

・アビリティ=それってできる?ということ。そのためにはユーザーが「スキル」や「どうすればいいか」を知っている必要がある。

・うまくいく確信も必要。誰も失敗なんてしたくない!

・タイミングは「今すぐやる」を後押しする。緊急性があればこの条件はクリアできる。が、そうでない場合は具体的にいつやるのかをユーザーに約束してもらう。(瞑想アプリのHead Spaceはこの機能を使っている)

・この5つのステージ、キュー(合図)反応(リアクション)評価、能力(アビリティ)タイミング(緊急性)はステージごとに貸し借りをしていて、弱いステージを強いステージで補うこともできる。

5つの観点で今のユーザーの行動の問題点を考えるプロダクト鑑定ツールにもなる。


第3章 行動を変える戦略

・戦略は3つある。チート戦略(楽させる)、習慣化戦略(習慣をつくる)、意識化戦略(意識的な行動を支える)

・チート戦略はユーザーが抱える厄介な問題をプロダクトが肩代わりする。倫理的に問題のない範囲で徹底的にカンタンにする。

・自分自身のイメージは自分自身の行動に影響されているため、自分の行動から自分が何者であるかを勝手に決めている。たとえ90%はプロダクトおかげだとしても!

・習慣化戦略ではリワード(報酬)を使って、キュー→ルーティン→リワード→キュー・・・のサイクルを形成する。

・キューは目的が明確でなければいけない。曖昧なのはNG。習慣ができたあと、特定のキューが特定のルーティンに結び付けられている必要がある。そうでない場合、様々な誘惑に人は負ける。

・ルーティンは簡単である必要はない。ルーティンのあとに来るフィードバックループが強力であれば、難しい手順や複雑な作業でも習慣化はできる。

・ランダムにくるリワード(報酬)はエグい強さ。ギャンブルと一緒。

・悪い習慣をやめるには、キューを避ける、ルーティンを別のモノに置き換える、意識で干渉する、新しい行動で追い出すなどある。

・意識化戦略は一番難易度が高い。これを使うのは2つの戦略が使えない時でデフォルト化ができなかったり、どうしても小さな選択を何度もしなければいけない時。

新しい行動を促すにはカンタンさが魅力的。一度きりではなく何度もその行動が必要なら、魅力的なリワードと明確なキューを用意する。


第4章 何をしたいのかを明らかにする

・ターゲットアウトカム(目指すべき成果)、ターゲットアクター(普通はユーザー)、ターゲットアクション(実際に取る行動)をプロダクトを作る前に考える

・ユーザーの心理状態を成果にしてはいけない。成果はプロダクトの成功と失敗を定義づけるもの。測定しやすく、成否の議論が起こらないモノが望ましい。

・ユーザーが取りうる行動の一覧をつくる。これは決めた成果に関連するもので誰が、いつ、どこで、そしてどのように成果につながるのかを考える。

実用最小限のアクションを見つける。行動の一覧を見返してそれぞれの行動を削りまくる。いきなり難易度10の行動よりも先に難易度2の行動をお願いしてみる。

成果をどうプロダクトが実現するかはこの段階で決めなくて良い。しかし、具体的に決めることでやるべきこと、チームメンバーと明確な道筋を共有できる。つまり、成果は「エモさ」よりも「具体さ」


第5章 適切なターゲットアクションを選択する

・ターゲットユーザーは誰か、彼らは日々何を考え、何をしているのか、プロダクトとどう関わり、どう振る舞っているのかをまず理解する。

・特に行動やプロダクトにまつわる過去の経験、行動を起こすための現在の動機、行動までの障壁など。

・理想的なターゲットアクションは4つの指標で評価できる。成果への貢献する大きさ、ユーザーにとっての動機、ユーザーにとってのカンタンさ、企業にとってのコスト

・誰が、どんな行動を取ることで、どんな成果が出るのか文章にすると分かりやすい。たとえば30代男性が(誰が)食事の記録をすることで(行動)BMI値を正常域に保つ(成果)

ターゲットアクションを考える前にユーザーを観察したほうが良い。ニーズを探るよりもどんな経験と、動機があり、どんな課題に困っているか肌感覚で理解できる。

たとえば、ダイエットのために運動させるより、食事を変えたほうが効果的だと気付くなど。


第6章 行動を構造化する

・ビヘイビアプランを作る。ビヘイビアプランはプロダクトを使ってターゲットアクションを完遂するうえで必要がある全てのステップを表したもの。

・カスタマージャーニーマップやエクスペリエンスマップと異なる点はプロダクト上だけでなく、実世界で必要な行動をすべて書き出すこと

・書き出した行動に対して、ユーザーは慣れているだろうか?何が動機だろうか?何を考えながらやっているだろうか?これらの質問をぶつけていく。ステップ数が多いのなら、大きなまとまりとして処理できないか考える。

・実用最小限の行動(MVA)を実現するために、あったらいい程度のステップはなくし、できるだけシンプルなアクションにする。

・人は無理だと感じると、試そうともしない。MVAはユーザーにカンタンそうに見せる効果がある。

・ターゲットアクションはシンプルで、カンタンそうで、小さく、有意義で達成感が得られ、完了したことがすぐ分かるものが望ましい。

・小さくても達成感が得られると人は嬉しくて行動を続けてくれる。

一連の流れを可視化することで、ユーザーが何に一番困っているか、不安に思っているか、やる気を削いでいるか見えるようになる。すると最小限の介入のポイントが分かる


第7章 環境を構築する

・ユーザーが意思決定しやすいように周りの環境を整えてあげる。方法は、動機を高める、行動を促す、フィードバックループを生成する、競合を排除する、障害を取り除くの5つ

・新しい動機よりも「今ある動機を高める」ほうが手っ取り早い、なぜなら思い出せるだけで良いから。

・プロダクトによって新しい動機を持ってもらう=外発的動機づけになる、これは下手すると本来ユーザーが持っていた内発的動機づけを締め出すことにもなる。

・基本的にユーザーを罰してはいけない。ただし、罰が自分で決められて、焼成できる場合はむしろ良い動機になる。

・行動を促すにはキューを出して注意を惹く、ちゃんとプロダクトからお願いする、後回しにされないように「今すぐ!」を伝える。

・使えるフィードバックループは即時性があり、フィードバックされた情報が何を意味しているのか理解できて、じゃあどうすればいいの?がユーザーに伝わるもの。

・どんな種類の行動も、他の行動と競合している。コンビニの商品棚と一緒。そのなかで選んで貰う必要がある。

・競合に打ち勝つには、やる気を削いでいるものは何か?その環境で注意を惹きつけているものは何か?カンタンでシンプルな他の行動にあふれていないか?要素を洗い出す。

・ただし必要な時に必要な注意を惹きつけていればOK、いつでも勝っている必要はない。

モチベーションを与えるより(アクセル)周囲の環境を整える(ブレーキを外す)が意外とカンタン。フィードバックはすぐに、明確にすることで今すぐ欲しがる人の心を満たしてくれる


第8章 ユーザー自身を準備する

・ここでの戦術は3つ。ユーザー自身の捉え方を変える、ユーザーの行動の捉え方を変える、ユーザーの世界の捉え方を変える。

・ユーザー自身の捉え方を変えるとは、「自分はうまくできる!」と思ってもらうこと。誰しも「自分はうまくできない人間だ」とプロダクトに教えられたくはない。

・ユーザーの行動の捉え方を変えるとは、新しい行動と馴染みの行動をつないであげることで新しい行動をすんなり受け入れてもらうこと。

・ユーザーの世界の捉え方を変えるとは、なぜ、どのように、何をするべきなのかユーザーを教育すること。新しい行動はハードルが高いため手取り足取り教えてあげたほうがよい。

・馴染みの行動は自動化してラクさせる、ちょっと新しい行動は過去の経験と関連させてつないであげる。

・人は新しい文脈に触れた時、明確な指示がないとものすごく不安になる。

ユーザーが行う行動によって、自動化させたほうがいいのか、1から10まで丁寧に教えたほうがいいのか、ユーザーによってパーソナライズできるならそれがベストである。


第9章 コンセプトデザインからインターフェースデザインへ

・ターゲットアクションに至るまでの必要な行動をまとめたビヘイビアプランをもとにユーザーがしたいこと、できれば「なぜしたいのか」を書いたユーザーストーリーを書く。

・書いたユーザーストーリーから仕様を決めるが、この段階でインターフェースはデザインしない。

・ユーザーが行動するためにはたくさんの条件がいる。そもそも「使いたいと思ってくれている、興味を持ってくれている、価値があると感じてもらう」のがプロダクトの大前提。

・デザインパターンを選ぶ。ゲーミフィケーションなのか、ハウツーを教えるのか、SNSにシェアできるようにするのか、プロダクトによって適切なデザインパターンは異なる。

インターフェースデザインに引っ張られないこと。プロダクトがどう振る舞うか、行動を誘うことができるか、ではなく、何をユーザーに対してするべきなのかに注力する


第10章 インターフェースデザインを見直す

・作ったインターフェースはユーザーに何をするのかきちんと伝えているだろうか?

・どこで何ができるか明らかになっているだろうか?人は文字を読むより、文字を捉える方が得意。「書いてあるから読んでくれる」は思い違い。

・社会的証明(みんながやっている、他の人の行動や考えが分かる)を利用する。みんながやっているなら自分も大丈夫と思うのが我々です。

・認知と選択の負荷をなるべく避ける。考えさせないぐらいがちょうどよい。

・実行意図(○をしたら、△をする)をユーザーに約束してもらう。自分で決めたことのほうが、他人に決められたことより実行しやすい。

一度インターフェースを作り終えたら、全体をCREATE(キュー、反応、評価、能力、タイミング)の観点で振り返ってみる。各フェーズを突破できるように上記の戦術を使う。


第11章 デザインからコードへ

・エンジニアのリソースは無限ではない。プロダクトにとってユーザーがどうなることが成功なのか、その定義をもう一度明確にしておく。

・ユーザーテストの段階になったら、まず削ることを考える。「長い」よりも「短く」、「複雑」よりも「単純」が勝つ。

・プロトタイプを触るユーザーの行動を見る。発言には惑われすぎないように。

ユーザーの行動を達成することよりもまずは使ってもらう、価値があるプロダクトを目指して開発の優先順位を決めたほうがいい。信頼されないプロダクトの言うことは誰も聞いてくれない。


第12章 効果を測定する

・なぜ測定する必要があるのか、それは介入によって何が効果を高める要素であるのか、逆に何が効果を妨げているか学ぶことができるから。

・測定することで議論に終止符を打てる。議論よりも実際に試したほうが圧倒的に早い。

・測定する指標は何をどのように、どれくらいの期間で測るのか、明確な方がいい。

・理想的な指標は、正確で、信頼できて、手軽。すぐ反映されやすく、結果を早く得られるものが望ましい。

・実験グループとそのままグループに分ける時は完全にランダムである必要がある。そして変えるのは1つだけのほうが効果測定しやすい。

プロダクト外で効果を測定する必要がある場合は、データを取りに行く姿勢が必要。ランニングアプリなら、アプリがその地域で普及する前に比べ、付近を走るランナーがどれだけ増えたかなど現場に足を運べば取れるデータはたくさんある。(ただし、現実世界はプロダクトと関係ないことがたくさん起こっていることを心に留めて)

効果が出れば嬉しいし、でなければ新しい学びを得たことになる。正しく取得できたデータはウソをつかない。


第13章 行動の障害を見つける

・ターゲットアクションに至るまでのステップでどれだけのユーザーが脱落しているのかを把握する。

・急落しているステップが問題を抱えていることになるので、そのステップに対してユーザーテストやデータの取得を行う。

・作り手が考えたプラン通りにユーザーは動かないことが多い。そのためユーザーの行動を変えているであろう「他の理由」も書き出しておく。

・障害が見つかったら障害をまるっと回避できないかまず考える。それでもダメなら再度ユーザーインタビューをし、データを集める。

ユーザーは想定した通りには動かない。日々の生活でどんなことが行動のきっかけになるか、プロダクトの「外」に出てみて初めて分かる


第14章 プロダクトを学び、改善する

行動変容デザインにおいて大切なのはプロダクトの最終的な結果であり、意図した結果ではない。

・改善案には優先順位を付ける必要があるが、それぞれのビジネスによって重要視する部分が変わるためフレームワークはない。

・プロダクトを変更したらユーザー行動に対する影響を検証する。違いが出なくてもそれは効果がなかったということではない。気にかける必要のない効果であったと思うこと。

・改善は続けるべきだが、それは使いやすさのためではない。あくまでもユーザーが得られるターゲットアウトカム(成果)を目指すべきである。

作る前に改善アイディアを試したほうがよい。エンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーではなくユーザーが常に答えを持っている


第15章 よくある質問

・行動に至るまでの道筋はいくつもある。決して1つに限らないうえに、じわじわ変わっていくこともある。

・行動の前提条件はユーザーを取り巻く環境やその人自身の状態によって激しく変わる。変化の規則性を探し、ベストなタイミングで行動を促すこと。

・変化を逆に活かすにはユーザー層に共通する構造的な接触機会を見つけ出すか、ユーザー自身にベストなタイミングを選んでもらう。

・どうしたら押しつけを避けられるのか?
→プロダクトが何をしようとしているのか伝えること、行動はあくまでも任意であることを再確認する。

・ビジネスモデルと行動変容デザインの関係は?
→ユーザーの繰り返しの行動によって収益が上がる場合(フィットネスアプリに戻ってくるたびに広告を見せることができる)、ユーザーが行動を変えることで収益が上がる場合(運動をして健康になるほど、疾病による保険料支払いがない)に有効。またユーザーにとって運動が習慣になれば、フィットネスグッツを売るなどもできる。

初回でネガティブな体験をしたユーザーは見捨ててもよい。潜在的なユーザーとプロダクトに好印象なユーザーに集中する。すべてのユーザーを救うことは不可能に近い


第16章 結論

・心の働きを理解する、ターゲットアウトカムとユーザーを明確にする、プロダクトがユーザーを手助けするやり方を計画する、繰り返しテストし、そして改善する。

・普段の生活のほとんどが自動操縦で生きている。常に心はサボりポイントを探していると肝に銘じる。

単純で分かりやすいことがホントに重要。最強なのはユーザーに「行動もさせない」チート戦略。

・一番よい行動を決めるには4つの評価軸で検討する。効果(どれくらいの成果があるか)動機(どれくらい行動したいと思うか)簡単さ(慣れているか)コスト(どれくらいプロダクトに実装するのが大変か)

・行動に影響できるプロダクトは、そもそも良いプロダクトである。

・ユーザーの注意を奪う競合を取り除こう、ユーザーに制約があるならばそれも取り除く、アクセルよりもブレーキを先に外す。

・行動しない状態から行動する状態までの過程を記述したストーリーを作る。

・行動を変える魔法は、ない。

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