ファーストデートの話
『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』
そうか。たしかにそうだ。
だけどベルかなにか目立つ音で「ゴーン」と教えてほしかった。今もなお。
当時大学生のわたし。
中学も高校もおなじ趣味の友だちはあんまりいなくて、ようやく大学で出会った友人、の友人。
彼はライブのチケットを譲ってくれた人で、わたしはそのとき熱が出ていたんだけれど、行きたくて行った甲斐があったと、色んな意味で思ったのだった。
ファーストデートは、ライブだった。
わたしより年上で、かっこよくて、趣味も似ていた。それだけで良かったのに、とびっきり優しかった。まさに瞬間スピーチレス。あなたに出会ったのです。
なんとなく撮った写真をLINEで共有して、なんとなく個人的にお礼がしたくてLINEをしたらその夜ずっと続いて楽しくて止まらなかった。
今思えば彼の優しさ。途中でやめたら良かったのに。やめられるはずもないし、やめる意味も当時は分からなかったけれど。
彼と遊ぶときはだいたい渋谷だった。
スニーカーも服装も髪型までも、何もかも完璧で、本当に理想だった。
はあ。サラサラと何年か前のことを書き出せていることに驚いている。
わたしはデートだと思いたかった。
だけどなんだか、違う気はした。
ふと尋ねたら、彼女がいた。くっっっ。マシェリの話はずっとずっと後の話。
そんな経験はなかったから、言われてすぐは、「どうしよう!」と素直に思った。
モラルを遵守すれば、次は会わないんだろうけど、コントロールできたら恋じゃない。
何かやましいことをしているわけでもないし、会うくらい、いいかな、と思ったし。
だから本当にただのデートに違いなかった。
デートには色々な形があると知った、いや都合よく解釈できるようになってしまった。
ふあふあのかき氷を2人でシェアしたことも、
混み合った渋谷のスクランブル交差点を抜けて手を繋いで走ったことも、
誕生日プレゼントをくれたことも、
とんだわたしの勘違いだった。たしかにそんなこと、友だちだとしてもすることばかりだ。言葉はざんこくだ。
きっとどんどん友人ではなく、すきが加速したとき、彼は気付き、今日で最後にしよう。と言った。しかも会う前に。
だけど恋の終わりはまだ聞こえなかった。
なかなかわたしもガメツイ女だ。
ポジティブが過ぎていて、可能性が1ミリでもあるとそのまま突っ走りたくなるその強さ。
最後のデートもライブだった。
ちがうアーティストのライブ。
最後にアーティストが「記念に」とみんなを写して写真を撮った。撮らないで、思い出に、残さないで。
そのとき、やっと自分は耳栓をしていたことに気が付いた。
恋の終わりはとっくに告げられていたのに。聞こうとしないのはわたしの方だった。
涙は出なかった。悲劇のヒロインになっても仕方ない。っていうか、ちょっともう恥ずかしい。彼女いるし、仕方ない。モラルがすっかり戻ったわたしはそう思った。
気持ちをコントロールできたから、きっとこれはもう恋じゃない。
「どうか、どうか幸せになって。」心から本当にそう思った。
すきだったけど、そう思えたのは恥ずかしさからか。
なにげなくiPhoneの曲をシャッフル再生したら、失恋の曲が流れてきた。わたしのiPhoneの1200曲ある中で多分唯一の失恋ソングだ。嘘だろとちょっと笑えた。
I’m still stuck in love.
涙が出てきた自分に優しくなれなかった。すぐに涙をこらえたその喉の痛さは忘れられない。
そんな曲じゃないこれは。
すきだと思った娘がめっちゃビッチだった曲なのになんで泣いてんだ。またちょっと笑えた。
それからもうしばらくライブには行ってない。一緒に行く人もいないし、スピーカーから流れるあの低音のビートを聴くとちょっとエモーショナルな気持ちになるからだ。
今は淡々とかけるこの思い出が、当時は一生こんな人現れない、とまで思った。
長めのスパンでみたら、なにげなく終わっている。人から見たら、なにげなさすぎてたまげるかもしれない。
色々あった、その中のひとり、でしかない。
そんな恋ばかりしているかもしれない。
思い出は美化されて、思い出すとなんだか楽しくなったりするから不思議だ。
思い出になって言うよ燃えたなーって気にすんなむしろありがとう、早く消すよ君の足跡
すきになったらいつでも「ファーストデート」みたいなわたしだ。
また懲りずにこんな気持ちになったらどうしようかと思う。だけどいまはほんとにあのとき「燃えたなー」と思う。
あのときも恋はなにげなかった。なにげなくて、火がついたことにも気が付かなかった。燃え尽きてから、気が付いたんだ。
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