マシェリの話

中学生の時、何度も何度も近所の薬局に行って、何度も何度も母にお願いして断られ続けたマシェリの製品。当時はたまーに、たまーーに寝癖直しウォーターを買ってくれたけど、家には男の方が多いから、いつも水色の容器でなんとなくスースーする寝癖直しウォーターだった。それを兄は頭につけたあと、フェイスタオル(共同)でしっかり水分を拭いてそのままタオル掛けにかけていた。…今もそう。

何も知らないわたしは朝洗顔してタオルで顔を拭くとめちゃくちゃスースーして「グアァア!」って叫んでタオルを洗濯機にブチ込む。お願い。別に拭くのはいいから、それ戻すのやめてよね。

脱線しちゃった。

それでマシェリは中学とか高校の、数少ないデートの前に奮発して買って、香りを味方につけていた。たしか買ってくれないながらもこっそりカゴに入れて計画的に買ってもらったのだ。そのヘアコロンがまだ残ってる。

時は流れてわたしも社会人、マシェリはいつも変わらず薬局に女性らしいピンクのフォルムで場を彩る。

社会人になって初めて気になる人ができたのはまだ暑さが残る、夏の終わりだった。

当時、事務から外回りの仕事に異動になり、手探りで現場回りをしていたわたし。相手は外でしか仕事をしない現場の先輩。たまたま外回りの現場で、作業をしていて声をかけたその時に、「あぁ、まずいな…。仕事に支障が出る」と思うほどの素敵さが漂っていた。

先輩がいると思って向かう現場はもうそこはただの土地じゃなくてわたしにとってはデートの場。だけど普段わたしもそれなりに仕事をしていて、暑さがひどくそれを表現していた。化粧が落ちる、シンプルなTシャツじゃないと暑いし現場で汚れる。もう最悪だ。だけど現場はデート。そう演出したくて、改札直結の小さな薬局に駆け込んだ。

そこにはマシェリのオイルインワックスがあった。たくさんワックスはあったけど、香りも大事にしたかったからこれにした。昔のマシェリ最強説を覚えていたから。

化粧室に向かってかけたてのパーマを生き返らせるために水で濡らす。その後に少しつける。
あぁ、大学の時に習った「プルースト効果」だ…。

香りを嗅ぐ事により、その時の記憶や感情が蘇る事を『プルースト効果』と呼びます。

中学も高校もこうやってギリギリになってなんかおめかししたかったんだった…。

香りも昔思ってたオトナな、リッチな匂いじゃない。なんだかカワイイ、香りだった。そうか、わたしも大人になったんだなあ。

まあいいや、そう思って、先輩が乗る車に乗り込んだ。もちろん化粧室でしっかりメイク直しをしたことは言わずに。すると言われた。

「なんかイイ匂いするね。」

「ホントです?何にもつけてないけど…シャンプーですかね?」

そこから半年経った今。先輩は会社を辞めてしまったし、うんともすんとも何にもなかったんだけれど、手元にはあと少しマシェリが残ってる。香りの思い出はまた違う思い出に書き換えられた。マシェリはお気に入りじゃない。毎日使ってるわけじゃない。

マシェリとは、女性の非日常をさりげなく、演出する武器。

今日も香りを味方にしたたかに生きたい。

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