自転車で嬉野の遊びをつなげた「茶輪」が走る、楽しい未来。
嬉野温泉 旅館大村屋がお届けする「嬉野温泉 暮らし観光案内所」にようこそ。連載のために月に1度は必ず嬉野温泉に泊まっている、ライターの大塚たくま(@ZuleTakuma)です。
今回はシモムラサイクルズの下村宗史さんにお話をうかがいました。
シモムラサイクルズさんは、お茶を片手にレンタサイクルで嬉野の魅力に触れられる「茶輪」の運営拠点です。「茶輪」は2019年4月に始まり、まもなく3年目に突入します。
ただ、ぼくはまだ「茶輪」に参加したことがないんですよね。
「茶輪」のモニターツアーに参加してみた
「茶輪」の名前だけは知っていましたが、実際に体験したことはなかったぼく。旅館大村屋の北川さんに誘われ、宿泊施設関係者向けのモニターツアーに参加することにしたのです。
事前に共有された、コースマップを見てぼくはびっくりしました。マップを見る限り、かなり山の中に行くし、「立岩の展望所」がコースに含まれています。「立岩の展望所」は、先月行ったばかりです。たしかすごく高かった気がするんですけど。
立岩の展望所で見た景色
電動自転車もあるとのことでしたが「体験しないと」ということで、電動のないロードバイクに乗ってみることに。
「茶輪」では水出し茶をつくれる、こんなボトルを貸してもらえます。茶葉と水を入れて、出発です。
自転車で嬉野の名所を廻ります。豊玉姫神社に始まり……。
轟の滝にも行きました。桜がほぼ満開の状態できれいでした。
チャオシルでは、お茶の淹れ方を教えてもらいました。ようやく、正しいお茶の淹れ方がわかった気がします。いつも雰囲気で淹れていたな……。
山間部は電動自転車がおすすめ
ここまでは平地で気持ちよかったんですが、この後、山間部に突入。
電動なしのまま、ぼくもなんとか頑張ったんですが……。
すぐ脱落。
残念です……。坂キツすぎ。北川さんも途中で断念。そのあとは車でてっぺんまで上げてもらい、その後の行程だった肥前吉田焼の絵付け体験まで楽しめました。
試走会じゃなかったら引き返すところだった
当日の様子はYouTubeにまとめてみました。茶輪の雰囲気が少し伝わるかもしれません。
自転車で展望所まで行けなかったぼくと北川さん。翌日、シモムラサイクルズさんを再び訪れ、電動自転車を借りてリベンジしました。
試走会の時はここから200mくらい先でリタイア
電動自転車に乗ってみると、昨日あんなにきつかった坂がまったくキツくありません。昨日のキツさと比較すると、まるで飛んでいるみたいでした。銀河自転車999。
北川さんと二人で「電動自転車最高〜〜!!」と技術に感謝しながら、立岩の展望所に到着しました。
北川さん「電動自転車、キミのおかげだよ……」
電動自転車を使えば、女性の方でも立岩の展望所まで登れると思います。電動自転車って、すごいんですね。
自転車で茶畑の風を感じながら、嬉野の魅力を一通り体感できる「茶輪」。嬉野に観光に行くなら、外せないアクティビティだと感じました。とくにワーケーションの方は、適度な運動でリフレッシュになるので、おすすめです。
「茶輪」と自転車業界の現状
茶輪を体験した後、ぼくは北川さんとシモムラサイクルズの下村宗史さんにお話をうかがいました。
ーー現在、茶輪はどんな層に多く利用されていますか?
旅行客の中でも、カップルが多いですね。カップルで楽しめるアクティビティとして楽しんでいらっしゃいます。
ーーたしかにカップルだといいなぁ。でも、基本的には電動自転車ですよね?
いや、カップルでロードバイクに乗って展望台まで行ったという人もいらっしゃいますよ。
えーっ、すごい。本当ですか。普段から乗ってるんでしょうね。
田舎の方って、車社会で車にばかり乗るじゃないですか。都会の人って、けっこうよく自転車に乗ったり、歩いたりしていて、意外と体力あるんですよ。コロナ禍で都心部では自転車通勤が増えて、自転車がよく売れています。でも、生産が追いついていなくて、品薄な状態にもなっていて。
ーーそんなことになっていたんですね。全然知らなかった。
コロナ禍で自転車人口が増えれば、都市部の人が嬉野にきた時に茶輪をよく選ぶようになるかもしれませんね。スポーツバイクで、展望台まで登ってみようという人も増えるかも。
その傾向はあるんじゃないかな、と思っています。違和感なく「茶輪」に自然に取り組む人が増えるんじゃないかなと。
改めて感じる「茶輪」の魅力
今回改めて「茶輪」を体験してみて、やっぱりいいなあと思いました。登りはギブアップしちゃいましたけど、下りはとても気持ちよかったですし。これまで車で行ったことあるところばかりなんですけど、空気とか風景とかよかったですね。
ーーたしかに。きつかったけど、楽しかったし、気持ちよかったですね。
山に行くのも近いからいいですよね。普通、山まで行くのは遠いじゃないですか。自転車でさっと登って降りて来れるくらいコンパクトなんですよね。
そうですね。「茶畑を見たい」という方も多いんですが、茶畑は山にしかないので、山を登らなきゃいけないんですね。でも、頑張ったご褒美のような楽しさがあるんですよ。山頂が開けてるっていう、ちょっと変わった構造なんですよね。
たとえば「茶塔」からは茶畑どころか、大村湾まで見えますもんね。あそこは茶畑のために造成した山なので。
茶塔:景観の良い場所として知られる「池田農園」の茶畑にある。木でつくられた台の上で、景観を楽しみながらお茶を楽しむための場所。
「茶塔」からの眺め
「茶塔」はまさに「ご褒美」ですね。朝一とか最高ですよ。朝日がパーッと見えて。
ーー山以外は平坦なので、一般の人もサイクリングしやすい場所ですよね。
一般の方は無理に登る必要はないですよ。嬉野の街の中はほとんど平らなので。
街中、気持ちよかったですね。途中でお茶屋さんに寄ったり、甘いものを食べたり。歩くよりもいろんなお店を廻れていいですよね。行動範囲が広がる。
自転車だと駐車場の心配がないのもいいんです。
嬉野は平坦な街なので「車椅子で廻りやすい温泉街」として、バリアフリーに力を入れているくらいです。自転車にはぴったりの街なんですよ。
嬉野茶時の「大戦略」とつながった「茶輪」
ーー「茶輪」はどのように生まれたんでしょうか?
開業した時から「レンタサイクルがしたい」と言って、市といろいろな話をしてたんです。そのうち「こんな予算があるよ」と言われて、そこから始まりました。
ーーここでレンタサイクルをしたいというお話から発展していったんですね。
周囲の人がいろいろ声かけしてくれて「嬉野茶時」とつながったんです。
嬉野茶時:「嬉野茶(うれしの茶)」「肥前吉田焼」「温泉(宿)」の三つの伝統文化と、時代に合わせた新しい切り口を加えて、食す・飲む・観るといったもてなしの空間や、喫茶の愉しみを作るプロジェクト。
嬉野茶時とつながったのは、ぼく自身が賛同できると感じたからなんですよね。「Tea Tourism」という嬉野の大戦略。その戦略に向かって、各々が単独で頑張っていて。
Tea Tourism:嬉野での「一杯のお茶を求めた旅」を提案するプロジェクト。お茶の産地ならではの体験ができるように企画されている。
大戦略だけが共有され、各々が今あるものを生かして、単独で頑張っている。
ビジョンだけを共有していますもんね。
そのやり方がぼくにはしっくりきたんです。遠くから見ると、みんなで一緒にやってるみたいに見えると思うんですけど、実際はそれぞれが単独で走っている。
それが新しい「街を元気にする仕組み」だと思っていて。今までは「組合に加盟しないとダメ」とかあったんですけど。「組合の良さ」って、もちろんあるんですが、形として時代に合わなくなってきているのかなと。
ーー組合の問題点って、どこなんでしょう?
動きづらくなることですね。だから、共有するのは「想い」だけという形がいいと思うんです。とはいえ、「想いを共有していればなんでもOK」ということではなく、「嬉野茶時」として「このクオリティ以下にはしない」というジャッジメントもいるとは思います。
ーーまあ、そこも本当にビジョンが共有できていれば、クオリティの面での食い違いは防げますよね。
「大戦略に向かっていけるレベルなのか」という視点は大事ですね。その「大戦略」の上を目指しているかどうかが重要だとは思います。そして、単独で頑張っている中でコラボが生まれて。個々の成功事例を見れば、新しい他の人も入ってくると思うんですよね。
嬉野で暮らす楽しそうなオヤジをみて「いいなぁ」
もともと下村さんと出会った時は、自転車屋さんではなかったんですよね。
ーーえっ、そうなんですか? 嬉野のご出身ではないんですね。
もともとインターネット関連の会社にいて。その仕事の関係で嬉野にきました。そしたら商店街の人や、観光協会の人を紹介してもらって。そこから、いろんな人と知り合うようになって、会議とかも全部参加してたんですよ。
ぼくがやっていた「嬉野温泉賑わいLab.」にいつも来てもらってて。
嬉野温泉賑わいLab.:佐賀県嬉野市の中心市街地の活性化を目的に、地元の住民を中心とした参加者が話し合い、実験的にイベントや商品開発を行うことを目的とし、定期的に会議を開いていた
その「嬉野温泉賑わいLab.」で当時は趣味だった自転車を絡めて、「ツールド嬉野」という企画を出したんです。そこからがスタートですね。
ーーどうして「嬉野温泉賑わいLab.」に通うようになったんですか。
商店街のおじさんたちが、楽しそうだったんですよね。なんでしょう、ちょいワルというか……。笑
意外と面白い人が多いんですよね。本業やりながらも、自分の好きなことをしている。
そうそう。なんか音楽やったりとかですね、好きなことをしていて、楽しそうなんですよ。
ぼくはそういう方々が、上に怒られないように好きなことをやっている姿が頼もしかったんですよね。
ーーなんか、先生と仲が良いけど、ちょっとワルい先輩みたいな感じですね。
そういう方々を見ていて「こういうオヤジになるのって、いいな」って思ったんですよね。そして「こういう暮らしって、どうすればできるんだろう」って思って。
ーーなんか面白くなってきた。
嬉野の人たちの後押しで開業
でも、ずっとIT系の職だった人間が、突然嬉野に就職しようと思っても、なかなかないじゃないですか。そこで「自転車屋しかやれねえな」っていうのが、正直なところで。
ーー消去法。自転車屋開業は、嬉野の人の暮らしに対する憧れが先だったんですね。
そうなんです。で、そんな話を周囲にしていたら「自転車屋、やったら?」って、みんながサラッと言うんですよ。
ーー嬉野の方々が後押ししてくれたんですね。
これまでも「独立」が頭に浮かぶことはあっても、その「流れ」がないと感じていて。
「場所が見つかった」ということだったり、人の縁だったりとかですね。
そうです。「無理に進めても、多分進まないだろうな」と思っていたので。でも、嬉野の方々が「やったら?」と軽く言ってくれるので、「あ、そんな感じで始めても大丈夫なの?」と力が抜けて。そうこうしているうちに、ここの場所も見つかって。
当時、あれよあれよと言う間に決まっていきましたよね。
嬉野の方々の後押しから生まれた「流れ」に身を任せて、行き着くところまできて。これはもうやるしかないなと思いました。
有志でつくった「GOOD CYCLE URESHINO」
今の観光客の方々は自家用車でいらっしゃる方がほとんどで、1割〜2割がバスといった状況です。2022年秋に新幹線駅が開業すると、二次交通の問題が出てきますよね。今後レンタサイクルの「茶輪」は、かなり重要になると思います。
街づくりをしていく中で「茶輪」を上手に組み込んでほしいなと思いますね。温泉街から少し離れた新幹線駅によって、街が広がるじゃないですか。そこで、便利に自転車を使ってほしいです。
ーーたしかに、新幹線駅から自転車で温泉街に移動する人が増えるといいですよね。
自転車が使いやすくなるような街づくりをしたいんですよね。そのために「GOOD CYCLE URESHINO」の活動も力を入れていきたいです。
ーー「GOOD CYCLE URESHINO」では、どんな活動をしているんですか。
自転車が好きな人で集まった有志のメンバーでして。国土交通省がやっている「GOOD CYCLE JAPAN」という取り組みがあるんですけど……。
日本中で自転車をどんどん活用していこうという取り組みなんです。自転車が活用しやすい社会を「環境」「健康」「観光」「安全」の観点から、目指していこうという。
ーーそんなものがあったんですね。はじめて知りました。
ゆくゆくは、嬉野市が「GOOD CYCLE JAPAN」にエントリーしてほしいなと思っています。そのために、ちょっとでも近づけばいいと思って、少しずつ活動をしているわけです。「茶輪」はその核ですね。
「GOOD CYCLE URESHINO」ができているという話を聞いて、すごく嬉しかったです。ぼくが12年前に帰ってきた時には、そんな動きはまったくなかったので。街のことをやる=組合活動みたいな感じだったんですよ。
ーー「やりたい」と有志が集まって、自然に起きる活動がなかったんですね。
小さい活動でもいいんですよ。好きな人、やりたい人が2人、3人集まれば、何かできるわけです。そういう小さなことをたくさん産んだ方がいいと思います。小さく試して、大きくしていく。
やりたい人っていうのは大事ですね。ぼくはこの「GOOD CYCLE URESHINO」でも、心折れそうになった時があるんですね。でも、そこに集まっている情熱を持っている人に支えられているから、続けられています。
ーーやりたい者同士なら、チームワークが生まれやすいですよね。
今は「結果を出していけば、少しずつ大きくなるんじゃないか」と思って、続けています。
それが健全ですよね。好きでもない人、やりたくもない人を会議に連れてきても、何もいい発言しないし。
「いいことだから、やらないとね」というスタンスはよくないんです。好きな人、やりたい人がやって、小さな結果を出す。それを皆さんが見てくれて「自分にも何かできるんじゃないか」と感じてもらえたらいいなと思いますね。
嬉野に「遊び」をつくるにはまず自らが楽しむ
ぼくは観光地に大切なのは「食う・寝る・遊ぶ」だと思っているんですよ。嬉野の旅館に行けば「食う」「寝る」はあるんですが、「遊ぶ」がなかなかない。
これまでは「遊ぶ」が夜の街だったんですよね。ストリップ劇場だったり、ソープランドだったり。歓楽街としては、70年代、80年代に栄えて。でも、その時代も終わりを迎えて、新しい方向性に向かなきゃいけない。
ーー新しい遊びをつくっていかなきゃいけないわけですね。
新しい遊びができて、人が集まるようになれば、ゆくゆくはその夜の街の活気も復活していくと思うんですよ。
夜の街がダメとか、そういうことではないですもんね。
ーー多様性のある「遊び」が大切で、いろんな人に対応できる種類が必要なんですね。
ぼくらは「面白い場所をつくれば、人が来るんじゃないか」ということを言い訳に、自分たちが楽しいと思うものをつくっています。
その「楽しむ」という姿勢がすごく大切だと思うんです。ぼくはビートルズが好きなので、そういう時によくビートルズを思い出すんです。ビートルズが初めてアメリカに来たときに、ジョン・レノンが空港でインタビューを受けたんですね。「ビートルズの成功の秘訣は何ですか」と聞いたら、ジョンは「そんなことわかってたら、俺はマネージャーになる」って、言ったことがあって。
「マネージャー」発言のシーンは最後
会見自体がすごい楽しいもので。「ビートルズは楽しんでるんだな」と。当時のアメリカって、ケネディ大統領暗殺したりとか、すごくネガティブな雰囲気だったと思うんです。そこに、楽しく音楽をやっているビートルズがやってきた。そういうのを見ると、停滞してる世の中を変えるには「楽しい」しかないなって、思います。
その通りだと思います。「楽しい」がいちばん力を持っているので。
だからコロナ禍で停滞ムードだったとしても、嬉野は「楽しい」ということを発信していきたいと思っているんですよね。
現状を悲観せず、楽しむために
ぼくは世の中が変わる今が楽しいです。コロナウイルスの感染拡大は嫌なことだけれど、それで世の中が変わっていくのは楽しい。
変化スピードが早送りになったって、感じですよね。もともと変わりそうだったものが変わっている。
今の世の中を楽しむしかない。悲観してもしょうがないし、ぼくらは小さな存在だから世の中を変えることはできない。
日本にとっては「物事を幅広い視野で見ていないと、後から困るよ」といういい教訓だったと思います。
とくに観光業界は依存体質があって、旅行会社におんぶに抱っこの時代が長かった。だから自分たちで自分の街を売り込むとか、こういうお客さん作っていこうという空気がなかったんです。代理店任せではなく、力を借りて一緒に作っていければいいと思います。
ーー「主軸は地元の市民にある」ということですね。
大元に市民が楽しそうにやっているコンテンツが必要なんです。それがなかなかつくれない。大きい組織と予算があったって、それはできないんですよ。
ーー「好き」「楽しい」「やりたい」という気持ちは、組織とかお金とか関係ないですからね。
巨大な組織と多額の予算があっても、「GOOD CYCLE URESHINO」はつくれないわけですよ。新幹線開業も来年秋に控えていて。もうすぐですよ。
ーー自転車が好きな人に、嬉野へ来てほしいですね。
嬉野は土地のスケール感もそうだし、山地も平地もあって、さまざまなレベルの方にも対応できるからいいですよね。
自転車好きな方々が嬉野に来てくれたらいいなと思いますね。嬉野が盛り上がるようにこれからも楽しみながら頑張りたいと思います。
ーー本日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました!
一人ひとりの「楽しい」こそが嬉野のエネルギー
「本人が楽しかったらいいじゃない」という言葉があります。
「外から見るとおかしい気がするけど、本人が楽しければいい」という諦めの言葉です。この言葉は「楽しい」という事実は論理を吹っ飛ばすパワーがあることを示しています。
人を動かすのは「やった方がいいからやらなきゃ」という気持ちではなく、「やった方が楽しいからやりたい」という気持ちです。そんなムードが「茶輪」、そして「嬉野茶時」にはあります。
「楽しい」こそが、今の嬉野のエネルギーなのでしょう。
「嬉野温泉 暮らし観光案内所」次回もご期待ください。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?