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パブで立つイギリス人、カフェで座るフランス人②

フランスのカフェのテラス席は歩道に向かって、並んでいます。そこには一人で新聞を読みのんびりしているムッシュー、世間話に花を咲かせるマダム、アムールを語り合うカップル、走る回る子供達、そこには様々な人生があります。人はその空間に吸い込めれていき、飾ることなく自然に過ごしています。カフェではたくさんの人生模様を垣間見ることができます。

先日、僕はどうしても済まさなければならない用事があったためパリの市内に出掛けました。ここフランスでは5月11日から外出禁止が解かれ、証明書なしで自由に外出できるようになりました。しかし、依然と同様に多くの制限が課されたままです。まだパリ市内の公共交通機関では、外出証明書を携行しなければいけないし、マスクの着用も義務です。カフェ、レストランも依然閉まったままで、パリの街には普段の活気は全くありませんでした。静けさのみが残る高級住宅街みたいな、全く違う街になってしまっていました。

カフェ・ビストロが閉まり、普段はテラスに並べられている席が片付けられているのを見ると、少し悲しい気持ちになります。これがいつまで続くのかな、と。

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カフェ・ビストロの復活を願って今回は、「カフェで座るフランス人」と題して、「パブで立つイギリス人」に引き続き、フランスのカフェ文化について書いていきたいと思います。

Third placeとしてのカフェ

フランスにおけるカフェの位置付けは人生、日常の一部です。家、職場、学校などの世界から切り離された特別な世界だと言えます。アメリカ人の社会学者、レイ・オルデンバーグは著書 "The Great Good Place"の中で、”Third place"の概念について述べています。

In community building, the third place is the social surroundings separate from the two usual social environments of home ("first place") and the workplace ("second place"). Examples of third places would be environments such as churches, cafes, clubs, public libraries, bookstores or parks.

"Third place"とは、家(first place)、職場(second place)から切り離された第3の場所を指します。その例として、教会、カフェ、クラブ、書店、公園などがあげられています。これらの場所に共通する特徴点として、8つの点が強調されています。①中立性,②社会的平等性の担保,③会話が中心に存在
すること,④利便性があること,⑤常連の存在,⑥目立たないこと,⑦遊び心があること,⑧感情の共有、です。オルデンバーグはこのように"Third place"を定義しつつ、一番わかりやすく想像しやすい例はフランスのカフェだと述べています。「パリのカフェほどサードプレイスとして認めやすいものは他にない」とまで述べている。Third placeは、家、職場では満たしきれない人間の欲求を満たしてくれる場所である。その欲求は人によって様々だが、カフェにはそれを受け入れる許容性というか、下地ができているのである。あそこのカフェにいけばあの人に会える、もしくはカフェで座って街行く人を観察する、仕事の前にカフェで一服する、、、カフェに行くというのは、コーヒーを飲むという行為を越えた一つの経験である。特にパリのように、常に人で溢れているような街だとカフェみたいな場所はとても貴重だと思う。ちょっと疲れた時や休憩したい時、一服したい時、通りの角には必ずと言っていいほどカフェがあり、そこには必然的に人が集まり、"Third place"になるのだと思う。

ギャルソン、Garçonの役割

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前回の記事で取り上げたイギリスのパブのBarmanもそうだが、フランスのカフェのGarçonも素晴らしい職業だと思う。Garçonはフランス語で、「少年」を意味するが、カフェではサービスをするスタッフ、男性の給仕のことを指します。ギャルソンの主な仕事は、飲食物の提供・メニュー全般の説明がメインです。しかし、ギャルソンの仕事はじつに幅広く、個々のお客さまに合わせたサービスが求められ、料理やワインに関する知識も必須です。1日10時間以上テーブルのあいだを舞うように所狭しと動き続ける体力、客の要求を素早く察知し、行動につなげる判断力、会話で客を楽しませる知性。あらゆる能力を兼ね備えていなければ、カフェのギャルソンは務まらない。そして100人のギャルソンがいたら100人それぞれ違った個性的なサービスがある、と言えるでしょう。

僕が、このギャルソンという職業が素敵だと思うのは、それぞれが誇りを持って自分なりの接客をしていると感じるからです。僕がよく行く職場の近くのカフェには、60代ぐらいの年齢の白髪のキビキビ動くかっこいいおじさんのギャルソンがいます。いつもニコッとしていて、常連と会話をしてて、そして一つ一つの動きに無駄がないように見えるのです。周りにもたくさんの若いギャルソンがいるのですが、彼だけ明らかに仕事の質が違う気がします。きっと長年この業界でギャルソンとして働いてきたんだろうと思います。僕は常連と言えるほどそのカフェに通ってはいませんが、カフェの前をたまたま歩いていて外からそのギャルソンが見える日には一杯コーヒーかビールでも飲んでいこう、という気持ちになります。場所ではなく、人(ギャルソン)にお客さんはつくのです。この前行った時に、僕のことを覚えてくれていてとても嬉しかったです。常連の仲間に加われるようにこれからもそのカフェには通い続けたいと思っています。


ブルックリナイゼーション?

フランスのカフェ文化は相当な歴史があり、それぞれの土地に根付いているが、それでもフランスのカフェの数は年々減り続けている。それはスターバックスなどの大手企業カフェ拡大の影響、そしてテイクアウェイコーヒー、ヘルシーフードなどをメインに提供する小規模カフェの参入によって引き起こされていると言われています。

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(イメージはこんな感じ、このようなスタイルのカフェが増えてきた)

僕の住んでいる街、リールでもこのようなカフェを見ることは非常に多くなった気がする。おしゃれだし、今の流行がこのようなヒップな感じで、特にそれが悪い流れだとは思わない。しかし、なんというかどの店も同じに見えて個性に欠けるし、どうしてもヒップスター的な高級志向な若者向けのお店という印象が拭えない。このようなスタイルのカフェレストランが増え、昔ながらのお店が潰れて行く現象を" Blooklynization"というらしい。それは、アメリカのブルックリンスタイルのカフェから文字って作られた造語だ。これはジェントリフィケーション(高級化現象)という、都市現象に関わることである。これについては非常に興味深いので違う記事で取り上げたい(僕の大学の卒論のテーマである笑)。

話を戻すと、フランスもこの" Blooklynization"なるものを経験し、伝統的なカフェが減少しつつあるということだ。色々な原因があるが、ここ半世紀でフランス全土にあった200000店舗のカフェは40000店舗まで減少した、というのだ。このような状況を踏まえてフランスの大統領であるマクロンは、2019年にカフェを救済する法案を通し、150-million euro(日本円で一億6千万ほど)の予算を確保したというのだ。この予算は主に田舎地方にある約1000店舗のカフェを救済するために使われたそうだ。カフェが一つ消えるというのは一つのコミュニティが消えるということに等しい。特に田舎だと、カフェが社会的コミュニティの役割をなしているので、カフェの消失はその街に大きなダメージを残す。しかし、このような政策側からのカフェを救済しようというアプローチを見てわかるように、カフェはとても大切な場所であるし、フランスからしばらくカフェが消えることはないといえるでしょう。


カフェでのエチケット

パリに行った旅行者が、レストランやカフェで嫌な目にあったと話しているのを聞いたことがあります。ウェイターに無視された、ガサツなサービスをされた、注文を聞きにきてくれなかった、などです。残念ですが、確かにそういうサービスがまかり通っているカフェもパリでは見かけることがあります。そういうところは観光客でごった返してて、忙しすぎるのだと思います。しかし、お客さん側に問題がある場合もあります。フランスでは、お客は神様ではなく、店員と同じ人間です。お店に入る時ももちろんこちらから「ボンジュール」と挨拶しなければなりません。カフェという空間にこちらがお邪魔する、という感覚です。もし、無口で何も言わずに席の案内を待っているだけだとそれ相応の接客をされるかもしれません。気持ちよくカフェを楽しめるように、知っておくべきフランスのカフェでのエチケットについていくつか取り上げたいと思います。

1、勝手に席に座らないこと

カフェでは基本的にギャルソンが席に案内してくれます。聞いてから座るのはいいですが、何も言わずに勝手に座るのは避けた方がよいです。なぜならカフェでは、食事用の席とドリンクのみの席が別れている場合が多いからです。まずはギャルソンの案内を待ちましょう。

2、勝手に席やテーブルを動かさないこと

もし、席やテーブルが足りなければそのように伝えましょう。勝手に席やテーブルを動かされるのをギャルソンはとても嫌がります。

3, 通路側のテラスに座った場合は隣の人と肘と膝がぶつからないようにしましょう

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4, 「待つ」こと

これは、私たち日本人からすると不思議なことかもしれません。日本のレストランやカフェでは、早い迅速なサービスはいいサービスだからです。フランスのカフェでは、待たなければいけないことがよくあります。コーヒー1杯でも数分待ったり、食事だと30分以上待つこともよくあります。でも決してイラついたりしてギャルソンを急かすことのないようにしましょう。フランスでのカフェの時間の流れ方は日本のそれとは全く異なります。ゆっくりカフェの雰囲気を楽しみましょう。

5, テラス席では喫煙が認められている

みんなばかすか煙草を吹かしています。もしタバコが嫌なら、中の席の方がいいかもしれません。

6, あまりうるさくしないこと

学生のノリみたいな感じで、ガヤガヤ音を立ててうるさく喋っているとギャルソンに注意されるか、他のお客さんに嫌な顔をされることでしょう。旅行気分で浮かれすぎてカフェで騒ぐことのないようにしましょう。

7, 思う存分カフェでの時間を楽しもう

カフェでは飲み、食べ終えたからっといってお会計を済まして早く去らなければならないというプレッシャーは一切ありません。コーヒー1杯で何時間も座っている人もよく見かけます。せっかくなので少し長居して、カフェの雰囲気に溶け込んじゃいましょう。


カフェでの注文の仕方

フランス語でどのように注文するのかについても少し説明したいと思います。

フランス語でコーヒーは、Café(カフェ)です。もし、フランスで un café(アン カフェ)と注文するとおそらくエスプレッソのショットが出てきます。フランスではドリップコーヒーよりもエスプレッソが一番スタンダードなコーヒーなのです。なのでun café、普通のカフェだとエスプレッソになってしまうのです。つまり、注文する際はコーヒーの呼び名を知るべき必要があります。

Café(カフェ) → エスプレッソ

Café filtré(カフェ フィルトレ) → ドリップコーヒー

Café allongé (カフェ アロンジェ)→ アメリカンコーヒー

ミルクの量によって変わる名前

フランスでは、ほんの少し(スプーン一杯ほど)のミルクを混ぜるcafé noisette(カフェ・ノワゼット)や、ミルクの分量を多めにクリーム状にしたミルクを混ぜるイタリア式のcafé latte(カフェラテ)なども存在し、こちらもカフェ・オ・レの一種と言えるため、区別をはっきりさせるためにミルクの分量によって呼び方も変わるためです。日本で言うカフェ・オ・レを飲みたい場合は、café crème(カフェ・クレーム)と注文しましょう。


まとめ

2018年から、パリのカフェのテラス席をユネスコの無形文化遺産に登録しようという運動があります。パリのカフェ経営者組合は団体を設立し、人が集まる社交場としてのカフェの側面、文化は守られるべきだとしています。

カフェはもはやフランス人のエスプリの一部なのかもしれません。色々落ち着いてカフェがまた開き始めたら、あのカフェにもっと通いつめたいと思います。


→こちらはイギリスのパブ編




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