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シェフにやけどをさせてしまった話

誰でも仕事をしていく中で「やってしまったな」というミスが一度はあると思います。何年経っても忘れられない、未だに頭を抱えてしまうようなミス。。。

僕にもあります。僕がレストランで料理人になると決めた駆け出しの頃、一つ大きなミスをしてしまいました。僕は数年前、ロンドンにあるレストランで働いていました。ガストロパブという、新しいガストロノミー(美食の文化)と従来のパブを融合させたスタイルを取り入れていて、毎日お客さんが絶えないとても忙しいレストランでした。僕にとっては、異国の地で働く初めての現地のレストランということで、常に新しいことの発見ばかりでした。

シェフはイタリア出身でおそらく45歳ぐらいで、13歳から料理を始めてキッチンで働き始めたという経歴の持ち主です。イタリアやフランスの有名レストランでも仕事をした経験豊富な人です。シェフはよく「私はキッチンで育ったから、外のことをよく知らない」と言っていました。シェフはとても厳し(怒りっぽい?)くて、サービス中は常に声を荒げており、いつもウエイターと喧嘩をしているような人でした。なぜいつもイライラしているのかな、怒られたら嫌だな、と思いながら最初は仕事をしていました。

その日は働き始めて1週間目の週末、土曜日の夜8時ごろでした。今でも鮮明に覚えています。150名以上入るレストランが満席になり、オーダーが絶えずキッチンに流れ込んできました。キッチンは、まだ働き始めたばかりの僕とシェフと他の二人のスタッフの計4名です。この4人で150名以上の料理を作るなんて無茶です。みんなのキャパシティを明らかに超えており、キッチンは爆発寸前です。みんなが100%に動いても明らかに間に合わないのです。僕はオーダーの紙が溢れて山のようになっているのをみて、一瞬にして自分が何をしていたか、そして何をするべきなのかを失ってしまいました。完全にブラックアウトです。

そしたら、シェフの荒げた声が聞こえて来るのです。


リョウ、何をしている!!!!テーブル60番だぞ、早くするんだ! ビーツのサラダはどこだ! 盛り付けは終わったか! 鴨のコンフィの付け合わせの、カブのピューレはどこだ! 急ぐんだ!!


シェフの声で我に返った僕は、急いでサラダを盛り付け、カブのピューレの準備に取り掛かります。そこで気づくのです、カブのピューレの小鍋を火にかけておいたのを。

やばい、焦げてしまう!

と咄嗟に鍋をとり、盛り付けのお皿の方へ持って行きました。

僕はその時パニックでカブのピューレ以外何も見えていませんでした。そこにはシェフがいて、鴨をちょうどお皿に盛り付けようとしているところでした。

ジュ、ジュウ、、、、、

一瞬このような音が聞こえました。何かが鍋にあたり焼ける音。とっても嫌な音。何だろう、この嫌な感触は。

そう、シェフの右腕のひじあたりに、僕のカブのピューレの小鍋があたったのです。小鍋は物凄く熱かったので、シェフにやけどをさせてしまいました。

シェフは反射的に、鴨を落としてしまい、そして持っていたフライパンを地面に思い切り投げつけました。


うおおおおお、何してるんだ、リョウ!!!!

すでにサービスはパンク状態なのに、やけどまでさせてしまってシェフは怒り狂っていました。幸い、やけどは思ったよりも軽くて大ごとにはならなかったけど、僕は申し訳ない気持ちと情けない気持ちでとても落ち込んでしまいました。

何とか、その日のサービスを乗り切り、サービス後に僕はシェフのとこに行ってもう一度謝りに行きました。

「ごめんなさい、完全に自分を見失ってしまいました」

完全に怒られると思っていたんですが

「もう終わったことだから大丈夫だ、次からはきおつけてな。よし、いっぱいビール飲んで帰るぞ」

と言ってくれました。シェフは仕事のオンオフがはっきりしていて、サービス以外の時間はとても優しいかったのです。

僕はこの経験から、どんなに忙しくても焦らないこと、常に周りを見渡せるようにすること、を学びました。その後約一年ほどそこで働きましたが、そこでの経験は僕にとって大きなものになりました。

現在、フランスのレストランで働けているのもその時の経験があったからだと思います。

今では、カブのピューレと鴨のコンフィは僕の得意料理です。

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