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サステナビリティに関する用語整理

最近、環境に関するヨコ文字新用語が多発し、これからサステナビリティについて学ぼうという方はさぞ困惑されていることと思います。

確かにSDGsをはじめカーボンニュートラル、エシカル、GX、ESGにCSVなど枚挙すれば暇がありません。その理由は、この分野自体が人類史上新たな領域であるほか、社会科学、化学、地政学、文化人類学など非常に広い観点から日々研究されている、デジタルと並び立つ人類の先端を行く研究分野だからだといえます。

しかしどうしようもないこの取っ付きにくさは何とかならないのか、とざっくりとした概念の関係性を理解するために書いてみた図がこちらです。

サステナビリティざっくり理解概念図

もちろん現実にはもっと複雑な関係性がありますが、言葉自体が指す抽象度を掴むことで、ニュースや記事を理解したり他人に説明する際に役立つはずです。

1. サステナビリティ

まずはサステナビリティ(持続可能性)というのが最も大きく抽象度の高い概念になります。地球自体のサステナビリティ、東京という都市のサステナビリティ、企業のサステナビリティなど、ある主体がサステナブル(持続可能)な状態であることを意味します。
近年のグローバル企業では必ずウェブサイトのトップに「Sustainability」という項目を設け、そこで環境や社会に対するスタンスを表明しています。この流れは益々多くの企業に広がっていくでしょう。
近い概念にエシカル(倫理的)がありますが、サステナビリティに包括されているのが実際のところです。エシカル消費といった用語をよく耳にするようになりましたが、元々は環境というよりフェアトレードなど人権に関する場面で用いられていた印象です。

2. SDGs

次に抽象度の高い概念がSDGsです。この用語自体は国連が定めた17のゴールと169のターゲット、その評価に紐づく更に細かい項目が定義されたかなり具体的なものですが、特に日本では2020年以降、SDGsという単語だけが凄まじい勢いで浸透したため、その内容よりもフワっとした感じで使われることが圧倒的に多く、抽象度が増しています。
まあ元来地球上の全ての課題を包括した言葉なので、非常に幅広い意味を持つ概念であり、具体策というよりスローガンであるため、誤解を恐れずにいえば「業界最安値に挑戦!」という看板と同じようなものだと思ってください。

似た概念にドーナツ経済というものがありますが、これは経済=右肩上がりの成長という思考停止をやめて、経済はある程度成長したらどこかで横ばいになり、それを維持するフェーズに移行し成長ではなく繁栄を目指すべきというのをドーナツ型の図で表した学説です。

ちなみにSDGsと騒いでるのは日本だけ、といった意見を見かけますが、実際に2023年で自分が訪れたEU諸国(フィンランド、オランダ、ベルギー、ドイツ、エストニア)では、例のあのロゴはほとんど見られませんでした。しかし企業ウェブサイトの2~3階層くらいではしっかりと各ゴールのロゴ付きで表明している企業も多かったです。

唯一SDGsを大々的に使っている印象だった2月のアムステルダム自由大学構内ですごくやる気のない棒読みスピーチをする学生

3. ESG

SDGsが人類全体を対象にしていたのに対し、少し具体化した概念がESGです。似た概念にCSRやCSVがありますが、ESGは長期投資に値する企業のあり方には、環境、社会、企業統治の視点が不可欠だとする投資原則のことを指します。ざっくりいうと、人様のお金を預かって運用している年金基金などの機関投資家が、10~30年のスパンで預かり資産を増やすということを考えた時に、気候変動や人権への対策を軽視する企業はおそらく30年後には潰れているであろうから、ESGへの対応をしっかり宣言し実行する企業に投資しようという話です。

上場企業は投資を引き上げられてしまうと株価が下がり、資金調達難や敵対的買収など様々な不都合が生じますから、ESG投資の拡大は非常に大きな影響力を持ちます。

また、これから就職する若者も30年の長期スパンで企業を見るという点では共通ですから、ESGに後ろ向きな企業は人材調達も困難になるといえます。
2021年時点で世界の全運用資産98兆4千億ドルの約35.9%がESG投資とも言われているため、ESGもかなり大きな概念と言えるでしょう。

4. カーボンニュートラル

ここからいよいよ具体策の話になってきます。カーボンニュートラルとはつまり人為的原因による地球の気温上昇を抑えるため、化石燃料の燃焼等の経済活動によるGHG(Green House Gas、ほとんどの場合CO2を指す)排出量と、森林や海水によるCO2吸収量をプラマイゼロにするという状態です。ネットゼロ、カーボンゼロ、カーボンネガティブなど派生語が沢山ありますが、日本では脱炭素という言葉が一番馴染み深いでしょう。主に脱炭素のことをDXと並ベてGX(Green Transformation)と言ったりもします。

SDGsやESGで指摘される課題の中で、最もサステナビリティに悪影響を及ぼす可能性が高いのが気候変動であり、これを何とかすることが人類共通の課題ということが合意されたのが2015年のパリ協定ということになります。

カーボンニュートラルを実現する手段は明快で、再生可能エネルギーの導入やその電力で動く電気自動車に変えることでGHG排出量を減らしつつ、植林や天然林開発の抑制などで森林面積を増やして吸収量を増やすことです。
しかしコトはそう簡単には行かず、既存の技術やインフラの限界、人工増加と資源の枯渇、先進国と開発途上国、アチラを立てればコチラが立たずということが多すぎてGHG排出量はぐんぐん増えているというのが現実です。

それでも現実的に上がっている気温と増える災害に対して人類が出来ることは脱炭素くらいしかないので、みんな必死になって頑張っているのです。

5. サーキュラーエコノミー

いよいよ長くなってきたので、最後は簡潔に。サーキュラーエコノミーはまだまだ日本では馴染みの薄い言葉ですが、これを提唱し政策にガッツリ取り入れているEUでは、カーボンニュートラルを実現するための具体策という位置付けで推進されています。エネルギーを再生可能にするだけでは片手落ちで、そもそも大量生産大量消費システムに伴うエネルギー消費や使い捨てを減らしていくことで、気候変動に対処すると同時に人口増大による資源枯渇の問題も解決するという経済システムです。DXの文脈で語られることが多かったシェアリングビジネスも、サーキュラーエコノミーでは重要な位置付けをされています。

現在の大量消費社会からサーキュラーエコノミーに移行することでカーボンニュートラルを達成し、それによってESGやSDGsが達成され、サステナブルな社会が実現するというのが、今現在環境分野で様々な言葉で言われていることなんだと理解していただければと思います。


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