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映画「眉村ちあきのすべて(仮)」プロデュース記2 〜どうやって作るのか悩む編〜

前回の記事(https://note.com/ryoheiueno/n/nf45a26c0b784)で僕は、推定予算5億円の映画を200万円でプロデュースするという無理難題なミッションを背負ってしまいました。

そこで今回の記事では、実際にどうすればそんな事が実現できるのか、思索を巡らせ、制作に漕ぎ着けたのか、その経緯について語ろうと思います。

そもそも200万円で出来る事は何か?

学生映画などを除いても、200万円で作られる映画は存在しています。例えば、超低予算Vシネマなどはそういった予算で作られているものが多くあります。これをある程度キャスト・スタッフのギャラなどを適正な範囲で支払おうとすると、ほぼ徹夜の2日撮りという事になります。本編の長さも60分前後と「ギリギリ長編映画」と言える長さが精一杯です。

これが恐らく、人間がフィクションの映画を撮る限界値のスピードになります。その為、美術セットや装飾、小道具にこだわる時間もお金もなければ、役者さんの演技も納得が行くまでやり直す時間はありません。監督はトイレすら行けないと思います。絶対に低予算映画の監督で膀胱炎になった人いると思います。

また別の機会に詳しく書きますが、映画の制作費にはギャラや小道具購入費だけではありません。撮影機材のレンタル費や、撮影スタジオ代(安くても1時間2万円等)、レンタカー代(作品によっては3台にも10台にも)、全車両の駐車場代・高速代・燃料代、全員分のお弁当代などもかかり、100万円なんて簡単に1日で無くなってしまう世界なのです。

どんな脚本を撮ろうとしていたか

ネタバレになるので詳しい事は書けませんが、ハリウッド大作(「スター・ウォーズ」「トランスフォーマー」)のような大スペクタクル映画のような内容でした。ワンルームマンションで男女二人が愛を育んだり、河原を歩いたりするような内容ではありません。

沢山のCG合成カットや現実ではあり得ないようなロケーションがバンバン登場します。そうなると勿論1日100万円では到底撮れないし、2日間でも到底撮れません。

脚本を書いた監督はどんな顔をしていたか

そんな実現不可能な世界を描こうとした監督は、涼しい顔で「どうすればいいでしょうか・・・」と言っています。それはこっちが聞きたかったです。

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実現するための方法を考える

しかし男に二言は許されません。「なんとかしましょう」と言ったからにはなんとかしなければなりません。それが、映画プロデューサー道です。

まず最初に考える事は、人件費をいかに削るかになります。映画の予算に占める割合の中で最も大きいのが人件費です。通常、映画撮影においては、まともな現場の体を保つには、低予算作品でも最低10人は必要になります。

監督、カメラマン、録音、照明、助監督、メイク、スタイリスト、美術、制作(2人)といった具合です。「助監督」とはシーンの撮り順を決めたり、各部署と連携を取る司令塔の役割を果たし、「制作」とは車の運転からロケ地交渉、弁当の手配などの撮影現場のアレンジとケアを担う仕事です。

しかしそんなにスタッフがいたら到底ギャラを払えません。勿論払わなければいいというやり方もありますが、それは友達同士で作る場合でしか通用しない話です。ギャラを安くするといったって、あまり安くしすぎると払わないのと同じです。そうなると、スタッフの数を減らすしかありません。どうにか4人くらいで撮れないか、という話です。

今回の場合、幸いそれが上手くいく環境でした。松浦監督は普段自分でカメラを回しますし、照明もされます。編集やCGもやります!との事でした。制作さんは眉村さんの会社の人が車を出してくれたりなどしてくれました。そして彼らは社員として固定給を貰っているのでギャラは発生しません。そう考えると改めて凄過ぎる眉村さん・・・。

また今回、複数のカメラで撮影しなければいけないシーンが多くあったのですが、そういう撮影の日だけ、もう1人か2人カメラマンさんに来て頂きました。録音とメイクはどんな時でも必ず必要なので、録音さんとメイクさんはほぼ全日程来て頂きました。衣装に関してはスタイリストさんから事前に衣装を預かる事で現場には来て貰わなくていいようにしました。

そして僕は、その他の助監督、美術、そして時にはカメラマンも、兼任する事になりました。「プロデューサーという仕事は現場では何もする事がない状態がベスト」と言われる事がしばしばあります。上手く準備出来た証拠だし、トラブルがない証拠でもあるからです。しかし今回の僕、めちゃくちゃ色んな事をしなくちゃいけない!!要するに、常時トラブル状態!!!

とはいえ、眉村さんが会社を持っていたという事と、スタッフ陣がマルチプレイヤーな事で、奇跡的な座組みが完成したのです。

しかしそれだけでは4億9800万円の経費削減にはなりません。そこで僕は監督に「そもそもこの映画、どのくらいのクオリティを目指してます?」と訊いてみました。すると監督は「まあ本当にハリウッド映画のようには行かないので、ある種の"チープな感じの良さ"に持って行くしかないですよね」と答えました。

でた!この発言、危険信号なんです。世の中には「敢えてチープな感じを狙った映画」って山ほどありますが、大体上手く行ってない事の方が多いんです。何故なら「"チープな感じの良さ"を目指している」事にかまけて、「なんでも"味"として受け入れられる」と製作陣が勘違いしてしまうと、映画を面白くする為に深く考えるという事をヤメてしまうんですね。その結果、本当にただチープで目も当てられないモノになるか、「このチープな感じ、好きでしょ?」的な上から目線のイヤーな感じのモノになるのです。後者の方はあまり気付かないお客さんも多いのも事実です。しかし、感じる人にはすぐ見透かされてしまう。

たかがアイドルの企画モノ映画、だけどそれは映画なのだ。舐めてかかったら映画の神様に怒られる。

これが俺の流儀!俺が有名になったら、誰か語録に入れてくれ!いつもキネマの神様の存在を意識しながら映画を作っているのです。アイドルの企画モノ映画のプロデューサーと馬鹿にする奴はすればいい。でも、オシャレ風な映像で物憂げな女子高生が何かを考えているような考えていないような、そんな映画を撮ってチヤホヤされている映画監督殿の方が、キネマの神様を舐めている場合だってあるかもしれないよ?という事をよーく考えてみてほしい。

まあとにかく、200万の予算で大スペクタクル撮るなら、"チープな感じ"も必須条件なので、まあ普通に受け入れました。第一、松浦監督のミュージックビデオを観たら、とんでもなく悪いモノにはならないんじゃないかな〜とは思いました。割と普通にオシャレなんですよね。

とはいえ、チープな感じにしたところで、問題は山積み。とてつもない数の眉村ち◯き(ネタバレ回避のため伏字)が出てくるし、地下都◯(ネタバレ回避のため伏字)やビルの大量◯壊(ネタバレのため伏字)とか、チープでいいからといっても、出来ない。ハリウッド大作のクオリティで実現した場合を100とした時、チープでいいから5や15くらいのクオリティなら出来るという話ではありません。0から1にする事がまず無理なのです。しかもメインスタッフの数は極少だし・・・。

やっぱり無理かな・・・と思ったのですが、僕にはやる以外の答えはありませんでした。僕は「ジュラシック・パーク」「スター・ウォーズ」「トランスフォーマー」「ワイルド・スピード」やマーベルみたいな映画が作りたくてこの世界に入りました。そして入ってから気がついたのです。日本じゃ作れないという事に。映画バカ青年(命名は「オタク」名付け親の中森明夫さん)の僕は、バカだったからそんな事もわからず飛び込んだ業界だったけど、そろそろ嫌になってきていました。ゆくゆくは海外で映画を作りたいけど、今日本にいる限りこの「眉村ちあきのすべて(仮)」を作らない訳にはいかなかったのです。

打ち合わせの後、松浦監督が「取り敢えず眉村さんに会いますか?」と訊いてきたので、会いに行く事になりました。その道中、「あのシーンどうしますか?」なんて訊いても監督は「う〜ん、どうしましょう」と言う。「どうしましょうじゃねえよ!」と心の中でツッコミを入れていると、河原らしきところに到着。結構雨が降り始めてきたのに、なんだか沢山の人が楽しそうにワイワイしている。その中に足を踏み入れると、眉村さんがこちらにやってきました。

松浦監督が「こちら、映画のプロデューサーさんです」と僕を紹介すると、屈託のない笑顔で「よろしくお願いしますっ!」と言ってきた眉村さん。僕が「ここで何してるんですか?」と訊ねると、眉村さんは「河原でファンのみんなと遊んでます!」と答えました。その時僕は思いました。

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なんか、もう考えるのやめよう・・・

雨に濡れると人はどうでもいい気持ちになる現象が何と言う名前なのかは知らないけれど、多分その現象も相まってか、そんな気持ちになりました。

呆気にとられている僕の方を見て松浦監督は「眉村さんってこういう人なんですよー。ワハハハ」と笑ったのですが、目だけはいつものヤク中みたいなギンギンの目のままでした。だけど、ただ頭のオカシイ人の目ではなく、その奥に何かしらの確信を秘めた目であるようにも見えました。

こうして、僕も松浦監督と一緒に、眉村さんの世界へと迷子になってゆくのでした。




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