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Ep.5 San Esteban de Zapardiel

マドリッドから郊外へ車で約90分。車内にはミライの父アルフォンソと僕の間に沈黙が流れる...。

San Esteban de Zapardiel

8時には宿を出てミライの実家へ向かう。後日再び利用する宿ではあるが、荷物を一度実家に移動させるためスーツケースを持ってバスに乗り市街地へ再び繰り出す。マドリッドのバスはマスク着用には非常に厳しく、マスク未着用だと絶対に乗せてくれない。今日はミライの父親の別荘があるSan Esteban de Zapardielに遊びに行く予定だ。特別なリゾート地というわけではなく、彼の母親の故郷で彼にも思い入れがある場所とのことだ。昨晩はベア達と遅くまでディナー(そもそもスタートが遅すぎる…笑)だったので眠い目を擦りながらも時間に送れないように急いだ。

朝の柔らかい光がカラフルな街を照らす

実家のアパートに到着するとミライの父、アルフォンソが迎えてくれる。母のミチコさんは丁度仕事に出たばっかでお会いすることはできなかった。
必要な荷物だけをピックアップし、車に乗り込む。
「これも運んでくれないか」
とアルフォンソは僕に謎の重くて白い物体を託し、それを僕は詰め込む。
走り出した車の中で後部座席で少し緊張しながら外を流れる街の景色を眺める。

目的地はSan Esteban de Zapardiel。San Estebanと調べると真っ先に出てくるのはサラマンカの別の街で、そちらのほうが遥かに知名度があるだろう。今回向かうのはSan Esteban de Zapardiel。de Zaparidielはサラマンカにあるものと区別するために付けられたものである。こちらは小さな小さな村で、人口はわずか30人ほど。ミライ曰く周りに本当に何も無いらしい。異国の田舎町。想像するだけでワクワクする。

マドリッドの街を抜けてハイウェイをゆく。スペインのハイウェイは日本と違って皆随分とかっ飛ばしていく。車窓からの眺めはだんだんと田園地帯に変わっていく。車内ではアルフォンソとお互いのことについてたくさん話した。アルフォンソが話すのは基本的にスペイン語だ。なので、僕とアルフォンソとの間にミライが通訳として入ってくれる。しかし、通訳をしてくれるミライが寝てしまうと僕とアルフォンソは会話ができないので何とも言えない気まずい沈黙が1時間ぐらい続くこともあった。
しばらくするとハイウェイをいったん降りて下道を走り始める。
「ここは綺麗なところだから下道をいくよ」
と、美しい田園地帯を走ってくれた。美しい牧歌的な景色だった。阿蘇を少し思い出した。本当は止まって写真を撮りたかったが言い出せなかったのが唯一の心残りだ。

寄り道

「今日の夜ご飯のために肉屋に寄るよ」と目的の近くの町に立ち寄った。この町もマドリッドに比べたら本当に小さな町で、お店もあまり多くなく民家が多い。ただ、歴史のある建物や広場がまだ残されており、アルフォンソが案内してくれた。彼はギャラリストでもあるが、本業は美術鑑定士であり、歴史にも精通している。特に興味深かったのは、町がどのように大きくなっていくかということだった。

レンガや石できた家が立ち並ぶ
町は広場を中心に形成される。
広場が作られその周りに人々が住み始めるということを何度も繰り返すことで町は大きくなる
瓦とレンガを組み合わせた建築
ヨーロッパというよりイスラミックな風貌がこの地域の建築で見られる


街でやっていたちょっとした展示を覗いたり…

町の肉屋で今日の夜ご飯を買い、スーパーに拠ってSan Estebanに到着した。
別荘は街の端っこに位置していた。
小さなゲートを通ると中庭があり小さな家が佇んでいた。
「ちょっとそれを運び出してくれないか」
アルフォンソに指示され、例の謎の白い物体を運び出す。
「ここにおいて」
置いてから気づいた。顔が彫られていた。どうやらこれはミライの作品らしい。
「これを置いて家が完成するんだ」
アルフォンソは嬉しそうに話す。まだ別荘は少しずつ手を加えているということは聞いていたが、まさかこの作品を置いて完成とは。この親子にとって大事な瞬間に立ち会うことができてとても嬉しかった。

地面から生えてるように
今日のお昼ご飯になる畑で取れたズッキーニ

さて、少し遅めのお昼ごはん。道中肉屋で購入したステーキ肉をアルフォンソが庭先で焼いてくれる。僕はミディアムレアだ!さらに付け合せでフライドポテトとパンを用意する。そして、僕が日本からお土産で買ってきたビールを用意すれば立派なランチの完成だ。別荘は木の素材を全面に押し出した作りをしており、暖炉も備えている。そんな素敵な空間で食べる如何にもヨーロッパな食事は異国の旅の醍醐味なのではないのだろうか。

ランチを食べ終わる頃にアルフォンソの従兄弟が遊びに来た。このSan Estebanに住んでおり、手作りのワインを持ってきてくれた。残念ながらワインはすぐに冷蔵庫に吸い込まれてしまったが、きっと美味しいのだろう。名前だけを述べる簡単な自己紹介をしたが、やはりこれだけしか喋れないのはもどかしく感じた。

アルフォンソに連れられて村を散策する。
村の外はどこまでも畑が続いており、村の外れには羊舎があった。農道の近くには枯れた川の跡があった。アルフォンソが子供の頃は川には水が流れたくさんの木が生えていたそうだ。そんな景観を取り戻すために彼はかつて木があった場所に苗木を植え始めた。農道の脇に目をやると、筒で守られた小さな苗木が並んでいた。
「僕はこの木が大きくなるのは見れないけど、君たち二人は見れるから」
彼はそう言った。
家に戻り映画を観ることに。ただ、僕はあまりにも疲れていて直ぐに眠ってしまった。

地平線がただ広がる
親子で
真ん中にあるのが苗木
羊舎
彼からこの村への愛が伝わってくる

朝の散歩

次の日は朝6時に目が覚めた。ただ、外は真っ暗。1時間ベッドの上で時間を潰す。しかしまだ外はだいぶ暗い。緯度の関係だろうか。スペインの朝は日本と比べてだいぶ遅いようだ。しびれを切らしてフィルムカメラと共に外に出る。村全体が眠っているのが感じることができる。とりあえず村の端から端まで。ぐるりと歩いていると、車が僕の隣をゆっくりと通り過ぎる。ピンクの帽子を被った運転している男は僕の顔をじろりと覗いた。
車から距離を取り眺めていると男が僕に呼びかけた。
「xxxxxxx Arfonso xxxxx novio xxxxx?」
何も聞き取れない。辛うじて聞き取れたのは"Arfonso"と"novio"という単語だけ。novioは彼氏という意味があるので何となく推測するに

「アルフォンソのところの娘さんの彼氏か?」

的なことを聞かれたんじゃないかと思った。なんとか質問に答えようと知ってるスペイン語の言葉を総動員して彼の問に答えた。最後はお互いにBienと言い合った。
男が荷台を開けると中から大型犬が3匹飛び出して僕の方に走ってくる。噛まれるかと思って身構えたが、3匹の犬は僕の周りを駆け回り主人の元へ戻っていく。
朝の散歩だろうか。犬たちは主人と一緒に遠くへ歩いていった。
家に帰って2人に今朝あった出来事を話した。アルフォンソにピンク帽子の男のことをつたえると「あぁ〜彼ね」といった感じで知り合いらしい(そもそも村のみんなはほとんど顔馴染といった感じだ)。あの犬たちは兎狩りに行く犬たちとのこと。うさぎ好きなミライは少し悲しそうな顔をしていた。

まだ暗い
兎狩りへ
男と犬たち

出発

首都マドリッドから車で2時間のSan Esteban。ガイドブックには勿論紹介も無く、スペイン人も一生のうちに訪れるかどうか分からない小さな村。日本人の99%は訪れることすらないだろう。僕とこの村の出逢いは運命的だった。ミライと出逢わなければここに訪れることすらなかっただろう。この村の今後数十年の変化を僕は見ることが出来るのだろうか。
また訪れたい。という気持ちだけを残して車はSan Estebanを後にする。

またこの地を訪れたい

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