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発想の大転換、メタバース活用による実世界の脱炭素化のアプローチ

脱炭素の大きな潮流

カーボンニュートラル、脱炭素、グリーントランスフォーメーション(GX)等、言い方は様々あれど、これらの言葉を聞かない日は無いほど、世界は持続可能な社会を構築することに邁進しているように見えます。
我が国政府も、2050年カーボンニュートラルの実現、また、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向け挑戦し続けることを宣言しています。
私は2003年頃に地球の水資源や生態系、都市のサステナビリティ等に興味を持ち、大学院で工学修士を取得した後、日本では就職をせずに、2005年にドイツの環境首都と呼ばれていたフライブルク市に渡り、環境建築や都市計画を得意とする建築家のもとで働き始めたのが人生最初のキャリアでした。
ですので、すでに20年くらいは、この分野に意識をもって仕事をしてきました。しかし、どこかで昨今のカーボンニュートラルの政財界の動向には、まだ何かが足りないという感覚も持っていました。自分自身、現状の脱炭素化のアプローチについて腹落ちしていないところがあるというのが正直なところでしょうか。
そこで今回のnoteの記事では、現状の脱炭素化のアプローチとは、また異なるアプローチについて記載したいと思います。言わずもがな、現状のアプローチを否定するものではなく、異なる発想の一つのアイデアくらいに読んで頂ければと思います。

脱炭素化の現状のアプローチ

脱炭素化のアプローチというのは無数にあると思いますが、創エネルギー側のアプローチと、省エネルギー側のアプローチが主要なものではないでしょうか。まずは化石燃料を使用する発電方法から、太陽光や風力等の再生可能エネルギーに切り替えていくような活動が真っ先に思いつくところです。私がかつて専門的に取り組んでいたのは住宅部門の省エネ化で、近頃でいうネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)のように、住宅の断熱性や気密性を高めて、暖房エネルギー消費を極力下げるような取り組みも、非常に効果的であり、今後もさらに推進の必要な活動であると認識しています。
こうした取り組みに限らず、現代ではあらゆる産業が知恵を絞り、グリーン分野の新ビジネス創造やイノベーション創出も含めて、日進月歩で研究が進んでいます。

都市の効率化を目指すスマートシティの在り方の変化

私は、サステナブルな都市を目指すためのスマートシティ構築の活動も進めてきました。スマートシティといっても、そのコンセプトや内容は様々あります。その内容次第では、賛否両論あることも認識しています。スマートシティに関しての論述は、また別の機会に書きたいとも思いますが、ここでは脱炭素に関連して記述するとすれば、これまでのスマートシティでは都市の状況をデータにより把握し、その需要と供給を最適化し、効率化することで、人々の生活利便性や快適性を向上させたり、エネルギー消費を削減したりというような新たな都市像が目指されてきました。この際に個人のプライバシーやデータガバナンス等、まだ解くべき課題も山積みですが、世界的なイニシャティブとして、より良いスマートシティの在り方についての研究も進んできています。
しかし、私は今回のパンデミックにより、少し従来のスマートシティの在り方のイメージにも変化が必要になっていると考えています。そのことについては過去にnoteでも記載しています。

生活のオンライン化による物理的都市の縮小

これまでの脱炭素化のアプローチでは、エネルギーを消費する需要家側の都市のイメージは固定されており、その一定のエネルギー消費が必要な物理的な都市をいかに効率化するかというチャレンジがなされてきました。例えば、一つのオフィスビルがあり、人がいないときはセンサーで判断して照明を消して、照明の電力消費を減らす、などの取り組みもその一つです。あるいは駐車場の屋根に太陽光パネルをつけて、そこで発電された電力をEVに給電し、さらに再エネを促進しましょう、というのも同様で、これらはリアル側での効率化の改善策のアプローチです。しかし、私は、脱炭素の問題解決をする場合には、さらに根っこの解決策も取り得ると考えています。つまりは、エネルギー消費する客体自体を消してしまうアプローチです。

少し脱炭素とは違うテーマで例を挙げたいと思います。毎朝、満員電車で混雑している鉄道路線があるとします。この満員電車の状態を減らすには、どうしたら良いでしょうか。電車を二階建てにする、電車の本数を増やすなどして、乗車できるキャパシティを増やす方法があるかもしれません。あるいは、混雑車両と比較的空いている車両の情報をアプリ等で可視化して、乗客の分散化を図ることや、混雑時間から少し前や後の時間帯の電車に乗ってもらって、オフピークにより混雑を避ける方法もあると思います。
ここに記載したような取り組みは、私たちが目にしたり耳にしたことがあるような取り組みですよね。これらを、私はリアル側の社会での解決策と呼ぶことにします。
一方で、他に私たちが知っている施策がまだありますよね。それは、オンライン会議ツール等を使って、リモートワークにして出社せず、そもそも電車に乗らないという手段です。仮にみんながこれをしたら、電車の混雑は確実に減少します。事実パンデミックの自粛期間中に、電車の乗車率は圧倒的に減少していました。
私はこのようなアプローチを、バーチャルを活用した解決先だと考えます。ここでは、満員電車の混雑をペインに設定しましたが、同時に移動のエネルギー消費量の削減についても同様の効果がありえるはずで、人が移動する際のエネルギー消費は、バーチャルの活用で不要な移動を減らすことで削減できるはずです。

メタバースによるリアル社会の脱炭素化

前述したとおり例えば私たちはリモートワークをし、オンライン会議で済ませ、リアルに出社しないことで移動の時間や消費エネルギーを減らせることを知っています。立派なオフィスで会議をするための照明や空調、巨大なビルを維持するための様々なエネルギー消費の削減に寄与することも知っています。
私は、脱炭素と社会のオンライン化というのは非常に密接な関係があると考えています。今回の記事のタイトルでは、メタバースという言葉を用いましたが、この現代のビジネス界をにぎわせているバズワードのメタバースも、私は脱炭素化のアプローチの一つとしてとらえています。
オンライン会議ツールとメタバースは、その機能や特徴は異なれど、共通しているのは、バーチャル空間で活動ができるということです。すでにオンライン会議ツールを使って仕事ができることは証明されていますが、今後メタバースも様々なユースケースが開発され、具体的な取り組みが進み、人々が慣れていくことで一定の普及を見せると考えます。
メタバースの活用で済むような用事は、メタバースで済ますというように、必ずしもすべての社会活動をリアルの実社会で、様々なリソースを消費しながら実行する必要もなく、現代の持てるテクノロジーをうまく使うことで、際限のある地球資源を有効に使うことができるのだと思います。
私はメタバースのような最新のデジタルのテーマに取り組んでいる層のビジネスマンと、エネルギーや脱炭素のような比較的にフィジカルなインフラ寄りのテーマに取り組んでいる層のビジネスマンとは、やや興味関心に隔たりがあるように感じている部分があります。しかし本来は「脱炭素化のアプローチとしてメタバースを使おう!」という論調がもっとあっても良いものと考えています。
すでに国際エネルギー機関(IEA)も、人々がリモートワークを推進することで、原油の使用を1日あたり数十万バレルになることに言及しています。私はあえて、メタバースの有効性の話をするときに、脱炭素と絡めた話をします。まだ少し不思議な顔をされることも多いのですが、今後、バーチャル空間を使い、相対的にリアルな都市空間を使う用途を今の状態より削減していくというのも、脱炭素の新たなアプローチになるのではないかと考えます。(但し、データセンターのエネルギー消費の問題は別途解決する必要があることは忘れてはならないと認識しています。)

既存産業のインダストリー・トランスフォーメーション

この話は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の話としても整理することができます。DXは、それが推進される過程で、物理的なものを非物質化するという一つの特徴があります。これをDematerializationと言いますが、私は現代において進められているスマートシティや、まちづくりのDXとは、物理的な都市そのものをDXの対象にすることと認識しており、必然的に、物理的な都市はDematerialization(非物質化)が進んでいるのだと考えています。
私のように通常はリアルオフィスに行かずに、一日中オンライン会議ツールのなかで会話をして仕事をしているような生活では、すでに実際の都市空間は非物質化されていると捉えることができます。
私は、今回のnoteではリアル側の都市を効率化するというアプローチだけで脱炭素の問題を解くのではなく、メタバースやオンラインツールによって、バーチャル空間をうまく使うことでエネルギー消費の客体自体を消してしまうようなアプローチについても、メジャーで有効な方法として、もっと真剣に取り上げていくべきという趣旨を書かせて頂きました。

最後になりますが、但しこのアプローチにはさらなる課題もセットでついてきます。リアル側の都市を非物質化し、その需要を縮小させていくことは、場合によっては地球環境には良い側面がでてくるかもしれませんが、過渡期においては、一時的に、既存産業の破壊をもたらす可能性があります。日本の場合、多くの製造業や、不動産・建設業、交通産業、エネルギー産業等、この日本の雇用を支えてきた産業全体がシュリンクする可能性があるからです。
しかし以前のnoteに書いたとおり、私たちは、そのような課題も乗り越えて、まったく新しい社会システムさえも創造していかなければならない世の中を生きているとも言えます。

できれば皆の知恵を終結させて何かブレイクスルーできることを期待しています。そのために私も引き続き、このような研究を継続していきたいと思います。
ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


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