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読書はじめ2023正月~サステナビリティと「人」~

ブームの予兆としての「人」とサステナビリティ


大分頭使わずリフレッシュして過ごせたので1月3日読書はじめ。

私に関しては「自己紹介」もご参照いただけると嬉しいですが、『人』『サスティナビリティ』に関する仕事はずっとしてきて継続的に大事なテーマです。
だから個人的には「ブーム」で終わって正直いけないと思っています。

しかし、昨年後半から世の中的に『人』が再びブームになる流れは感じています。

■背景として大きくは
・政府が大きく方針と予算を打ち出して一般的な用語としても認知度の高まった「リスキリング」

・あえて「ブーム」という言い方使いますがSDGs「ブーム」の流れでNo.8働きがいとNo.4教育、No.5ジェンダーが、企業内部テーマとしてフォーカスされることによる「働き方改革」ブーム再び

・SDGsを企業として取り組むと行きつくESGの流れで、バックログロして後回しにされていた感のある「人的資本開示」と、昨年出て話題になった人材版伊藤レポート2.0からの「人的資本経営」ブーム。

■どれもブームで終わってはいけませんが、他方でどれも継続的に大事なテーマです。
ブームで終わらせず、むしろ追い風として活動を進めるのは大事で、そのためにもむしろ、今の潮流をつかむ上での書籍3冊ピックアップして年明けに読んでみました。

【1】「ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機」(濱口 桂一郎)

ジョブ型雇用社会とは何か(Kindle版)

結論、かなり良い本です。

タイトルからは、よくある「日本でよく言われているジョブ型契約は勘違いされている」的な解説本かなと思いました。

それも大事なのですが、この本それだけではないです。
むしろ「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の整理を背景に、日本の採用、雇用、キャリアパス、賃金、就業時間、定年再雇用、女性の働き方、外国人、正規/非正規、組合・・・など、その都度その都度部分最適化してきた結果今に至る流れと、今どこに歪みがあるのかの流れと構造をよくまとめています。

更に、本来は「戦後できた構造」の歪みと認知バイアスを正当化するためにいつの間にか日本の伝統とか文化にすり替わってきた日本のコンテキストもよくまとまっています。

ちなみに昨今流行りのリスキリングがどうもスキルではなく単なる趣味の話になるか、または余りにも近視眼的な場当たりスキルの話になりがちなのも、そもそも「何に対して」のリスキリングか的が見えていないからだと思いますが、なぜ的が見えないのかもジョブ型・メンバーシップ型の構造から考えると、そうなるよなと思います。

1個1個のテーマは日本の人事や日本社会の雇用の在り方に興味がある人なら初耳ではない話とは思います。
しかし、それらを著者の見解を混ぜながらコンパクトにまとめているのは一読の価値ありです。

人事や労務、キャリアの専門家にもですし、「日本の労政はこういうもの」と所与のものとしてわかっているベテラン社会人やマネジメントの専門家、これから社会に出る学生にもおすすめです。

個人的には、戦後メンバーシップ型で経済成長してきた日本ですが、個人のキャリアや家族、学生、女性、外国人、など色々皺寄せをしながら、その都度部分最適な解法を見つけ、部分最適の歴史が歪みを創ったと思います。

だからと言って、今から制度だけジョブ型にすると、そこで割を食う人や変化に対応できない人や組織が出てきます。
その覚悟無しに「ジョブ型」を語ることがジョブ型の議論を歪め、それこそ一過性の「ブーム」になることが懸念です。


【2】経営戦略としての人的資本開示 HRテクノロジーの活用とデータドリブンHCMの実践(一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム)


経営戦略としての人的資本開示

・今(2023年1月)時点で人的資本開示自体について概要を抑えておくレベルでは十分な本です。

人的資本開示が日本ではこれからですし、指標の立て方や評価の仕方もまだ「スタンダードの芽吹きがある」でありこれがスタンダードというものはないと思いますが、そこもトーンとして「こういう動きがある」と抑え気味で紹介しています。

事例も、ISO30414やESGの事例でよく出てくるドイツ銀行やバンク・オブ・アメリカ、日本の日立や楽天が出てくるので、これも「概要を抑える」意味で良いと思います。

しいて欲を言うと、例えばISO30414のウエルビーイング指標が労災と傷病休職者数で「 それ、【ウエルビーイングじゃない指標】ではあってもウエルビーイングか指標か?」などISO30414のツッコミどころにも切り込んでくれると嬉しかったですが、あくまで概要本だと思うので致し方なし。

あと、出版が「一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム」なのでどうしてもHR-Techを前提としがちです。
そのため、データで管理でき、分析可能で、かつAIで施策の提案可能って前提が置かれているのがHR-Tech文脈になじみのない方には違和感かもしれません。

ただ、【1】と併せて読むと、日本の人的資本開示と人的資本経営の難しさを改めて整理して考えられます。

そもそもジョブ定義がない中で、開示する「資本」の指標の定義、妥当とすべき数値の定義、評価方法の定義をやろうとするのは単に数字の話だけではなく「組織と人の在り方」まで踏み込むテーマです。

【3】すべての企業人のためのビジネスと人権入門(羽生田 慶介 )


すべての企業人のためのビジネスと人権入門

企業のSDGsビジネス文脈での「人権」の本です。
法哲学としての人権や社会の構成要素としての人権、憲法の根幹としての人権の話ではなく、企業がビジネスを行う上でのテーマとしての人権の話です。

そのため、長年、人権について活動された方にはビジネス色が表に出ることで話が表層的になるのを忌避される方もいるかもしれません。

また、前半で出てくる企業の人権問題事例も長年人権に取り組んでこられた方には今更感があるかもしれません。

他方で、企業がSDGsに取り組む際、環境問題と比べても社会課題としての人権はネガティブインパクトのリスクを抑える因果関係などのチェック項目や評価指標などが少なく後回しにされていた感があると個人的には思います。

また、ビジネスにおいて人権の話はコストセンター扱いされがちです。
つまり「正しいこと言ってるのはわかるけど、それ何の儲けになるの?」「企業が人権の話して何かうちに嬉しいことあるの?」という扱いです。

もちろん、炎上によるレピュテーションリスクが具現化した際のコストや、そもそも労働諸法やその他各種の法に触れた場合のコストは金銭換算可能です。

この本の序盤でまず、問題事例から入っているのは、そうした企業文脈を意識してだと思います。

事例とともに、各種チェックリストを用意しているのも、ビジネスシーンで必ず聞かれる「事例」と「チェック項目」を抑えていて、コンサルタントの著者らしく企業向けを意識しているのが伺えます。

ただ、それだけだと人権は「面倒くさい厄介者」という扱いをされがちです。

この本後半は、CSV(Creating shared value)を持ち出し、守りとしての人権だけではなくビジネスとしての攻めの人権、つまり世の中の人権に関する状況改善をむしろビジネステーマとして企業の利益にもつなげるという展開を見せています。

「人権ビジネス」というと胡散臭い印象を持たれるでしょう。
著者自身もそこを理解したうえで敢えて書いています。

世界を良くも悪くもする大きな力を企業は持っています。
また、大企業だけでなく大企業とコレクティブ・インパクトでパートナーシップを結ぶNPOの役割にも踏み込んでいます。

個人的には、企業を動かす論理を意識したうえで「人権」に踏み込んだという点で価値がある本だと思います。

3冊読んで改めて思うこと

ビジネスにおいて『人』の話も『サスティナビリティ』の話も、突き詰めれば「いい感じにするために何とかする」です。

何とかするの主語ですが、企業側を主語にしても、そこで働く人がいい感じにならなければ、いずれ組織が持続しません。

企業単体でいい感じだと思い込んでいても、企業が存在する社会とその社会が存在する土台たる環境が破綻したら企業は持続しません。

「ジョブ型にしなければいけないからする」とか「人的資本経営をしなければいけないからする」でもなく「人的資本開示しないといけないからする」でもありません。

マネジメントとは「何とかする」ことであり、「いい感じにする」ための価値があるから何とかする、というシンプルな原則は、シンプルがゆえに忘れ去られがちですが、でも大事な話です。

そう思った正月3が日最初の読書でありnoteでした。

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