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その鍵は誰のもの?

末吉君(仮名)は、SF小説家になるのが夢だった。私は彼の初めてのSF小説の完成が待ち遠しかった。それを読む刻が来るまで、まるで果てしなく思えた。

ついに完成したと照れながら末吉君が言ったが、シャイな彼はなかなか読ませてくれない。「そこをどうにか」と粘って説得してみると、彼は諦めたように原稿を手渡してくれた。

待ちに待った瞬間だ。それから、一気に深い彼のSFの世界に引き込まれていくのだった。

ザックリした物語を説明する前に主要登場人物の名前を忘れたので、A君とB子さんということにしておくとする。因みにカップルです。

ある時、今までにない規模の未知の大きさの隕石が地球に衝突して、それが或る地点(日本を中心とする)だということが明らかになったということで世界中は混乱の渦に巻き込まれていた。

私「え?何で隕石の着々地点が分かるの?あ!ごめん未来なら分かるよね。ごめん。SFってことを忘れていた」

私の創造力のかけらもないツッコミに、すぐさま後悔してしまった。

なんと、衝突した時の規模で地球の三分の一もが消滅するほどだという……。これは、いくら科学が進歩しても、どうしようもない。

私「えぇ?そんなに地球がなくなったら、そもそも地球はきちんと自転でないでしょう?そしたら、まともな公転もできるのかな?」

またもや、私の創造力のかけらもないツッコミに、すぐさま後悔してしまいました。早々と自転できないから「もう地球は終わりです」って最初っから断言してしまうと、その時点で話は終わる。きっと先を読めば、その謎が解き明かされるのだろうから。

なにしろSFなんだから。

私「あれ?でもさ、そもそも、恐竜が絶滅した隕石ってのは、直径でいうと大した大きさでもなかったはずだだよ」

末吉君「隕石じゃなくて惑星だよ」

「え。そうだったの?」

パラパラとページを捲るって戻してみると、ちゃんと「隕石」と書いてありますが……。

末吉君「あぁ、誤字だった。まだ校正していないから」

惑星と隕石は全く別のものだと思うのだけれども、そんな「小さい誤字」ぐらいは誰にでもあるから、校正前の原稿にツッコむのは野暮でした。

さて、恋人のA君とB子さんは、安全なアメリカに避難しなければならないらしいのです。ヨーロッパにしておけば良かったのにと思ったが、ベタにアメリカという国にしておいた方が読者には分かりやいという配慮だろうと思った。さすがだ。

私「あれ、A君とB子君達の家族は?というか他の人達は?」

末吉君「そこまで書いちゃうと話がだらけちゃうし」

だらけちゃう?確かにそうかもしれない…長編ができちゃうスタートレックじゃあないんだからね。私はテキトーに彼に謝罪しました。そこは、家族どころか、多くの人間はどうだっていいってことにしとかないとね。大ごとすぎる有事には「多少の犠牲」も必要だ。

A君とB子は、旅客機の手配を早々としなければならない。何しろ観測では6時間後には丁度、日本のど真ん中に直撃するからです。

私「アメリカ本土に、たった6時間で着いちゃうの?」

私は、またしても後悔してしまった。一体、何度、後悔すればいいんだ……。未来の旅客機なんて超絶速いに決まっているだろうし、そもそもが、今のような旅客機の形態をしているかどうかすら怪しい。

私「でも、世界の大雑把に三分の二の旅客機とか軍用機がアメリカ全土に集結するわけでしょ。飛行場って足りるの?」

あぁ、またしてもSFって設定を忘れてしまっていた。きっと、上空にでも浮遊しているに違いない……。

末吉君「……」

私「ごめんごめん、SFってことをウッカリ忘れてね。まぁ、しかし大量の難民を受け入れるアメリカも大変だよね」

末吉君「色々とありがとう。やっぱり、そういうところをキトンと説明しなきゃいけないよね」

私「いやいや、俺みたいなバカはSFって体で読めないからダメなんだよね。読み手が、どれぐらい想像力があるかって話じゃん」

彼は鹿児島県の大学に進学した。
「いやぁ、なんで鹿児島かなぁ?」
私も予備校の他の連中も不思議がっていた。何しろ美大を目指す予備校だったから。

今、思うと鹿児島には「種子島宇宙センター」があるじゃないか!
宇宙開発の発展に於いて重要な場所です。

もし、Jアラートなんかで、隕石や惑星が地球に衝突するとなった時。この話を思い出して欲しい。恐ろしく少ないだろなラッキーなあなたは、まさにSFの世界へようこそだ。宇宙は誰にでも開かれているようで、残酷にも選ばれし者にしか忍び寄ってはこない。

だから、この物語りを心に刻んでおいて欲しい。あなたの時代に何もなかったら後世に伝えて欲しいと願わずにはいられない。

頼むぜ!末吉君!
きっと、彼はSFの鍵を握っているだろう。

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