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ラグビー協会とオリパラ委と女性蔑視と鼻くそ

1.ことの発端

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 オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長である森喜朗元総理の発言が、批難を囂々と集めている。

 末尾に記する参考の報道を徴するに、

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」
「(女性は)誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」

などの発言がどうやら批判の対象となっているらしい。これらの発言は森さんが以前会長を務めていた日本ラグビー協会における理事についての発言のようだ。また、オリパラ組織委員会の女性理事については、

「競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかり。的を射たご発信をされて非常にわれわれも役立っている」

と発言している。

 これらの発言について、

・女性蔑視だ
・オリンピック・パラリンピックの理念に反する

といった批判があり、「#わきまえない」をキーワードに抗議運動が起きているということである。

 なるほど、どうやら今回の批判は、日本ラグビー協会の女性理事について不適切な発言をした森氏に、オリパラ組織委のトップを務める適性があるかという話のようだ。

2.理解

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 問題となるのはオリンピックの理念ということらしい。ならば、オリンピックの理念が示されている「オリンピック憲章」を参照してみる必要がある。

「オリンピック憲章」(抄)
2. オリンピズムは、肉体と意志と知性の資質を高揚させ、均衡のとれた全人のなかにこれを結合させることを目ざす人生哲学である。オリンピズムが求めるのは、文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見出されるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である。
3. オリンピズムの目標は、あらゆる場でスポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある。この趣意において、オリンピック・ムーブメントは単独または他組織の協力により、その行使し得る手段の範囲内で平和を推進する活動に従事する
6. オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある。
8. スポーツの実践はひとつの人権である。何人もその求めるところに従ってスポーツを行う可能性を持たなければならない。
JOC - オリンピズム」より※強調は筆者による

 オリンピック憲章は以上のように規定されている。ここからすると、「女性は話が長い」とか言う話は、憲章が規定する①差別の排除、②全人への包摂性、③普遍・倫理的原則の尊重などに違背しそうである。

 もし憲章の理念に今回の発言が反するならば、今回の批判は、一定程度、妥当なものであると推察する。これらの言を以て森さんを批判するのは、どうやら理不尽なことではないように思われる。

3.不思議な事実

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 疑問に思うことがある。「競争する」ことは、女性性に属するものではなく、男性性に属する性質である(女性性は協調原理と言われます)。したがって、発言について競争が起こっているとしたら、男性性的な原理が起動しているということになる。とすると、森さんが言った「女性がたくさんいると時間がかかる」という事態を引き起こしているのは、女性性ではなく、男性性である。ちょっと待てよ。男性がたくさんいても会議の時間がそんなに長くならないとすると、男性は男性性を発動しておらず、女性が男性性を発揮しているということになる。男性は協調原理に従い、女性は競争原理に従っていると、そういうことになってしまう。

 なるほど。では、今回の件で森さんが批判した「女性」というのは、「男性性を起動させている女性」であるということになってくるわけだ。そうだよね、競争原理である男性性をバックに動かれると鬱陶しいよね、と小さな共感すらしてしまう。そして、まだ気になることがある。当の男性は、本当に男性性を表していないのかということである。森さんの発言からしたら、発動していないんだろうと思われる。邪推かもしれないけれど、そんなことないんじゃないのかな。考えられるのは次のふたつのパターンになる。

①男性も男性性を発動して競争的に発言をしているけれど、男性の発言については気にならない
②男性も男性性を発動して競争的に発言をしたいけれど、森さんら重鎮の権威が大きいから発言できない

①気にならない

 まずは、男性がたくさん話しても気にならないことについてである。こんなことなら、「あ、そうですか、ミソジニー(女性嫌悪)ですね」以外に言うことがない。①差別の排除、②全人への包摂性、③普遍・倫理的原則の尊重という3つ全部に反する姿勢であろうと推察することになる。

②発言できない

 次は、男性は発言できない状況になっているについてである。競争原理に従って生きている人間は、その時点で決定されている上層にいる人間に逆らうことができない。なぜならば、競争原理というものは、そのゲームに参加する人間を勝者から敗者まで上下に相対的階層化を行い、その地位に見合った行動や発言以上のものを抑制するようなシステムになっているからである。つまり、その場にいる人間に序列を与え、その相対的順位のトップからボトムまでに、目に見えない権限のようなものを付与し、それに見合った行動以外を求めない構造なのである。ビル・ゲイツが資本主義に対して意見を開陳したらみんな聞くけど、生活保護受給者がしても聞かないよね(ただ下層にいる人は、自分たちの発言を聞かせるための論法を発明しています)。

 おや、こうなってくると、またしても疑問が生まれる。競争原理に従った男性はだんまりをきめこんでいるということなら、活発に発言をした女性は競争原理に従っていないということになる。もしくは、男性と女性で競争原理によって構成される序列の枠組みが別建てとなっているため、男性側の階層には縛られないということになる。なんだか議論の雲行きが怪しくなってきたなぁ。

 今回、森さんが発言した日本ラグビー協会の理事については、定款で以下のように職務が規定されている。

第21条 理事は、理事会を構成し、法令及びこの定款で定めるところにより、職務を執行する。
2.会長及び専務理事は、法令及びこの定款で定めるところにより、この法人を代表し、その業務を執行する。
3.会長及び専務理事は、3箇月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。
日本ラグビー協会 定款 第21条

 理事の行うことが細かく書いてあるわけではないので、詳細には特定できないが、理事会ではおそらく報告や議論が行われるであろうと推量できる。この場合、男性理事は職務を遂行していなくて、女性理事は職務を遂行しているということになるのだろうか。情報が寡少で断定はできないところである。

4.最後に

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 あくまで私が個人的に思うことを言うと、組織の運営に関わることについて発言しているのであれば、時間が長くなっても「それはとってもステキなことじゃないの」である。まったく実のない話を延々としているのだとすれば、それはやめてくれないかとなるが、職務の遂行として適切な議論をしているのであれば、褒められるべきであっても、誹りを受けるものではないと思うけど。ここについても、実際に理事会を聞いたわけではないので、詳細には分からない。

 今回の記事は、いったい何を言いたくて書いたのか、それは私もさっぱり分からない(そんな無責任な)。ただ、どうやら森さんの発言はオリンピック憲章の理念に違反しないとは言い切れない(たぶんアウト。たぶん)。それに発言の内容が不整合というか、「女性は」と言えるほど具体的な形を以て生物学的な女性の傾向と男性性・女性性との関係が客観的に表されているわけではなさそうだな、ということは言えそうである。

 発言の意図を探るべく草をかき分けて、やぶを踏み分けていった結果、見つけられたものは、なんのアンソロポロジー(人間論)も含まれていない鼻くそみたいな発言だったんだなという事実のみなのである。なんだか虚しい。

 鼻くそを一人しかいない部屋でいじくっても文句は出ないが、いろんな人がいるところで得意気にほじりだしたら顰蹙を買うのなんて分かり切っているのである。でも、そんなことも分からない人が、この国で競争の階層のトップである首相まで登りつめたという事実に、ただただ吃驚するのみなのである。吃驚じゃなくて、歎息かもな。


<参考>

・読売新聞「森喜朗会長が辞意、後任に川淵三郎氏の名も…五輪組織委

・毎日新聞「森喜朗会長辞任では解決しない 「組織委が更迭を」の声も

・産経新聞「森喜朗氏、組織委会長の辞任表明

※上記の文章は引用および画像を除き著作権フリーです。ご自由にお使いください。



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