武装甲女は解を求める 《エピローグ》第一話
前回
夜明けとともに、ノルドモンス公国より不落の騎士率いる一団が現着した。
テオフィルス含めて、総勢二十人規模の襲撃犯たち。
ジゼルと騎士たちの活躍によって彼らは悉くお縄につくことになり、不落の騎士は司法の場に引き渡すため、直行で首都へと引き返す破目になった。
一つ気がかりなのはバストーネの姿がなかったことだが、ジゼルは彼に関しては特に心配していなかった。最後に言葉を交わしたとき、そこに復讐心は宿っていないように思えた。もしかしたら、亡き弟の供養に向かったのかもしれない。
公国の騎士たちも、よもやケイリスの息子が首謀者だとは思っておらず、非常に驚いた様子を見せていた。しかし貴族だからと手心を加えるようなことはなく、きっちりと法の裁きを受けさせると約束してくれる。
そして、十年前の事件の首謀者であるケイリス辺境伯。
彼もまた、犯罪者たちの列に加わることとなり、しばらく街から領主の姿は消える。
けれど、すぐに新たな人物が派遣されるはずだ。
前領主だったエリックの子供たち――リアンとルエラが、その任を引き継ぐことはない。それが貴族という者たちの判断であり、外部の血を疎遠する内政は、未だに深く根付いているのだ。
禍根が残らないようにするためには、それはある意味仕方のないこと。
ジゼルは納得できなかったが、新たに殺人事件が起きるよりはだいぶマシだろう。
喜ぶべきは、ジゼル以下十名の誰一人として、この戦いで欠けることはなかった。
当初は死んでいたと思われていたミラも、リアンとオーティスの迅速な発見によって一命を取り留めた。服毒した侍女も彼らが助け出していたらしく、そのことに関してはジゼルにとっても喜ばしいことだった。
だがもちろん、その裏で失われた命があることは、決して忘れてはならない。
被害者たちの中には無実の者もおり、それは風化させてはいけない事柄だ。
ジゼルは今回の一件を胸に、これまでの考え方を損なわぬよう、日々の精進を積んでいく所存であった。
「――あら」
ジゼルが屋敷の前で、公国の騎士たちに引継ぎをしていたとき。
「ジゼルちゃん、ご苦労様。貴女がいろいろと頑張ったそうね」
リアンの姉であるルエラが、片手に籠をぶら下げて領主館を訪ねてきた。
「あっ、ルエラさん。おはようございます」
ルエラがミラや侍女の手当てをしてくれたことは、ジゼルも伝え聞いている。それに対しては深い感謝しかないのだが、このような早朝にこの場所を訪れるのも妙な話だ。
ジゼルが疑問がっていると、ルエラは微笑みながら答える。
「うふふ、旦那に朝食届けに来たのよ。ちょうどこの街に帰って来たみたいだからね」
「そうでしたか。ではルエラさんのご主人も、不落の騎士と一緒に――」
「あれ、言わなかったかしら?」
不落の騎士の名を出した途端、ルエラは悪戯っぽく口端を緩めた。
「その不落の騎士が私の旦那よ」
「……へ?」
予想外の言葉に、ジゼルは面食らった。
ルエラは相変わらず無邪気な様子で、付近に見つけた不落の騎士に親しげに手を振る。
「それじゃ、私はあの人に挨拶してくるわね」
「は、はあ……」
何だか狐に摘ままれたような気分で、ジゼルはルエラを見送ろうとする。
しかしその直前、ジゼルはルエラにあることを訊ねた。
「ルエラさん。リアン殿は今どこにいるか分かりますか?」
「あー、あの子ならたぶんあそこね。私の家までオーティスのこと運んできて、そのまますぐに行っちゃったわ」
ルエラは心当たりをジゼルに伝えて、不落の騎士と久々の再会を果たしていた。
その微笑ましい様子を見届けると、ジゼルは早速ルエラに教えてもらった場所に向かう。
おそらくそこにいるはずの、リアンと最後の話をするために――
【続く】
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