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武装甲女は解を求める 《プロローグ》第一話

 コルムナラクス王国で武装甲女の異名を持つ騎士・ジゼルは、同盟国であるノルドモンス公国からの依頼を受け、部隊を率いて護衛任務に就く。
 貿易都市の領主・ケイリス辺境伯に届けられた殺害を仄めかす脅迫状。
 そこには、かつてこの街で起きた凄惨な事件が関係していた
 謎の青年・リアンとの出会いが、ジゼルを事件の裏に隠された真相へといざなっていく。しかしケイリス卿は、ジゼルが女性であるという理由から、不信感を抱いていた。
 それゆえに、任務完了は過去この街の事件を解決した公国の英雄【不落の騎士】の現着まで。
 英雄が到着するまでの間、ジゼルはケイリス卿を守り抜きながら、その恐るべき犯人の正体に迫っていく――


 馬蹄の闊歩が、繁華街に鳴り染みる。
 レンガ造りの街並みを繋ぐ、石畳のメインストリート。
 月夜に映された旅団。それがコルムナラクス王国の派遣隊であることは、彼らが纏う甲冑の刻印を見れば明らかだった。

 このような夜更けに、その姿を目撃した住民たちは一抹の不安に駆られた。

 ノルドモンス公国は、コルムナラクス王国と同盟関係を結んでいる。
 かつて二つの国は一つだった。しかし王座を巡って、数世紀以前は大規模な戦争が勃発したのである。

 時の流れた現在は、その関係も非常に良好。
 攻め込んで来るはずもないことは、誰もが信じて疑わないだろう。
 けれど、いざこうして前触れもなく他国の兵が現れれば、戦乱の懸念を抱くのは人の常であった。

「――なーんか、あちこちから視線感じません?」

 酒場や宿から覗く住人たちが気にかかったようだ。
 見習い騎士の少女・ミラが隊長に小声で話しかける。

 それを受けて、顔まで覆った全身鎧の若き騎士――

「そうですね。民衆からの恐れが手に取るように分かります」

 ジゼルは粛々と答えた。

「やはり、このような時間の訪問は避けるべきでしたか。しかし火急の要請ということもあります。街まで目前の距離となれば、野営など取るわけにもいかないでしょう」

「そもそもジゼル様が、道中で野盗の相手してるからこんなことになるんですよ」

「悪を断罪するのは当然のことです。それとも貴女は、むざむざ悪事を見過ごせと?」

「そうは言ってないですよ。ワタシはジゼル様の判断にはちゃんと従います。でもこれだけ見られてると、何も悪いことしてないのに、もやーっとした気分になっちゃいません?」

「やましいことはないのですから、堂々としていれば良いのですよ」

「うーん……まっ、仕方ないですね。ジゼル様がそういうのでしたら、そうします」

 ミラはジゼルの言葉を実践するように、あまりキョロキョロしなくなった。

 しかし周囲の目が変わったわけではない。
 驚愕や畏怖の籠った眼差しで一行の挙動にビクビクする彼らに、ジゼルは悩まし気な嘆息を漏らす。行軍しているわけでもないのだから、もう少し気持ちを落ち着けてもらいたかった。

 ともかくジゼルたちが向かう先は、この街の領主館。
 夜分遅いとはいえ、元々は相手側の要請があって王国より派遣されてきたのだ。
 さすがに日を改めてお越しを、などと訪問を拒否されることはないだろう。一行は繁華街を抜けて、領主館へと道を進む。

 ――そのときだった。

『ぐわぁあああっ!』

 突如、闇夜に木霊する絶叫。
 街中に響き渡った不穏な悲鳴に、ジゼルたちはすぐさま足を止める。

「何事ですか?」

 ジゼルは隊を振り返った。

「わ、分かりません。ですが、もしや今回の任務に関連した?」

 騎士の一人が予感を口にする。
 それにジゼルが唸ると、ミラがすぐさま片手を上げた。

「ワタシが確認して来ましょうか?」

「貴女たちはだいぶ疲れているでしょう。ここは先に領主館へと向かってください」

 そう言いながら、ジゼルは仲間からランタンを受け取る。

「地図によれば、この先の十字路を西に行けば着くはずです。あとのことは任せましたよ」

 部下たちに指示を下すと、ジゼルは鉄鎧を響かせながら路地へと走った。

『…………』

 隊長の素早過ぎる行動に、止める間もなく残されたミラたち。その後ろ姿をぼんやり眺めながら、口々に小言を募った。

「まったく隊長はお人好しが過ぎるよな」

「そうそう。何でも真っ先に首を突っ込むし、少しぐらい周りを頼って欲しいぜ」

「一番疲れてるのは自分でしょうが、って言いたくなるよ」

 どうやら騎士たちは、隊長の独断に常日頃から思うところがあるようだった。
 しかし誰もそれを非難しない辺り、部隊内での関係性が伺える。

「でもそれが、ジゼル様の良いところなんですけどね」

 ミラはやれやれと首を横に振り、ジゼルの指示通りに、一同足並みを揃えて領主館を目指した。

【続く】

【プロローグ】

一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n111ec62b8ba9

二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nb14e6db6d6bf

三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n8ecb615ad811

【一章】

一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n2dc4b5421c3e

二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n44db577348d0

三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/ndd8e86d86d2d

四話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n1de957f97d64

五話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nd632cdbf4e0f

六話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n1acc6031b65b

七話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n49f44f10bf55

八話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n9343dae06612

九話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n1c0545f50ff6

十話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n1afe6d4d6794

十一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nfb68f7678049

十二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nce5e41cfa914

十三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n4da69e201054

十四話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n7f601fa94617

十五話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n22ddf1f3a38c

十六話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n056764598abd

十七話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n60f860d3ecfa

十八話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nddf13f1f4258

【二章】

一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n018267155cce

二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nbd397c3ca466

三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/na62435ca0836

四話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n824b1a7927f0

五話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n8be121525bbe

六話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nd1ff80d029f6

七話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nff002310e55f

八話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n0d8ef84166be

九話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n206eaf0fb814

十話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n794558ebd840

十一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n6bcfed64850e

十二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nac0637638d0d

十三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/naa6f889f3519

十四話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n927e226fd021

【三章】

一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n0f953388a220

二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n8f6f5afca901

三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nb8d2012d9848

四話 https://note.com/ruro_kirimi/n/ne8f59746973b

五話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n9d6f7423d60d

六話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n8a02288ca16b

七話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nba5ea1bc0157

八話 https://note.com/ruro_kirimi/n/ne412c74e1925

九話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nbead7add2978

十話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nbc5633567e44

十一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/naff786c506fd

十二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n63c68cc5451c

十三話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n32a76eebbc08

十四話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n0e1968e88d73

【エピローグ】

一話 https://note.com/ruro_kirimi/n/nab9ee434f4b0

二話 https://note.com/ruro_kirimi/n/n7ebe16698849


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