法の下に生きる人間〈第47日〉

安保改定当時の内閣総理大臣だった岸信介は、安保条約のどの部分を一番変えたかったのだろうか。

吉田茂首相が調印した旧安保条約の第1条は、次のように書かれていた。

【第一条】(アメリカ軍駐留権) 
日本は国内へのアメリカ軍駐留の権利を与える。駐留アメリカ軍は極東アジアの安全に寄与する他、直接の武力侵攻や外国からの教唆などによる日本国内の内乱などに対しても援助を与えることができる。

在日米軍は、極東アジアの安全を守ったり、武力侵攻や日本国内の内乱に対して支援したりすることが「できる」とされている。

つまり、義務ではないのである。

岸信介が、激しい安保闘争が起こる中でも、国会での強行採決に踏み切った新安保条約は、第5条第1項で次のように定められている。

【第五条】(共同防衛)
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

この「宣言する」という表現も、なんとなく曖昧さを狙っているような受け取り方ができなくもないが、それでも、1960年に改定された新安保条約は、今日まで63年間も破棄されず、効力を持ち続けているのである。

さらに、私たち国民が知っておいたほうがよい他の条文を2つ挙げよう。第6条と第10条である。

【第六条】(基地の許与) 
1 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持の寄与するため、アメリカ合州国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。 2 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合州国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合州国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

【第十条】(条約の終了) 
1 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合州国政府が認めるときまで効力を有する。 
2 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意志を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行われた後一年で終了する。

アメリカが条約の終了通告をしてきたら、日本の安全に寄与している米軍基地も在日米軍もいなくなってしまう。

一発で日本の安全が吹き飛んでしまうこのリスクを念頭に、歴代の総理大臣がいかに友好関係を維持してきたかが分かるだろう。



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