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薔薇を喰う30女―-美しい飲み物を作ってやったぜ

30歳の誕生日に、両親から薔薇の苗を贈られました。4月中旬の話です。

昔から、実家でさせられる草むしりが大嫌いでした。実家の庭はさほど広くないけれど、夏の草むしりは暑くて汗だくになるし、蚊に刺されます。私は独立したらマンションに暮らそう、そうでなくても、庭は一生涯いらない…そう密かに誓う程、実家暮らしの頃は庭仕事が嫌でたまりませんでした。

そんな私に、薔薇の苗を贈ってくれた両親は、善意と愛情120%で、私の30歳という節目の年を祝ってくれていました。初老の両親を悲しませるのも怒らせるのも違うので、お礼を言って、薔薇の苗を受け取りました。ですが、もう少し私が幼かったら、魔女宅のどしゃぶりの中パイが届けられたシーン「私、これ嫌いなのよね」のセリフをまんま言っていたかもしれません。それくらい、私のテンションはだだ下がっていました。

そもそも、誤解させたのは間違いなく私なのです。去年からミント、シソ、ローズマリーに、手入れのあまりいらない草花を小さな植木鉢で育て始め、その写真をこのコロナの自粛中はよく送っておりました。もう少し植木鉢を増やしてもいいかもしれないなどという言葉も、調子よく添えて。父と母との、数少ない共通の話題になって、ありがたかったのです。ただし、私が育てる植物は、美味しいものに変身するもののみ。食い気が唯一のモチベーションのガーデニングです。薔薇の苗が、トマトの苗だったら、まだ私の気持ちも違ったかもしれません。しかし、薔薇を送ったと言われた瞬間から、正直頭痛がするようでした。ピンクのバラなんて、趣味じゃない。でも両親からのプレゼント。生き物だから、殺せない。そして、何より、育てても食べられない。

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しばらく、愛せない薔薇の苗に水やりをする毎日に、欝々としました。父と母にはまめに写真を送りました。そうでないと、一気に枯らしそうだったからです。こんなにストレスを感じたのは、久しぶりでした。でも、もっと嫌なのは、そんな風に心のこもったプレゼントを邪険にしてしまう自分でした。そして、このプレゼントは毎日見ないわけにはいかないのです。悪循環でした。

これはどうにかしないと、私の心が不健康になってしまう。私は薔薇の花を楽しむガーデナーたちのアカウントをフォローするなどして、ヒントを得ようとしました。けれど、そういった方たちは、私の両親のように、心から草花を愛しており、手間もいとしさのうちなのです。私を思いがけず救ってくれたのは、なんと以前からtwitterでフォローしていたクリームソーダ職人(@tsunekawa_)さんでした。

薔薇シロップ。美味しいっておっしゃってるけど…要は砂糖水だな?インスタ映えより味重視の女の私だけれど、手間暇かけて育てたものを食べられないなんてもっと私の理に反するし、仕方ない。ここは妥協して、これでも作ってみよう。

虫が怖いけれども、なんとか殺虫剤は撒かず、花を咲かせました。収穫の時です!

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そして、動画のレシピを見ながら作ったのが、こちら。

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きれいじゃん!おそらくレモンは、もっと花びらを煮詰めてから色を定着させるために入れていらっしゃるのですが、私はアホなので、やや早めに入れて一緒に煮込んでしまい、薄い色になってしまいました。が、それでもなかなか美しく、思わずほぅ、とため息がもれました。

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あまりに美しいので、浮かれて動画を取りながら、薔薇ハイボールを作りました。それでも、なお、味はあまり期待していなかったのですが、一口飲むと、あらまあ。薔薇の香りはきちんとする上に、美味しいではありませんか。なんだかほっこりとした甘み、なぜかちょこっとお芋っぽい優しい味が、レモンの酸味と一緒にシュワシュワと口いっぱいに広がってくれるのです。自家製薔薇ハイボールなんて、ダメな主婦の昼飲みをカモフラージュしてくれるかも、しめしめ、と思っていた私は、驚きつつも、夫にも同じものを勧め、仲良く昼飲みを楽しみました。

その上貧乏性の私は、煮込んだ薔薇の花びらもとっておき、翌日、それを紅茶に入れて飲みました。それがこちらです。

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この写真で伝わるでしょうか。お茶の中に花吹雪です。煮込まれた花びらは、薄くなっており、ゆえに重なっていても、奥が透き通って見えました。飲むたびにふわふわと踊る花弁は、薔薇の華やかさを私に教えてくれました。そしてもちろん、美味しいのです。カップの中に、紅茶とレモンと砂糖、そこに薔薇が加わって、なんだかいつもよりも優雅なティータイムが演出されてしまいました。

その後、やはり虫が出たので殺虫剤を撒き、剪定を終え、肥料をあげて、薔薇は現在も我が家にいます。以前ほど憎々しい気持ちにならないのは、きっと私がこの子を食料として認識したからです。ちょっと落ち葉が多いのが気がかりですが、来月はもう少し大きな鉢に移し替える予定です。私も40歳くらいになったら、薔薇そのものを愛でる女性になれるのかしら。乞うご期待。

#エッセイ #誕生日プレゼント #レシピ #飲み物 #薔薇 #ガーデニング #クリームソーダ職人#ありがとうございました

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