An American Biography(スピード至上主義の必然)
1965年にアメリカの「Girl of the Year」となったイーディ・セジウィックの物語。この本は初めて読む「アメリカの神話」のようです。
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アメリカの始まり
イギリスでの清教徒に対する弾圧から逃れるためにメイフラワー号に乗り込み、1620年11月に北アメリカ大陸に到着したピルグリム・ファーザーズは、キリスト教徒にとって理想的な社会を建設することをめざした。
*フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
アメリカはそこから400年で、全世界の古今東西の歴史を超高速に追体験しなくてはいけなかったのです。
世界史に追いつくために、「効率」が第一とされ、「選択」と「集中」という方法が取られたのは必然的なことだったのだと。
そして、その突出したスピード感、カオス感が世界中の憧憬を集めると同時に、病的ともいえる様相の中から、「新しさ」をひたすら熱望し現実化し続けることが宿命づけられた彼の国の人々のことを思いました。
そういう視点で読むと、この本は「アメリカの神話」です。
アメリカはたった400年で、新世界征服、部族争い、奴隷制、氏族形成、階級社会、独立、内戦、産業革命、徴兵制、戦争戦術を追体験してマスターし、その上で民主主義と資本主義をブラッシュアップして完成させ、新たなコンピュータ社会を生み出しました。
内藤湖南や宮崎市定が言っているように、古代から中世への転換も、ルネッサンスも、産業革命も、後から経験したほうがうまくやり遂げるのです。
一方、大急ぎで経験してきたために、世界の歴史の中に登場してきたあらゆる事項がアメリカの1960年代において同時なこともこの本を読むとよく見えてきます。
この本は、1965年に「Girl of the Year」となったイーディ・セジウィックと、彼女のそばにいたアンディ・ウォーホルについて、二人の周辺の人々へのインタビューを編集して書かれています。その記述が「語り部」的で『古事記』や『日本書紀』を読むようなのです。
スピードを出し続けるために、迷ってはいられません。
そして、世界中から「最新」を吸収して化学反応を起こさせてきた代りに、忙しさは、スピードを落とすことや、迷いや、行動を振り返る余裕を許さず、精神に負担を強いています。
でも、だれも止めることができない。
そんなことを感じながら読み進めています。
EDIE An American Biography (1982)
邦題『イーディ ’60年代のヒロイン』(1989年)
最近のアメリカは、途中から参加した徒競走で、みんなを追い越して一番に躍り出たウサギが、走るのを止められなくて、かと言って、どこがゴールなのかわからなくなっているように見えてきます。
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