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『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)

『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)
村上春樹


羽原は、何かの理由で「ハウス」という場所で、隠遁生活を送っている。名前不明の女性が週2回彼の元を訪れ、食品を提供し、性的な関係を持つ。

『羽原と一度性交するたびに、彼女はひとつ興味深い、不思議な話を聞かせてくれた。』という言葉で物語は、始まる。主人公の羽原は、彼女の行為を見て、"シェエラザード"(「千夜一夜物語」の主な語り手)と勝手に名づけていた。

なかなか、主題を掴むのが難しいので、いくつか、キーワードを探ってみた。

「ハウス」とは?
安全で暖かい避難所、個人や家族のプライベート空間、居心地の良い場所、そして日常生活。羽原は、ハウスで、隔離された生活をしていた。

「千夜一夜物語」のあらすじ
不貞な妻に裏切られ、女性不信となった王シャフリヤールは、毎晩新たな処女と過ごし、翌日にはその首をはねていました。都から若い娘が消えてしまった時、大臣の娘、シェエラザードが自ら王と結婚することを志願しました。王のもとに参上し、妹ドゥンヤザードと共に、夜通し物語を語り続けました。シェエラザードの話と人柄に魅了された王は、千夜目に彼女を正式な妃とした。シェエラザードの物語は、彼女自身や他の女性たちの命を救った。というもの。

「顎」
個人の意志や決断力を象徴する。

「やつめうなぎ」
円口類は無顎類の脊椎動物で、ウナギに似た細長い体形を持つ。体色は黒褐色で、ウナギより小型。日本には4種が生息し、カワヤツメやシベリアヤツメ等は海で寄生生活を、スナヤツメやアリナレスナヤツメ等は河川で小魚や甲殻類を捕食する。やつめうなぎは石に吸い付き、水草に隠れて、獲物が通りかかるのを待っ。

『愛の盗賊』
物だけでなく、心や感情も奪うことで、自己の存在意義を見いだしていいること。ただ、盗むのではなく、愛情につながる何かを盗むことがアイデンティティであり、それが自分自身であることの意味。

「空き巣狙いの時代」
シェエラザードが、高校時代にクラスのサッカー部の男子に恋して、彼の家に空き巣に入るという話。


羽原もシェエラザードも顎のない"やつめうなぎ"のように、意志とか、決意のようなものがなく、ゆらゆら、環境の中に溶け込んで、獲物が現れるのをひたすら待つ人生だった。

シェエラザードの語る、価値観が、変わったという話を聞いて、彼女は、本物の"愛の盗賊"に変化して、羽原の前から姿を消してしまうことに気づいた。でも、羽原は、嘆くことしかできない。そこで物語は、終わる。

なかなか、意味はわからないのだけど、何となく、みえてきたことは、シェエラザードが、17歳のとき、恋していた相手とは、実は、羽原だということなのではないか?

そして、シェエラザードは、羽原のフィアンセだったのではないか?ということ。シェエラザードは、羽原との結婚を前に、失踪してしまい。それが原因で、羽原は、女性不審に陥り、記憶障害になる。そして、ハウスに軟禁状態になっていた。羽原の母親は、愛の盗賊であるシェエラザードを見つけ出して、羽原の世話をさせる。

空き巣の話をして、シェエラザードは、羽原との熱烈な性交で、17歳の頃の自分に戻る。そして、羽原から、改めて、離れる決意をする。一方で、羽原は、この性交を通して、シェエラザードを失い、孤独になることを認識する。

力強く生きていくためには、千夜一夜物語のシェエラザードのように愛の盗賊でなければならない。

人間として、魅力的であることが、大事なのだろうなあと思わされた。
物語を語るだけで、死を免れた千夜一夜物語のシェエラザードのように、ということだと理解したのだけど、どうだろう。

マリーゴールド

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