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『他人の足』(『死者の奢り・飼育』より)

『他人の足』(『死者の奢り・飼育』より)
大江健三郎著



脊椎カリエスで未成年専用の療養施設に収容されている主人公「僕」は、外部から完全に遮断されていて、不思議な監禁状態にいるのだけど、脱走を企てたり、外部の情報を聞きこむようなことは、しない。「僕」らにはそもそも、外部がない。壁の中で、充実して、陽気に暮していた。

世間と完全隔離された世界では、少年たちは、基本的に、治る見込みはなく、排泄や下半身の洗浄もすべて、看護師任せであり、看護師側は、性的な好奇心を満たす思いもあって、少年たちの性の処理を行うことや、少年たちの下半身を晒したまま状況などは、日常的に行われている。少年たちには、羞恥心などはなく、単純に性的な快楽が満たされる。そこに、人間としての尊厳はない。

そんな病棟に、ある学生が、脊椎カリエスとして、運ばれてくる。ただ、その学生には、足が治る可能性があった。彼は入院してすぐ、看護師に強制的な性の処理や下半身を剥き出しにされるなどの辱めを受けて、ショックを受けて人間の尊厳を保つ為の啓発運動を始める。病棟の少年らは、徐々にその学生の活動に賛同しはじめ、社会との交流の可能性に気づき始める。

ところが、その学生の手術が成功して、彼は再び自力で立ち上がり、歩くことができるようになると、病棟と少年たちは、その学生から、気持ちが離れてしまい、元の、堕落した生活に戻るという話。

①粘液質の透明な壁
見えるけれども突き抜けることが困難な障壁、あるいは理解や進行を遅らせる障害を表す。それはまた、我々が物事を明確に見ることができるけれども、それに直接アクセスすることができない、あるいはそれを変えることができない状況を暗示する。

②脊椎カリエス
結核菌によって引き起こされる脊椎(背骨)の感染症です。脊椎カリエスは、結核菌が脊椎に感染し、炎症や破壊を引き起こす結果、脊椎の骨や椎間板が傷害を受ける病態。脊椎カリエスの症状には、背中の痛みやこわばり、脊椎周囲の膿や腫れ、神経の圧迫による脚のしびれや筋力低下などがある。また、進行すると脊椎の変形や機能障害が生じる。

主題は何か?

人を隔離することは、大きな人権侵害につながるということ。
人が人間らしく生きるためには、世間と繋がっていることが必要なのだということだと理解した。

学生は脚が不自由であることで病棟に仲間入りし、さらに大学生という立場も持ったため、外部とのつながりの可能性があった。
そこに、病棟の少年たちは、希望を感じた。しかし、学生の脚が治ると内部のつながりを失い、完全に外部の人間として扱われてしまう。

生きるとは、どういうことなのか、(差別、逆差別、人間としての尊厳、快楽など)考えさせられる。

コロナで隔離生活を強いられた人や隔離されたまま、亡くなってしまった人も多数いたはずで、今でこそ、コロナは、終結したように思わされているのだけど、人間社会は、なかなか恐ろしい問題を内在しているものだと改めて、感じさせられた。

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