見出し画像

『群青』(短編集『常設展示室』より)

『群青』(短編集『常設展示室』より)
原田マハ著


一言で言うと幼少期から、美術に惹かれて、ニューヨークのメトロポリタンミュージアムでの仕事を手にした美青が、緑内障になって、仕事を失ってしまうという話。字面を追えば、暗い話に見えるのだけど、深い切なさと芸術の喜びみたいなものが伝わってなかなか、良い。


①タイトルの「群青」とは?
その深い青色が非常に美しく見えるとされ、多くの文化や哲学で象徴的な色とされている。

1. **無限と深遠**:
群青はその深さから海や空と関連付けられ、それらはしばしば無限と深遠の象徴とされる。自己探求と内面への深い探索を表す。

2. **神秘と霊的な象徴**:
多くの宗教や神秘主義の伝統では、群青は神聖または霊的な経験を象徴する。

3. **知識と知恵**:
群青色はしばしば知識と知恵の象徴とされる。

4. **誠実と信頼性**:
群青色は、誠実さ、信頼性、責任を象徴する色ともされている。

②ピカソの「青の時代」
ピカソの初期の芸術キャリア(1901年-1904年)を指す。その頃、ピカソの作品は一貫して青系の色調で描かれた。親友が、自殺したり、経済的困難に直面したり、そういう影響でピカソの作品は孤独、悲しみ、絶望などのテーマを取り扱う。青色のもつ冷静さ、悲しみ、孤独、疎外感を使って自身の感情と社会問題を視覚化し伝えていた。それは、観る者に対して深く共感を誘い、人間の存在の本質や社会的な問題について深く考えさせる。

③「緑内障」
眼の病気で、特に視神経が傷つくことにより視野が狭くなり、最悪の場合は失明に至る。ピカソの後期の作品では、物体が変形し、色彩が強調され、空間的な配置が独特になる傾向があり、これらの特性は緑内障の症状と一部一致する。

④「弱視」
ピカソは、弱視だった可能性もある。実際、ピカソは若い頃から視力の問題を抱えていた。子供の頃から近視であり、また斜視も持っていた。ピカソの作品には、立体感の歪みや変形、複数の視点や角度からの描写など、独自の視覚的手法があるが、これらは彼の視力の特性と関連していると言われている。弱視は通常、立体視や視覚統合に関連する問題を引き起こすことがあり、ピカソの作品に見られる画面上の複雑さや異質さにも影響を与えた可能性がある。

この辺から見えてくること。
美青が、眼科で出会った弱視の少女パメラは、同じく弱視でおそらく緑内障の症状がで始めたころのピカソの絵をひどく気に入っている。そんな少女に美青は、メトロポリタンミュージアムでの障害者向けのセミナーを勧める。そしてその矢先に自分が、緑内障で、失明することになることを知る。美青は、自分の状況に失望しつつも、パメラやピカソの力強く、貪欲に美術を求める姿勢から、生きる力をもらう。それが、『群青』なのだと思った。

美青という名前も、青の美しさを表すものなのだと理解した。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?