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【読書ノート】『クリーム』(『一人称単数』より)

『クリーム』(『一人称単数』より)
村上春樹著


主人公(『ぼく』)が、18歳の頃、体験した、理解のできない出来事にまつわる物語。 

「ぼく」は、微積分計算が、不得意な、バルザックを読みふける青年だった。幼い頃、ピアノ教室が、一緒だった意地悪そうな少女から、リサイタルの招待状をもらったところから物語は、始まる。

主題が、掴みにくいので、キーワードをいくつか拾ってみる。

①「微分積分計算」が苦手な人とは?
抽象的な概念や無限、変化、複雑性を理解するのが難しい人物を象徴する。それは、より具体的、直感的、または現実的な思考を好む人物を示す。また、それは微分積分学のような抽象的な数学的概念に対して恐れや不安を感じる人物を示す。

②「バルザック」の作品を好んで読むひととは?
1. ヒューマンストーリー:バルザックの作品は人間の感情、動機、欲望、社会的相互作用に焦点を当てている。微分積分学が苦手な人は、数学的な抽象性よりも人間の物語や心理描写に魅力を感じる。

2. リアリズム:バルザックは19世紀フランスの社会を詳細に描写している。彼の作品は、抽象的な数学的概念よりも具体的で現実的な世界に対する理解を深める。

3. 深遠な洞察:バルザックの作品は、人間性、社会、道徳、哲学についての深遠な洞察を提供する。

4. 世界観の広がり:バルザックの「人間喜劇」は、多くの異なるキャラクターと物語を通じて、19世紀フランス社会の広範な描写を試みている。これは複雑な数学的概念を理解するのが難しい人にとって、異なる視点を体験し、新たな知識や視野を開く機会となる。


③「中心がいくつもあって外周を持たない円」とは、

1.中心が複数あり、外周を持たない円は、その抽象性を通じて無限や完全という概念を象徴する。この円は、場所や方向に制約されず、限界や境界も存在しないため、抽象的な観念を哲学的に表現することができる。

2.中心が多数存在し、外周のない円は、視点や基準に依存せず、他の図形や物体と区別がない。これにより、多元性や相対性という概念を象徴し、強調することができる。この円は、これらの哲学的な観念を表現するメタファーとなる。

3.多数の中心と外周のない円は、自己の多面性や変化性を認め、他者や環境との区別を失う。この特性を通じて、自己や他者の複雑性を象徴し、これらの哲学的な概念を表現する。

④物語のタイトル「クリーム」は何を象徴するのか?

1. 豊かさと満足感:クリームはしばしば豊かな味わいや滑らかな質感をもたらす。この点から、クリームは物質的な豊かさや満足感を象徴する。また、人生の喜びや贅沢な経験を表現するためにも使われる。

2. 美と調和:クリームは料理やデザートの上に美しい装飾や仕上げとして使われる。

3. 高尚さと上品さ:クリームは高級な料理や洗練されたスイーツに頻繁に使用される。そのため、クリームは上品さや高尚さを象徴する要素として解釈される。

4. 柔軟性と変容:クリームは液体から固体へと変化する性質を持っています。この変容性は、柔軟性や変化への対応能力を象徴する。哲学的には、クリームが変化や成長のプロセスを表現し、人間の存在や経験の一環と結びつけられる。

この物語の主題は、?
人生って、よくわからないことに遭遇する。そんな時、ひとは、ストレスを感じて、場合によっては、混乱し、自分を見失ってしまう。「ぼく」の場合、過呼吸になったりする。でも、そもそも人間の営みは、三段論法のように、理路整然としていないことの方が多く、混沌としたものなのだということ。「多くの中心を持ち、外周のない円」とは、人生や知識が一つの中心や明確な境界を持たないということ。

世界には、自分でさえも、多くの視点と解釈が存在する。それらが複雑に絡み合いながら人間の生活は営まれている。その混沌を経験することで得られる深い理解や洞察を通して、人生は、より豊かなものになっていく。

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