この世はきっと多様で、だからきっと生き辛い|正欲
どもども、明原星和です。
少し前からハマっている朝井リョウ先生。
「桐島、部活やめるってよ」から始まり、「ままならないから私とあなた」を読み、今作で朝井先生の作品は三作品目となります。
そもそも、この本を読もうと思ったきっかけは、僕自身が多様性というか人の欲求に関した物語を描こうと考えたことがきっかけでした。
そんなわけで多様性に関して書いたであろう今作を読むことで、朝井先生がどのようにしてそれを物語に落とし込んでいるのかな、という勉強として読んだのですが……
「読む前の自分には戻れない」
その言葉の通り、酷く考えさせられる作品でした。
というわけで、今回読んだのは朝井リョウ先生の
「正欲」
という作品になります。
まず初めに、あまり生半可な気持ちでこの本のページをめくるべきではありません。
朝井先生の作品は、読むたびに考えさせられるというか「いったいどのようにして生きればこんなにも深い考えを持てるのだろうか」と感心させられます。
きっと、この世の中で多くの人が漠然と…だけどハッキリと思っているような事柄。きちんと言語化されていないような思いを言葉にして、読み手にダイレクトに伝えるのがとても上手で、魅力的な文章を書いている方と思っています。
今作はその魅力が良くも悪くも如実に表れているというか、昨今なにかと話題になりがちな「多様性」に対する叫びというか疑問というか……
そんなものがひしひしと伝わってきて、「あぁ、僕が理解している『多様性』はなんて浅はかなものなんだろう」と思い知らされてしまいました。
今作は、複数人の視点で語られる三人称小説なのですが、それぞれが多様性を尊重する社会に対してそれぞれの思いを持っています。
タイトルから察する人も多いと思うのですが、その思いは主に「性欲」という欲に対するもの。
多様性が尊重されている…と世間的にはなっている世界で、なおも自分をさらけ出せない人たち。
”性欲”という言葉を聞いて、もしかしたら官能的なストーリーなのかなと感じるかもしれませんが、そのような場面は特にありませんのでご安心を。
この作品は、官能的な方面ではなくもっと別の方向にディープというか、脳髄に直接文字が刻まれて行くような衝撃を覚えました。
「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」
作品紹介にて記載されていたこのセリフ。
読む前は、正直に言ってこのセリフに対して何の印象も抱くことはありませんでした。
そして読後、何の印象も抱かなかった自分が恥ずかしくなりました。
朝井先生。あなたは本当、どうやったらこんな思考を持てて、こんな物語を書けるんですか……?
多様性について考えさせられるだけではない。
人として。”今”の世の中を生きる人として、この世の中を…社会をどう見るか・どう生きていくのかを無理やりにでも考えさせられました。
「この世界で生きていくために、手を組みませんか?」
一見、恋愛小説に出てきそうなこの素敵なセリフ。
これが読後、果たしてただの素敵なセリフに見えてしまうかどうか。
よければ教えてくださいね。
「正欲」は、2023/11月に映画化もされていますので、書籍がボリューミーで少し手が出しづらいという方も、初めは映画からでもご視聴してみてはいかがでしょうか?
そのうえで、原作も読んでみたいと感じていただけますと幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?