一枚絵小説まとめ「七月号」
どもども、明原星和です。
七月に入ってから、途端に暑さが限界突破してきましたね。
この調子で八月を迎えると考えると、今にも溶けてしまいそうです。
寒いのは全然我慢できるのですが、暑いのはどうにも苦手で。
そんな日は、冷房の効いた部屋でアイスを片手に冷えピタを貼って執筆に勤しんでおります。
そんなわけで、七月の一枚絵小説まとめです。
暑さをごまかすお供にでも読んでいってください。
そもそも「一枚絵小説」とは?
一枚絵小説とは、僕が独自に始めた「制作したイラストをもとに書いた小説」のことです。
加えて、執筆時間を一時間と定めることで、素早くアイデアを思考する瞬発力と、一枚の絵から物語のイメージを広げる想像力。素早く作品を制作する集中力を同時に鍛えることができるトレーニングでもあります!
まぁ、端的に換言するなら有名な「三題噺」のイラストバージョンとでも思ってください。
僕が制作する一枚絵小説は、ひと作品につき500〜1000文字ほど。
文字数もとっても少ないし、別にオチがついてなくてもOK
(ここは書く人それぞれで違って大丈夫です!)
一時間という時間制限の中、瞬発的に作品を制作することが目的なので、完成度にこだわるのは慣れてからで大丈夫です。
ゼロから作品を生み出すのが難しい人や、小説初心者の方には個人的に是非ともやってみてもらいたい制作方法。
それが、「一枚絵小説」となっております!
①拝啓、月になった貴女へ
七月七日は、毎年こうして天の川の良く見える海辺へと出て、文を海風に曝している。
手に持つ文は、願い事の書かれた短冊ではない。遠い空へと昇って行った貴女へと渡す、一方的な文通の書。
七夕の牽牛星と織女星が互いに愛して逢うことから、七月は「愛逢月」とも呼ばれており、こうして天の川を一人眺めていれば、貴女に再び出会えているよう錯覚する。
満天の星が青い清流となって、暗い海を横断する。この天の川を渡って彦星と織姫は一年にたった一度の再開を楽しんでいるのだなと思うと、何とも情緒的であると感じる。
そんな一年に一度の奇跡のような再開を私も望んでいる。
手に持った文を空高くに放り投げると、文は風に乗って遠く、遠くへと運ばれて、やがて海面にふわりと着水する。
こんなことをしても意味がないということはわかっている。
けれど、一年に一度しかない奇跡の日にこうやって空に文を飛ばしてみたら、月になった貴女に私の手紙が届くのだと信じてしまった。
海に落ちた手紙がやがて天の川へと流れていき、いつか貴女の元へとたどり着くのだと夢見てしまった。
海面に落ちた手紙は、ゆらりゆらりと波に揺られ、いつしか目の届かない沖の方まで流されて行ってしまう。
ざぶん、ざぶん、と耳を洗うような波の音に、天を見上げる私の心はまるで凪のように穏やかなものへと変わっていく。
ふと、天の星々が不規則にキラキラと一瞬だけ輝きを帯びたように見えた。
きっと、貴女が私に返事をしようと、星の輝きに思いを乗せてくれたのだろう。
今だけは、空高く昇る青い月に届きそうな気がして、私は天に手を伸ばした。
②これはとある悪魔のお話
とある樹海の奥深くに、それはそれは小さくて可愛らしい一匹の小さな悪魔くんが住んでいました。
悪魔くんはいつも一人ぼっちで、友達は樹海に住む動物たちだけ。たまに樹海の外にある町まで降りては、楽しそうにみんなで暮らす人間の姿を羨んでいました。
樹海の奥は薄暗くて、ジメジメしていて、なんだかいるだけでとっても暗い気持ちになってしまいそう。
僕にもあんなふうに、おしゃべりできる友達がたった一人でもいてくれたら、こんな場所でも楽しく暮らすことができるのかな。と、悪魔くんは夢見ながらつらつらと毎日を過ごしています。
たまに樹海に遊びに来る人間を見つけるけれど、僕が悪魔だからか話しかけてもみんな恐怖しながら逃げ出してしまう。
ちょっとくらい、僕の話を聞いてくれたっていいじゃないか。
そう独り言ちながら樹海を歩いていると、大きな木の枝から垂らしたロープに、首を括った状態でぶら下がっている一人の人間を見つけました。
そうだ。この人間の体を素にして、僕のお友達をたくさん作ろう!
そう考えた悪魔くんは、樹海の所々にぶら下がっている人間の体を集めて、それを素にした小悪魔をたくさん作りだしました。
念願の友達に囲まれて、悪魔くんはとても嬉しそうに毎日を過ごすようになりました。
そんな日々がしばらく続いた頃。樹海の外から人間たちがぞろぞろと悪魔くんのもとにやって来たのです。
悪魔くんは、人間たちが遊びに来てくれたと大喜び。小悪魔たちと踊り、笑い、精一杯人間たちをお出迎えしました。
ところが人間たちは、なぜだか恐怖と怒りをその顔に張り付けて、悪魔くんと小悪魔たちを襲い始めてしまいました。
どうして? なんで、こんなにひどいことをするの?
悪魔くんは、またしても一人ぼっちに戻ってしまいました。
とある樹海の奥深くに、それはそれは恐ろしい一匹の悪魔がいました。
その悪魔は、なぜだかいつも涙をにじませながら、町の人々に災いを振りまいていたそうなのですが、それはまた別のお話。
③朽ち木の魔女
「満月の夜に外に出ると、恐ろしい魔女に魂を奪われてしまう」
なんて話を幼いころから聞かされてきた。
俺の住んでいる村では、その魔女から農作物を守るために、満月の度に魔女に対してお供え物をしている。
と、いうのは建前で、村のみんなはただ恐ろしい魔女なんて与太話にかこつけて、お祭りを開きたいだけなのだ。
焚火をくべ、豪華な料理を囲い、夜が更けるまで踊りあかす。
魔女の言い伝えは、村が設立した初期から存在しているらしいけれど、今まで誰も魔女らしき人影を見たなんて奴はいなかったし、きっと昔の人が子供を早く寝かしつけるためについた嘘とかだろう。
今日は満月の夜。村では、いつものように祭りが開かれ、老若男女問わず食べて飲んでは、踊り狂って騒いでいた。
ふと、村の入り口付近で箒をサッサッと掃いている老婆を見つけた。
「おい、婆さん。そんなところで掃除なんてしてないでこっちに混ざれよ」
遠目からそう声をかけても、老婆は一向に箒を掃く手を止めない。
そんな姿が不気味で。だけど、どうしたのだろうかという好奇心も湧いて。俺は酒の入った器を机に置いて、老婆のもとまで歩いて行った。
年季の入った箒には、葉っぱや埃などのゴミがたくさん付いている。羽織ったローブの隙間から見えた腕は、まるで朽ち木のようだった。
目深にかぶった帽子の中から、不気味な眼光でこちらを見つめた老婆。次の瞬間、「ヒヒヒヒ」という異様な笑い声と共に、老婆は箒に跨って空高く飛んで行ってしまったのだ。
「ま、魔女が出たぞぉ!」
咄嗟に叫んだ俺の声に、祭りに参加していた者たちの視線が一斉に向けられる。
けれど、誰一人として俺の言葉を信じてくれず「酒に酔っている」と小馬鹿にするのみ。
それ以降、俺は真面目に祭に取り組むようになり、魔女の存在をみんなに知らせようと努力したけれど、結局誰にも信じてもらえないまま「ホラ吹き」だと馬鹿にされ続けた。
④せせらぐ光
七月も半ばになり、町がお祭りで賑わっていると「今年も夏がやって来たんだな」と感じる。
屋台を巡る人々の賑わい。笛や太鼓で奏でられた音色に、それに合わせて踊る足音の響き。
鼻に届くおいしそうな香りにお腹がきゅっと締め付けられたと思えば、射的やくじを楽しそうに行っている子供たちの姿に自然と笑みが零れてしまう。
そんなお祭りに賑わうこの町を今夜は、数百もの提灯が優しく照らしてくれている。
今夜だけはと騒ぐ町を明るく照らしている陰の立役者に、僕は他の何よりも夏を感じていた。
日の落ちた夜中でも容赦なく、夏の日々は僕らの日常を熱してくる。
その蒸し暑さに流れた汗が、提灯の放つ光に照らされ流れ星のようにぽたりと地面へと落下した。
提灯の明かりはどこか涼しい。
町を照らす柔らかい光は直視しても眩しくなくて。触れてみればスルリと形を変えて、流動的に僕の手を包み込んできて。
それはさながら、水の光。突き刺してくるような日差しとも、どこか儚さを持つ蝋燭の火とも違う、触れたら溶けてしまいそうな……せせらぐ水のような光。
ふと、一羽の小鳥が提灯の明かりの差す下へと降り立った。
きっと、この小鳥も提灯の放つ光の魅力に、身体を涼ませにやって来たのだろう。
そんな小鳥の姿を習って、僕も提灯の明かりに当てられに行く。
「あぁ、夏が来たな」と呟いた一言に、小鳥は小さく囀りを返してくれた。
⑤朝焼けの月
朝に昇る月の話を聞いたことがあるだろうか。
それは地元のバーで知り合った男から聞いた、ただの噂。酒の肴に聞かされた与太話。
その場にいる者は誰しもがそう思い、男の話をまともに聞いていなかったが、当の本人の口調はいたって真剣なものだったのを今でもよく覚えている。
あぁ、この男は何の根拠もない話を本気で信じているんだな――と、その時は憐れんだけれど、興味本位で話を聞いている内に、段々と自分自身も「朝に昇る月」とやらに惹かれていくようになっていた。
特にやりたいこともない。夢や目標もない。ただ何となく仕事をしてなんとなく生きているだけの人生。一度くらい、馬鹿げた夢を追いかけてみてもいいのではないかと、男と二人旅に出ることを決めた。
それからは、朝に昇る月を求めて、全国各地を探し回った。誰も朝に昇る月のことは知らず、探索は困難を極めたけれど、決して嫌な旅ではなかった。
苦節五年。ついにとある山脈から「朝に昇る月が見られる」との情報を手に入れ、今日遂にその光景を目撃することに成功する。
朝に昇る月。その正体は、昇り始めた太陽の光に照らされた、沈んでいく大きな月であった。
月は決して昇ることはなく、太陽に照らされて徐々に沈んでいくだけ。
それでも、この景色とこの場所に辿り着くまでの時間や経験は、一生の思い出へと昇華するのだろう。
⑥Fly High
この世界を高く、遠く。どこまでも羽ばたいてみたいと夢見ることは、誰だってあることなのだと思っていた。
だけど、決してそんなことはなくって。背丈が大空へと近づくほどに、そんな夢は幻みたいに「思い出」という名の過去に消えていって。
気が付けば、誰もがその目に現実を見始める。生きるという行為にロマンを求めなくなってしまう。
成長するということは、普通という型に自らをはめていくことなのだと知って。そんな当たり前のことが私にとっては苦しい事なのだと知って。
夢に心を躍らせて、瞳を輝かせながら夢を語る私を見つめるみんなの視線に、私だけが一人、大人になれていないんだと思い知らされて。
高く、高く――どれだけ手を伸ばしても、この大空を掴むことはできないんだと。強く、どれだけ強く願っても、叶うことのない夢があるのだと理解して。
それでも私は、この世界で高く、遠く、どこまでも飛んで行きたいと夢見てしまう。
この背中――肩のあたりから二対の翼を生やして、おとぎ話の天使みたいにふわりと、冷たい風に乗って飛んで行きたいと夢見てしまう。
きっと、私はもう〝大人〟にはなれない。普通になることが成長するということなんだったら、私はきっと幼いままなのだろう。
だってこれから先、私は何度だってそんな夢が叶う日を願うのだから。
今月の「一枚絵小説」は以上になります。
これからもどしどし投稿予定ですので、ちょっとした隙間時間などにご拝読いただけますと、幸いでございます。
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