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少女シュウマツ旅行

「絶望と仲良く」
そんなキャッチフレーズで始まる、このマンガをご存知だろうか。

「少女シュウマツ旅行」
音だけ聞くと、可愛い女の子が週末に旅する楽しいマンガかと思いそう。
でも本当は「少女終末旅行」
絶望しかない、この世の終わりが近い世界を旅するというストーリー。

私たちが生きる世界のずっと先、何千年も未来の話。
戦争の果てに、生きるものは、ほとんどいなくなった。
残ったのはわずかな人間と、かろうじてエネルギー循環が残るだけの廃墟。人は上へ上へと、使い捨てのように建物を立て続け、今となっては、地上は全く見えない。そのがれきの上で暮らす少女たち、チトとユーリ。
たった二人で、過去の人間たちが作り、もう管理することのない廃墟と化した高層ビルや植物生産工場、食用魚の生産場、神殿、美術館をさまよい、食料と燃料を探しながら終末世界を旅する。
時に人と出会い、人工知能で生きる機械と出会い、古代(つまり私たちが作った)のアートを見つめる。

人は、そんな絶望の中で何を見出し、何をするのだろう。

主人公の二人は一人の男性と出会う。
廃墟の街をただ一人、歩いて進む彼は「地図を作って」いた。
江戸時代に日本地図を作った伊能忠敬のように、人生をかけて終末世界の地図を作り続ける彼。ひととき彼女たちと交流するが、また一人、地図作りの旅にでる。

そして、二人は別の人物に出会う。
その人は、飛行機を作っていた。古代の飛行機の図面(私たちの時代の人間が作った図面)を使って、飛行機を再現しようとしていた。
飛行機は、主人公二人の手助けで完成する。そして、彼女は、新しい世界を求めて飛び立つ……

全6巻を通して思ったのは、人は、絶望した状況の中でも「何かを作る」ことをやめないんだなあということ。むしろ、希望のない状況だからこそ、何かを作ることに希望を見出しているのかもしれない。

地図を作っていた彼は、地図を作ることで、絶望世界での自分が生きる意味を見つけた。
飛行機を作った彼女は、飛行機を飛ばして、この絶望世界から抜け出そうとした。

そして、主人公のチトとユーリもまた、自分のために日記を書き、二人が楽しむためだけに絵を描く。
絶望の中の唯一の希望が、何かを作ること。

このマンガの中には、発達した人工知能を持った機械も登場する。
彼(機械だけど)は、もう随分長い間、工場を管理し続けている。機械に組み込まれた人工知能は長い年月をかけ、いろんなことを学習していく。ついに、人間の持つ「共感力」さえ身につけて、工場で生きる最後の魚を救いたいを思うようになる。

機械が人間に近づく。機械が感情を持つ。
その世界の中でも、機械はクリエイティビティを発揮することはない。ものづくりから何かを生み出すことはできなかった。
共感力を持てたとしても自ら手を下せない。
機械たちにできたことは、自分を死へと導くことだけだった。

人は、何かを作ることを本能として持っている。
ものづくりは、人の生きる希望で、機械が持つことのできない力。
人は、何かを作らずにいられない。
文章を書く人、絵を描く人、料理をする人、手芸をする人。私は、何にもしないよっていう人だって、子育ての最中で、その子供のために歌を作ってみたり、絵を描いてあげたりしているのではないだろうか。SNSに投稿するために写真をとったり、友達にメールする文章を考えたり、仕事で何かを成し遂げたりしているのではないだろうか。
ものづくりと人が生きることはイコールなのかもしれない。

今の世の中は、AI(人口知能)の進歩が目覚ましいと言われているらしい。
あと20年すれば、単純労働はおろか、士業と呼ばれる仕事さえも、AIに取って代わられるだろうという話を聞いた。人は仕事を失い、路頭に迷う時代がくるのではないかと。

私には、この先どうなるのかわからない。
できれば絶望と仲良くはしたくないな。
もしこの先、AIが発達して、機械が煩わしい仕事を肩代わりしてくれるなら、空いた時間を使って、人間は生きるために、また新しい何かを作り始めるんじゃないだろうか。
それが、地球上にいるすべてのものが豊かに平和に暮らせる方法を見つけ出すという可能性もあるんじゃないかと思いたい。

少女終末旅行の世界は、機械によって生み出された時間と人間のものづくりの力を戦争に使ってしまった。そして世界は終わってしまった。

でも私たちの世界は、まだ間に合う。

残念ながら、今の私に何にもできない。
でも、私の作るものは、自分や自分の周りの人の平和と安心のためのものでありたいなと思う。
それが広がれば、終末世界は避けられるかもしれないなんて、一丁前なことを思ったりして。

絶望と仲良く暮らすチトとユーリを見ながら、そんなことを考えた。


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