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SF『マルチバース調整庁SM管理局』(1)

あらすじ
地球の30億ほどある類似マルチバース(並存世界)での実験を管理するオーバーロードによる官庁に、新たな人事発令により管理官が1人加わった。仕事は、あるバースの地球で密かに彼らが地球人に対してプログラムした「ソウルメイト制度」の潤滑な運用への監視。地球も21世紀にはいってからの情報革命でSNSの拡散で「素人が書き綴った言葉」がその制度の存続を脅かすほどの破壊的力を持つことがわかり、ある同性カップルのブエノスアイレスでの出会いが、オーバーロードが意図したデザインを逸脱して暴走していきそうになるのを目の当たりにして新米管理官はどうするのであろうか。


地球と他に30億ほどある類似マルチバース(並存世界)での実験を管理する官庁に、新たな人事発令により管理官が1人加わった。

「よろしくおねがいします、局長」

年はみたところ2億歳くらい、人間の歳でいったら20代の元気そうな若手のオーバーロードが頭を下げる。

「ソウルメイト管理局へようこそ。こちらこそ、よろしくおねがいします」

そう言って、グレイの髪の毛がめだってきた初老のオーバーロードの局長が手を差し伸べる。そう、オーバーロードも年をとれば体の色素が抜けていくのである。これは地球人に似ている。

局長は続ける。

「管理官としての仕事の詳細は係長からきいてください。たしか、あなたには2億5034番目の地球でのソウルメイトの管理を担当してもらうと聞いています。現時点で50億ほどのペアを担当することになるはずです。ソウルメイトがらみの仕事は私も若い頃にやりましたが、なかなかおもしろい仕事ですよ。時にかなりのフラストレーションがたまることもありましたが」

そう言って、一番左端の目でいたづらっぽくウィンクする。

「局長、初歩的なことをお聞きしていいでしょうか」と新米管理官。

「かしこまった口調はやめましょう。どんなこと?」

「ソウルメイトなんですが、なぜこんなまわりくどい設定を2億5034番の地球では盛り込んでるんですか?」

「ん?君はマルチバース公務員試験乙でも優秀な成績だったやつだと聞いていたが、そんなことも知らんのかね。基本中の基本だがな」

「ほかのバースとの比較でもこの2億5034番はこのソウルメイトの導入で複雑系指数が上昇したというのは受験勉強で覚えてるんですけど、なんでわざわざペアリングしておきながらライフごとに履歴をリセットして探させる面倒さが必要なのか、正直、腑に落ちないんです。平均67%の未達率の設定も意味がわかりません。毎回の性別設定もランダムだったり。無駄が多いと思うんですが」

「きみはまだ2億歳か、若いな。人生はな、複雑で面倒なほうがおもろいんや。それが我ら先輩の仮説のポイント」

「おもしろいのと、文明の発達の成熟度とが果たして比例するのかはまだ検証されてないと聞きますが。もちろん、30億のマルチバースのうち10億が既に自滅してしまっている中で2億5034番は比較的おもしろい発展をしながら存続しているという事実は知っていますが」

「まあ、ぼちぼち学んでね。落ち着いたら、局の若い子連れてみんなで一度飲みに行きましょう」

こうして新米ソウルメイト管理局管理官M23943の新たな仕事が始まった。

(続く)

タイトル画は、Note Galleryからソウルメイトで検索して出てきた(AIがみつけた?)のから拝借。ポルトガルのサッカーで有名なクリスチャン・ロナウドことクリロナ、じゃなくて、クリオナの綺麗なイラストですね。

#創作大賞2023 #ファンタジー小説部門

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